女性、アパート、退去

PHOTO: iStock.com/S_Kazeo

不動産投資で成功を収めるためには、「良い物件」を「良い条件」で購入することも重要だが、購入後の「管理」も大きな要素になってくる。管理委託をするオーナーにとっては、優秀な「管理会社」を選び、将来にわたって良い関係を築いていくことが大切なポイントといえるだろう。

しかし、管理会社の業務は入居者募集や日常清掃、クレーム対応、滞納督促、退去立ち合いまで多岐にわたり、管理会社によっては1人で1000室ほどの管理を任されている社員も存在するなど多忙を極めている。不動産仲介・管理会社に勤務経験のある不動産ジャーナリスト・小林紘士氏は「管理の現場では、忙しさのためオーナーに報告すべき内容を報告しないケースも多々ある」と指摘する。

今回は、小林氏が「管理会社がオーナーに報告しなかったこと」として2つの事例を紹介する。長期的なパートナーとなる管理会社と、あらためて報告の線引きなどについて話し合うきっかけにしてもらえたらと思う。

すべてを報告するわけではない

賃貸住宅管理の現場では、さまざまなことが起こる。

もちろん、管理会社としては責任問題になることは避けたいという思いがあり、管理物件で何か問題があればできるだけオーナーに報告、相談する。しかし現実問題として、すべてをオーナーに報告できるわけではない。賃貸専門の大手をはじめ、地元の中小不動産会社でも管理戸数が多ければ人手が足りていないのが実態なのだ。

そうなると当然、管理会社あるいは担当者の判断で、問題が発生した場合にどこまでオーナーに報告・相談するかを取捨選択している。ちょっとした入居者間のトラブルや自治会からのゴミ出しのクレームなど、管理会社ですぐに対応して解決できてしまえばオーナーに報告しないことも多い。

報告しない理由は、「忙しくて報告する時間がない」といった管理会社側の都合が多いが、中にはオーナーが細かい人で、1つ報告すると次から次へと対応することになるためあえて報告しないというケースもある。逆にオーナー側でも、問題が解決していれば特に報告はしなくてもいい、あるいは小さな問題ならかえって報告は面倒だから不要、という人もいる。

つまり、管理上の出来事をどこまで報告すべきか、という線引きは非常に微妙なところといえる。

前置きが長くなったが、筆者が過去に見聞き・経験した「管理会社がオーナーに報告しなかったこと」の中で、「これを報告しないのはどうなのか」と感じた事例を2つ紹介する。オーナーの知らないところで問題が発生している可能性がある、ということを頭の片隅に置いてもらうことにつながればと考えている。

「誰かに見られている」

都内の不動産会社が管理していた、東京・北区の賃貸アパートで起きた出来事。

8月のある日、1階の部屋に住む20代前半の女性入居者から「退去したい」という連絡があった。退去理由を尋ねると、「窓の外から誰かに見られている気配を感じることが何度かあり、気になっていた」「数日前、アパートの前に特徴のある柄のTシャツを着た若い男性が立っていて、自分が部屋に入るまで見られていて気持ち悪くなった」という内容だった。「夜に帰宅して玄関のカギを開けているときにも視線を感じたことがある」とも話していた。

実はこのアパートでは、3カ月の間に他の部屋で女性入居者の退去が2件あり、この連絡で3件目という状況だった。他の2人の退去理由は「実家に戻る」と「ほかに引っ越したい家が見つかったから」というもので、今回のように事件性があるような話ではなかった。しかし、担当者は「今回と同じような何かがあったのなら厄介な話だ」と考えた。

そこで2人に連絡をしたところ、「実家に戻る」という退去者とは連絡がつかなかったが、「ほかに引っ越したい家が見つかった」という退去者には話を聞くことができた。その人によれば、やはり「下着を外に干しているときにじっと見られていた気がする」「帰宅時に視線を感じた」といった理由で引っ越しを考えるようになったということだった。

この女性は当時、「実際に見つめる人物を見ているわけでもなく、気持ち悪い感じがするというだけでは退去理由にならない」と思って言わなかったそうだ。単純に話したくなかったという思いもあるだろう。この時は「人に見られているなど、何か気になることはありませんでしたか」と水を向けた時に話してくれたそうだ。

再発を防ぐために

担当者は、同じアパート内に不審者がいるのではないか、と想像した。もしそうであれば、この先も同じようなことが起こる可能性がある。苦労して新たな入居者をつけても、また同じような理由で退去が繰り返されるのは管理会社としても堪らないし、オーナーにとっても大きな問題だ。

はじめは物件の掲示板に注意喚起を貼りだそうと思ったが、逆に入居者に不安を与えて退去が増える可能性を懸念し、取りやめた。そこで入居者には申し訳ないが、退去者から「若い男性」という目撃情報を得ているため、男性の入居者に限定して注意喚起することにした。

女性が退去したという事実は伏せ、「このアパートの入居者が外部から見られているという連絡があり、そうしたことを目撃したら連絡してほしい」という体際にした。仮に同じアパート内に不審者がいれば、再発を防ぐのにつながると考えたのだ。

出てきた男のTシャツが…

訪問日。入居者が帰宅していると思われる夜間に物件担当者と補助者の2人で1部屋ずつ回ることにした。位置的に直近で退去した部屋の玄関を見ることができる部屋から訪問をしたところ、1部屋目で玄関に出てきた入居者の男性を見て驚愕した。退去した女性が挙げていた「アパートの前でじっと見ていた男」の特徴とほぼ同じ柄のTシャツを着ていたのだ。

担当者はあまりに話ができすぎているような気もしたが、予定通り「こうした人物を見たら連絡をしてほしい」「この話は他の部屋の入居者にもすべて注意喚起する」と伝えた。実際にはこの1室だけの訪問にとどめ、様子を見ることにした。

すると、その後1年以上経っても、ストーカーまがいの理由で退去する人は発生しなかった。女性が退去する際には「何か気になることはありませんでしたか」と細かめにヒアリングしたが、不審な点は見つからなかった。

さてこの件だが、管理会社の担当者いわく、オーナーには「退去した女性がストーカーのようなことがあって気になって退去したんですが、次に同じようなことがあれば警察に相談します」としか説明していないという。陰で管理会社がどう動いていたか、特に訪問までして注意喚起したことは一切伝えていない。

つまり、現在の入居者の中に、少なくとも2人の女性の退去原因となった可能性が高い人物がいる、という事実をオーナーは知らないままだ。