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4月1日、とうとう改正民法が施行されました。今回は、改正民法で新設された「保証人に対する情報提供義務」を取り上げます。

具体的にはどのような内容なのか、オーナー側が注意すべき点はあるのか、阿部栄一郎弁護士に解説してもらいました。

新設された「情報提供義務」

保証人に対する情報提供義務は、改正前の民法には定められておらず、改正後の民法(458条の2)で初めて定められたものです。

建物の賃貸借において、保証人は、通常であれば賃借人(入居者)の賃料の支払状況などを知ることはできません。しかし、もし入居者が賃料を支払わなかったら、保証人はオーナー側に対して賃料相当額(遅延損害金が発生する場合には、遅延損害金も)を支払わなければなりません。

これまで、オーナーが入居者の賃料不払いを長期間放置し、滞納賃料が高額になった時点で、保証人に対して請求をするという事案も発生していました(前回のコラムを参照ください)。

そこで今回の改正民法では、保証人の保護のため、賃料の支払いなどといった情報を、保証人の請求に応じて提供する義務を定めました。

どのような内容なのか?

改正後のポイントは以下の4つです。それぞれ順番に見ていきましょう。

1.委託を受けた保証人であること

情報提供を受けるためには、委託を受けた保証人である必要があります。「委託」というと聞き慣れないかもしれませんが、賃貸借契約では、実務上はすべての連帯保証人が委託を受けている保証人であるといえます。なお、情報提供を受ける保証人は法人・個人を問いません。

2.保証人の請求があったときに対応すべきこと

改正民法は、「保証人の請求があったとき」に、情報提供をすれば良いとしており、定期的な情報提供の義務を定めているわけではありません。

ですので、オーナー側は保証人からの請求があった際に対応すれば構いません。事前に、保証人との間で情報提供を求める際の請求書面のフォーマットなどを合意しておけば、対応がしやすいと思われます。

管理会社に依頼をしている場合には、管理会社が対応することになると思いますから、それほど気にする必要はないでしょう。ただ、管理会社からオーナーへの確認や報告は発生するでしょうから、情報提供義務があること自体は把握しておいていただければと思います。

3.遅滞なく情報提供すべきこと

改正民法では、情報提供は「遅滞なく」すべきとしています。

「遅滞なく」との文言では、何日以内にという具体的な日程は明らかにはなりません。しかし過去の裁判例(大阪高等裁判所昭和37年12月10日判決)によると、正当な、または合理的な理由による遅滞は許容されるとされています。

例えば、震災などで対応ができない、今回のようなコロナウイルス騒動で休業せざるを得なくなった…ということであれば、正当な、または合理的な理由と言えると思われます。

ちなみに、法律用語で期限などを設ける際に使われる用語としては、「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」という文言がありますが、直ちに、速やかに、遅滞なくの順番に即時性が緩やかになっていると解釈されています。

さて、「遅滞なく」情報提供をするためには、保証人からの請求に備えて、きちんと情報管理をする必要があるでしょう。多くのオーナーは入居者の情報管理も管理会社などに任せていると思いますが、特に自主管理をしている人は自分で情報管理をしなければなりませんので、情報提供すべき情報をすぐに確認できるようにしておいた方が良いでしょう。

4.情報提供の対象

情報提供の対象となるのは、賃貸借契約についていえば、賃料の不払い、原状回復費用の不払い、その他入居者の行為によってオーナー側に損害を与えた場合の損害賠償などです。

条文上は、「主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報」となります。

こういった内容は、きちんと情報管理をしておいた方が良いでしょう。

情報提供しない場合にはどうなる?

仮に、保証人に対して情報提供をしなかった場合、どうなるのでしょうか。

さすがに、保証債務自体が免除されるということはないでしょう。しかし、遅滞なく情報提供をしていれば発生しなかったであろう遅延損害金などについては、保証人が支払義務を免れる可能性はあります。

この点は、今後の裁判例の集積を待つ必要があります。