「不動産投資で失敗してしまった」と感じている相談者に、不動産投資家でファイナンシャルプランナーの五十嵐未帆さんが厳しくも愛のあるアドバイスを送るこの企画。これまでに2人の相談者が五十嵐さんのアドバイスを受け、それぞれ収支改善に向けて行動を始めています。

3人目の相談者は、2017年に新築の木造アパートを2棟立て続けに購入したという愛知県の会社員・山井泰さん(仮名・48歳)。2物件とも返済比率が高い上に、初年度から退去が多いことを不安に思っている、という相談です。

新築2棟を立て続けに…

soud

今日はどうぞよろしくお願いします。

igar

よろしくお願いします。さっそく今の状況を教えてください。

soud

2017年に新築で購入した木造アパート2棟の返済比率が高いことに悩んでいます。また、業者に提示された入居率のシミュレーションは初年度が100%、それ以降は96%という内容だったんですが、初年度から2室退去が出て、それもかなり心配しています。

igar

どうして不動産投資をしようと思ったんですか?

soud

長期で安定した副収入が欲しいと思っていた時期が、ちょうど不動産投資ブームだったというか、マスコミでも「不動産投資はミドルリスクミドルリターンで安定した収入が見込めますよ」と。マスコミや業者に踊らされて、良い面だけを見て飛びついてしまった部分はあります。

igar

この2物件を買った決定的な要因はありますか?

soud

1棟目は地下鉄の駅からも近く、比較的大きな通りに面していて、ここなら入居者も長期でつくかなと。2棟目は名古屋駅から自転車で行ける距離で、業者さんのプロの目線から見ると、ここなら問題ないですよということで、なんとかいけるのではないかなという判断でした。

返済地獄が待っている

igar

正直に申し上げます。これは身の丈に合わない借金で、返済地獄が待っている投資だったと思います。

soud

そうですか…。

igar

楽待のCFシミュレーション機能を使って、1棟目の収支を試算してみましょうか。

クリックで拡大

igar

CFは当初からずっとマイナスで、最終的な累計CFはマイナス3375万円というシミュレーションになります。

soud

ひどい状態ですね…。

igar

そうですね。これから問題点を一緒に考えていきましょう。まずは業者さんからもらった資料の問題点について指摘していきます。

土地を殺している

igar

まず用途地域が近隣商業地域で、建ぺい率80%、容積率300%なんですが、この条件でどれぐらいの建物が建てられるか計算しましたか?

soud

正直、そこまでわからなかったですね。

igar

重要事項説明書を見ると道路幅員による容積率の緩和があり、容積率が366%になるので敷地面積158平米×366%=578平米の建物が建てられる。それなのに、この物件は3階建て9室で延べ床面積が200平米しかない。つまり、半分ぐらいしか土地を有効活用できていないんですね。

soud

業者に「3階建てにしましょう」と言われ、「そうですか、はい」と鵜呑みにしてしまいました。

igar

広い道路に面していて名古屋から20分ぐらいで行けるという、とてもいい土地なのに、非常にもったいない。私だったら例えば、20平米×4戸の5階建て20戸とか、25平米×3戸の6階建て18戸とかを考えます。もちろん建築の金額はかかるんですが、収益性が倍以上になっていた可能性があります。

soud

この土地に対して木造では9戸が限界なのかなあと思っていました。

igar

木造の4階建てを建てられる業者さんは限られてくるんですが、重量鉄骨やRCなら施工費はかかったとしても収益性は全然違いましたよね。業者さんが木造3階建てしか建てられないという時点で、この土地を殺してしまってますね。

悪意を感じる利回り計算

igar

利回りは計算しましたか?

soud

業者が提示した資料の利回りをそのまま信じて、細かいところまで気づかなかったですね。

igar

年間家賃収入583万2000円を物件価格9314万4000円で割ると6.26%になるんですが、資料には6.47%と記載されている。少しでも利回りを良く見せようとして正しい利回りを載せていないという点で、業者さんの悪意が感じられますよね。その収入を得て事業をするということで、とても大切な数字になりますので、ぜひこれからはご自身で計算してください。

soud

わかりました。

igar

この6.47%という数字はどうやって出ているのか…。とりあえず建物価格の中の「建物に関わるその他工事費用」を引いてみると6.3%。外構代を引いても6.39%…まだ届きませんね。消費税を抜くと6.5%ぐらいになりますが、消費税364万4000円も引いちゃダメですよね。金額が大きくなればなるほど、利回りのちょっとした差がすごく大きな金額になってきますので、ぜひそこは確認するようにしてください。

楽観的なのがまずかった

igar

次の問題点なんですが、物件価格9314万4000円に対して融資金額が9240万円ということで、ほぼフルローンですね。フルローンで金利2.3%・35年という条件についてはどう感じましたか?

