PHOTO:まちゃー/PIXTA

世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっている。

日本では2月下旬から感染拡大が顕著になり始め、3月に入ると訪日外国人数が激減。この影響で観光業の落ち込みが深刻化しているが、ここにきて外国人向け物件を取り扱う不動産業者などにも暗雲が漂い始めている。

日本政府が中韓を中心に外国人の入国制限政策を取ったため、在留外国人が一斉に帰国、外国人投資家らも日本から脱出してしまったためだ。コロナショックを受け、日本国内から外国人が消え去った不動産業界の現場は今、どうなっているのか。

50件のはずが5件に

3月中旬。東京・池袋にある、外国人向け賃貸物件の仲介・管理を扱う不動産会社T社を訪問した。この時期は日本人、外国人を問わず、大学進学を控えた学生や新社会人らが次々と店舗に押し寄せる繁忙期。特にここ数年は外国人留学生や外国人就労者が増え続けていたため、T社は猫の手も借りたいほど多忙を極めていた。

ところが、筆者が訪問した日は客の姿はなし。閑散とした店内には、有線放送から流れるポップな音楽が空しく響き渡っていた。不測の事態に直面した社長のI氏はこう嘆く。

「2月上旬までは例年と同様、客足が途絶えない状況でした。なので、今年も昨年と同等、またはそれ以上の案件数を見越していたんです。ところが、3月に入ってからは客足がパタリと止まりました。こんなことってあるんですね…」

T社でははここ数年、留学生や在留外国人への賃貸に力を入れており、複数言語が話せる外国人従業員を積極的に採用してきたという。しかし、「今となってはそれも裏目に出た感じです。3月に入ってからは外国人のお客さんが全く来店しませんから」。

同社の2月の計画では、中国人、ベトナム人留学生を中心に1カ月で約50人ほどの外国人に物件を紹介する予定を立てており、3月中旬に集中するはずだった、内見予約や契約の手配を整えていた。

しかし、日本国内でのコロナウイルスの感染拡大が進むにつれ、客からの来日キャンセルの連絡が急増。現時点(3月下旬)で契約にこぎつけた案件はわずか5件にとどまるという。

「留学生のキャンセルは日本政府の入国制限の影響が大きい。特にウチは中国人留学生の割合が高いので、影響をモロに受けた感じです。何人かの中国人留学生は、日本の入国制限の影響を受けないように来日を早めることも考えたそうですが、現地の親御さんや知人に『中国も危険だが、これから日本はもっと危険になる』というような事を言われたようで。泣く泣く来日を延期したお客さんもいました」(I社長)

外国人の「一斉退去」がオーナーを直撃?

一度来日して渡航制限がかかると、再帰国は難しくなる。実際に日中間を往来する航空便が次々に運休したことを考えると、相次ぐキャンセルはある程度仕方がないとも言える。ただ、問題は物件管理を任せてくれているオーナー側だろう。今回のコロナ余波で外国人入居者をアテにしていた物件オーナーは空室リスクを負うことになりそうだ。

I氏によれば、3月に入り外国人が入居する物件管理にも影響が及び始めているという。

例えば池袋にある同社管理物件。2月末までは全12室中6室に中国人が入居していたが、3月に入ると帰国を理由に退去予告者が続出。物件を保有するオーナー側からは、4月以降の空室を埋めるよう懇願されている。

外国籍でも入居可能な物件に加え、池袋駅西口から徒歩5分という好立地。ここ数年は黙っていても満室稼働が当たり前だった。それが現状では4月以降、4部屋が空室になる。管理するT社やオーナー側にとっても今回の災禍は死活問題だろう。

原状回復費を請求できない

これ以外にも、物件オーナーや管理会社が懸念する問題がある。現入居者の家賃滞納や原状回復費用の請求だ。

コロナウイルス騒動の世界的な拡大もあり、各国が突発的に独自の入国制限や渡航禁止要請を発表している。留学生を中心とした在留外国人の中には帰国を余儀なくされる人も多い。この結果、現入居者や3月末に退去予定だった外国人住人に今後家賃滞納や原状回復費用請求でのトラブルが噴出する恐れがある。

「これまでの中国人入居者は、退去後も日本国内に留まる人が圧倒的に多かった。そのため、比較的容易に連絡を取ることができました。でも、今は大半が母国に戻ったようですから。一時帰国なのか、今後日本に戻ってくるか。それすら把握できない。この状況下で原状回復の費用請求をしたところで応じてくれるかどうかもわからない。中国人の良心に期待したいところですが、損害がどのぐらいになるか不安です」(I氏)

コロナ危機を「チャンス」と捉える外国人投資家

またコロナ禍は外国人投資家の動きにも微妙な変化をもたらしている。

彼らはここ数年、東京五輪を見据えて都心の高級区分所有やビル購入を積極的に購入していた。だが、ここにきて買い控えの傾向が出始めていると言う。中でも中国人投資家はコロナ余波を受け、次々に母国に帰国。隣国から刻々と変化する日本の状況を静観しているようだ。

東京・新宿で中国人投資家を相手にする不動産会社の従業員に話を聞くと「購入意欲はコロナウイルス騒動前とあまり変わらない。ただ、今は物件の値崩れを待っている感があります」と話し、こう続ける。

「コロナの影響で、中国人投資家の動きは2月末以降、急激に減速しています。それでも、都心の物件に関心がなくなったわけではない。メールやSNSでの問い合わせはコロナの騒動前より多くなっているからです。しかも、その大半は物件価格に関するもの。コロナで資金繰りが悪化した企業が自社保有物件や社員寮などを売却する動きが出始めているため、そうした物件を手頃な価格で購入したいという要望が3月中旬から出始めている。コロナの危機をチャンスと捉えているようですから。現在のコロナ騒動が少しでも終息に向かえば、すぐに都心物件を買い漁る可能性すらあります」

現在、開催の是非が問われている東京五輪に関しては「延期」こそあっても「中止」になることはないはずだ。となれば、都心の不動産需要は一時的に停滞する可能性はあるものの、まだ拡大の余地は残ると判断しているのだろう。

終息時期が予測できない新型コロナウイルスの感染拡大で、世界はかつてない窮地に追い込まれているが、歴史を振り返れば、難局後には経済活動の活発化が予想される。

思考を前向きにすることで新たなビジネスチャンスを得る可能性もある昨今。不動産業界、投資家らは冷静に状況を分析しながら次の一手に備える準備を整えるのが最善策なのかもしれない。

(佐野真広)