事業協力者住戸、マンション

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先日、東京・千代田区の石川雅己区長が所有する18階建ての高級マンションが、一般に販売されない「事業協力者住戸」であったことが報道された。報道によると、1戸1億円以上の高級マンションで、一般向けの販売は抽選となった人気物件。区議会からは「購入経緯が不透明だ」という声が上がったようだ。

この「事業協力者住戸」。新築分譲マンションの物件概要などで目にしたことはないだろうか。例えば、「総戸数:500戸(地権者住戸120戸、事業協力者住戸30戸を含む)」といった具合だ。しかし、その意味を正しく理解していない人も多いかもしれない。

「事業協力者住戸が設けられたマンションは『間違いなく儲かる』と言われることがあるが、一般の人は購入することができない」―。住宅ジャーナリストの櫻井幸雄氏はそう語る。

実際に不動産投資家から「どうすれば事業協力者になれるのか?」と質問を受けることも多いという櫻井氏に、「事業協力者住戸」という言葉の裏にあるものについて解説してもらった。

「分譲住戸」と「非分譲住戸」

新築分譲マンションには「非分譲住戸」というものがある。

これは通常の「分譲住戸」とは別に、一般の人には売り出されない住戸のこと。売主の不動産会社が賃貸住宅として活用するケースのほか、元々の土地オーナーが土地を提供してマンションを建ててもらい、完成後にそのマンションの一部住戸を所有するという形もある。後者は土地オーナーが保有する土地とその土地に建つマンションの一部を等価で交換する方法で、「等価交換方式」と呼ばれる。

この非分譲住戸には、「地権者住戸」というものもある。

地権者住戸は、もともとその建設地に住んでいた人たち(地権者)のための住戸である。マンションの建て替えによって新しいマンションがつくられる場合、前のマンションに住んでいた人たちが新しいマンションにも自分の住戸を持つ。それが地権者住戸だ。戸建てが建っていた場所にマンションが建設される場合は、もともとその地にあった戸建ての所有者のための住戸が地権者住戸となる。

これらとは別に、近年、非分譲住戸に増えているのが「事業協力者住戸」というもの。これは、前述した「地権者住戸」のことだと思っている人が多いのだが、正確に言うとそれは間違い。事業協力者住戸は非分譲住戸の中でも特殊な存在といえる。

今回は、この事業協力者住戸の実状について解説したい。

「不動産会社の都合」が混同を生み出した

まず、地権者住戸と事業協力者住戸の違いについて。

地権者住戸は「もともとその地に住んでいた人たちのための住戸」なのだが、事業協力者住戸はそうではない。そして、地権者住戸があるときから事業協力者住戸と呼ばれるようになった、というような事実もない。

ところが、不動産会社の中には「地権者住戸は事業協力者住戸の一部」と定義するところもあり、その影響もあって多くの人が漠然と事業協力者住戸と地権者住戸は同じものと感じている。

事業協力者住戸とは何かということを説明する前に、なぜ地権者住戸と事業協力者住戸が混同されるようになってしまったのか解説したい。

たとえば、全100戸のうち一般に分譲されるのは70戸、残り30戸は事業協力者住戸となるマンションがあったとする。物件概要にそのような表記があれば、当然ながら一般の購入者から「事業協力者住戸って何?」という質問が出てくる。

この質問に対して、不動産会社の担当者は「もともとその地に住んでいた人たちなどです」と答えるのが普通だ。しかし前述した通り、本来「もともとその地に住んでいた人たち」は地権者のことで、事業協力者と呼ばれる人たちではない。

事業協力者は「もともとその地に住んでいた人たち」の後に付けられた「など」に含まれている。

不動産会社としては、分かりやすい「地権者」を表に出し、本当の事業協力者を裏に隠したかったのだろう。好意的に言えば、「お茶を濁した」のであり、悪く言えば「ごまかした」のである。この「ごまかし」が世にはびこったために、地権者と事業協力者が混同されるようになってしまったと考えられる。

「事業協力者」という言葉の奥にあるもの

では、事業協力者とはどんな人なのか。言葉の意味からすれば、「マンションを分譲する事業に協力してくれた人たち」となる。

たとえば、マンションを建設した結果、日陰になってしまった戸建ての住人や、駅までの道が遠回りになってしまった戸建ての住人…。そういった人達がマンション建設を認める見返りに、「住戸を1つ優先的に販売してくれ」と言ったとする。「他の住戸は抽選になったとしても、私は無抽選で買えるようにしてほしい」と。この場合に「事業協力者」という枠を設け、優先的にマンションを購入できるようにした。

以上が「事業協力者」の説明として最も理解しやすいものだ。しかし、そのようなケースが数十戸分もあるとは考えにくい。

事業協力者の大部分はそのような人ではなく、ズバリ「上得意様」である。これまでに多くのマンションを購入してくれた人…大部分は資産家だろうが、その人たちは不動産会社にとって上得意となる。上得意は事業協力者として、優先的に住戸を購入できるように優遇されているわけだ。

「困っていたときに助けてくれた人たち」

事業協力者と呼ばれる人たちは、これまで多くのマンション住戸を買い続けてきた。マンション不況と言われた時期も、「今の価格水準は高すぎる」と言われた時期もマンションを買った。中には、不動産会社に泣きつかれて仕方なく購入するケースもあったはずだ。結果としてそれらはほとんど値上がりしているので、損をするケースは少ないのだが、不動産会社に頼み込まれてマンションを引き取った、という経験もしているだろう。

困っていたときに助けてくれた人たちなので、不動産会社は多くの人が購入したがるマンションがあったら「事業協力者住戸」を設けてお返しをする。そういう事情があるのだ。価格は抽選に当たった一般人と同じなので不動産会社にとって損はなく、上得意に売ればまた買い続けてくれる可能性があるわけだ。

ひとつ断っておくと、全ての不動産会社が「事業協力者住戸」を設けているわけではなく、不動産会社によっては一切事業協力者住戸を設けず、すべて公平に分譲しているところもある。一部の不動産会社が、ある種の物件にだけ事業協力者住戸を設けているのが実状だ。

千代田区長の一件は議論を呼んでいるが、事業協力者住戸といってもタダで譲渡されるのではなく、正規の代金を支払うため、それ自体は違法とはいえない。しかし、許認可の決定権をもつ立場の人間が事業協力者住戸を購入しているとなると、道義的に問題ありと言わざるを得ないだろう。