soud

シミュレーションを見て、35年目でも家賃収入から返済できるということだったので…なんとかなるのかなぁ、と。

igar

なんとかなる……。楽観的な方ですか?

soud

はい、楽観的です。そこがまずかったんでしょうね。

igar

木造の法定耐用年数の22年で融資を引いていたらCFが全然出ないんですね。融資期間を長くするのは、CFが出ない物件を出るように見せかけるためのマジックです。

soud

なるほど…。

igar

返済比率は計算しましたか?

soud

実は土地を見た後にちょっと契約を急かされたんですよね。「次も見学入ってますよ」「早めにご決断ください」みたいな。だから、そのあたりはあまり深く考えられていませんでした。

igar

典型的な悪徳商売ですね。しかし、1億円の借金をするのにあまり考えていなかったというのは問題です。

soud

おっしゃる通りです…。

igar

私の場合は基本的に返済比率を50%未満に抑えていますが、この物件は66%とかなり高いです。単純計算で返済を引くと34%ですが、月で考えると1室空いただけで11%減になり、管理費が5.4%、それに光インターネットや清掃費で8%ぐらいかかってくる。これで広告費や原状回復費が発生したら、その瞬間にすぐ手出しになってしまう危険ゾーンの返済比率だったと思います。

soud

買う前に自分で計算するべきでした。

igar

イールドギャップ(表面利回り-借入金利)はご存じですか? そこも見ていなかったと思うんですが、この物件のイールドギャップは4.17%と低い。これは投資効率が悪く収益性も低いということを示しています。もし次に物件を買うことがあればこの数字は必ず確認してください。

門前払いは当然

soud

複数の金融機関に借り換えを打診したんですが、門前払いされました。

igar

物件の評価は自分で計算しましたか? 積算評価収益還元評価はご存じですか?

soud

それらも知ってはいますが、計算はしていないですね。

igar

ご自身で計算した物件の評価がどれぐらいあって、その上で収益を改善したいので…という相談の仕方ならともかく、物件の評価もわからずに金融機関に当たっても聞いてもらうのは難しいです。まずは積算評価を出してみましょうか。

soud

はい、ぜひお願いします。

igar

全国地価マップというサイトで路線価から計算すると、土地2970万円+建物3007万円でだいたい5970万円。物件価格が9314万円なので、3000万以上高値掴みしていることになります。こういう計算方法を知っておくだけで、この物件がダメだということはすぐにわかる。

igar

次に収益還元評価も計算します。このあたりのエリアの利回り相場が7.3%なので、年間家賃収入を7.3%で割ると7989万円。積算評価でも収益還元評価でも物件評価が出ないとなると、年収2000万、3000万の高属性の方なら借り換えも可能なんですが、普通の年収のサラリーマンでは難しい。

業者のシミュレーション

igar

業者さんが出してきたシミュレーションについて細かく見ていきます。まず入居率が35年間ずっと96%ということなんですが、これはありえません。私は新築でも必ず90%で見ますし、築20年以上の中古だったら80%で見なければならない。

igar

あとは家賃が21年目から35年目まで全部一緒なんですが、ここはチェックしましたか?

soud

完全に素人だったので、気づきませんでした。説明の時も「これこんな感じなので大丈夫ですよ」みたいな感じでサラッと言われてしまったので、そこまで突っ込めなかったというか…。

igar

本当に家賃が下がらないかどうか調べてみましょうか。賃料相場のサイトを見ると、このエリアで同様のスペックの物件は築20年以上だと共益費込みで3万4000円になっています。そうなると年間の家賃収入は367万2000円ですが、このシミュレーションだと507万円入ることになっている。相場から考えるとここまで家賃が下落する可能性があるというのが現実です。

soud

アカですね、完全に…。

金利変動リスクを考えて

igar

次に金利ですが、2.3%というのは変動ですか、固定ですか?

soud

変動でした。

igar

今は金利の上昇局面なのでこれから上がる可能性がありますが、そういった説明はされませんでしたか?

soud

それはないですね。

igar

私の場合は金利変動リスクを考えて、仮に1%台半ばで引いたとしても、4.5%で引いた場合にキャッシュが出るかどうかという計算をします。本当はそれぐらいの金利ストレスをかけても回る物件でないと買ってはいけない。

soud

そうだったんですか…。

igar

あとは原状回復費等が10万円という試算になっていますが、固都税や管理費などを除いた費用が年間10万円で済むと思いますか?

soud

思わないですね…。原状回復費は1件退去が出ればそれぐらいかかりますし、広告費も同じぐらい取られるので。

igar

そうすると、2室空いた時点でもうマイナスになりますし、水道光熱費などもここに入ってくるとなりますと、10万円という経費の見積もりが甘いんじゃないかと思います。

soud

たしかに、もう少ししっかりと資料を見ておくべきでした。

igar

ちなみに、2棟目もシミュレーションは35年目の累積CFがマイナス3618万円ですね。