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新型コロナウイルスの影響が長引く中、勤務先の経営状況悪化などにより収入が減少し、家賃が払えなくなる人が出はじめている。

入居者の視点では、生活の最も重要な基盤である「住まい」を失うことは是が非でも避けたい一方、大家にとって入居者からの家賃は生命線でもある。金融機関への返済がある以上、家賃が入らないとなれば返済に支障をきたしてしまうおそれもある。

編集部はオーナー約200人にアンケートを実施。家賃滞納の有無や、入居者からの相談にどう対応するつもりなのかについて聞いた。また、家賃に関する相談についてオーナーはどう対応すべきか、弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の阿部栄一郎弁護士に話を聞いた。

※アンケート実施概要
調査時期:2020年3月31日~4月1日
有効回答数:192

1割の大家が早くも「コロナ滞納」を経験

まず、今月1日までの間に新型コロナウイルスの影響による家賃滞納が発生しているか、という問いには、11%に当たる21人が「発生している」と回答。7日に発令された緊急事態宣言以降、経済への影響がさらに深刻化すれば、4月末の家賃にもこれ以上の影響が出る可能性が高そうだ。

 

このほか、「入居者から家賃の支払いに関する相談を受けたか」という問いに対しては、7%に当たる13人が「相談を受けた」と回答している。以下に入居者からの相談内容の一部を紹介する。

入居者から受けた家賃に関する相談の内容(回答より一部抜粋)

・「コロナの影響で自宅待機となったら、最悪の場合6割の給与しかもらえない。その場合家賃を待ってもらえますか?」という相談を受け、対応する旨を伝えた。(大阪府/50代/男性)

・緊急融資を受ける予定だが実行日がまだわからないので、来月の家賃は融資実行日が確定次第支払いたいと相談を受け、許可した。
(愛知県/40代/男性)

・新型コロナで資金繰りが厳しいため、とりあえず1カ月だけ家賃の支払いを先延ばししてほしいとのこと。事情もよく分かるので了承した。
(大阪府/30代/男性)

更新料を無しにしてほしいという相談を受けた。
(東京都/40代/男性)

このほかにも、「倉庫を貸している業者から家賃減額の交渉があった」(千葉県/50代/男性)、「相談はなかったが、テナントから家賃が振り込まれなかったので確認したところ、『客が来ないため家賃が払えない』と言われた」(東京都/30代/男性)、といった相談を受けたという回答が見られた。

家賃延期や減額に「応じたくない」は約2割

アンケートでは、「入居者から家賃延期や減額の相談があった場合にどう対応するつもりか」についても質問。回答結果は以下の通りとなった。

「できる限り応じたい」「状況や理由によっては応じたい」という前向きな回答が約6割を占める一方、「なるべくなら応じたくない」「応じるつもりはない」という回答が2割強あった。この質問への回答理由についても、いくつかを抜粋して紹介しておく。

回答の理由(一部抜粋)

■「できる限り応じたい」または「入居者の状況や理由によっては応じたい」と回答した人の意見

・影響は一過性であり、改善すると思われるから。相談を断って退去になってしまった場合大家にとって損失が大きい(神奈川県/40代/男性)

・相談をしてくれる人は払う意思がはっきりわかり、申し訳ないという気持ちも伝わってくる。連絡なく滞納する人より誠意が感じられる
(愛知県/40代/男性)

・良い入居者が多いので、支払延期や減額にはできるだけ応じたい。困った時はお互い様だと思っています。(神奈川県/40代/男性)

・状況が状況ですから仕方ないと思います。断腸の思いですが、きちんと連絡をくれて事情を説明してくれた入居者の方には分割やフリーレントに応じるつもりです。逆に、期日が来ても無視しているような入居者に対しては厳しく取立てます。(東京都/50代/男性)

支払い延期には応じるが、減額には応じない。減額して契約を継続するより、現在の入居者との契約を終了して次の入居者を探した方が良いと思うから。(東京都/30代/男性)

・自分より相手方の方が生活が苦しいと思うから。
(東京都/50代/男性)

・入居者の状況によって判断したい。一時的な収入源なのか恒久的に続く可能性があるのかを聞いたうえで判断したい。(神奈川県/40代/男性)

■「なるべくなら応じたくない」と回答した人の意見

・ローンを組んで物件を購入し、家賃の一部で返済しているため、自分が破産してしまうから。(愛知県/40代/男性)

専業大家なのでこちらも生活がかかっている。ただし、入居者の状況によっては応じざるを得ないケースがあるかもしれないと覚悟している。
(東京都/50代/男性)

・家賃は基本的には払うべきもの。入居者の状況などを踏まえて、その結果支払い延期、減額等の対応となることもあるかも知れないが、最初から応じる方向での対応はしたくない。(埼玉県/50代/男性)

目処がたたないのに認めると、最後まで回収できなくなると思うから。
(北海道/40代/男性)

■「応じるつもりはない」と回答した人の意見

・契約なのでたとえ失業しても滞納は許されない。支払わなければ退去してもらうしかない。(大阪府/60代/男性)

・家賃のほかにも支払っているものがあるはず。そんな中でなぜ家賃だけ減額を求めるのか。退去になるとか、次を埋めるのが大変だという事情がなければ応じません。(東京都/50代/男性)

借入をして購入した物件なので、余裕がない。賃貸借契約に基づいて判断せざるを得ない。(東京都/50代/男性)

「できる限り応じたい」または「入居者の状況や理由によっては応じたい」と回答した人の回答は、いまは非常事態なので助けてあげたい、あるいは退去されるよりはよい、という理由に大きく分かれた。

一方、「なるべくなら応じたくない」「応じるつもりはない」と回答した人は、「滞納されると返済が滞ってしまう」、また「そもそも家賃は支払うべきもの」といった理由を主に挙げていた。

「家賃払わない」は無理がある、弁護士の見解

こうした状況の中、インターネット上では「このような状況なので、家賃は支払わなくても良いのでは」「欧米では家賃不払い運動が起きている。日本でもそうあるべきだ」などの主張が少なからずなされている。当然、家賃を得て、それを自身の収入としたり、金融機関への返済を行ったりしている物件のオーナーとの間で論争が巻き起こっている。

このような、主に入居者視点からの主張について、阿部栄一郎弁護士は、「例えば『コロナウイルスの影響で売り上げが著しく下落しているから、家賃は支払わなくてよい』、あるいは『緊急事態の状況下で、オーナーは分割払いや支払いの猶予をすべきだ』というのは間違っています。原則として、通常の契約通り支払わなくてはなりません」と話す。

弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所の阿部栄一郎弁護士

先月末には国交省がビルのオーナーに対し、テナントからの家賃支払い猶予に応じるなどの柔軟な措置を取るよう要請も行ったが、これについても「あくまでお願いベース。罰則が設けられるわけでもないですし、大家さんが必ずしも従う必要はない」と話す。

資金的に余裕のあるオーナーや、国との付き合いのある大手会社が家賃支払いの猶予に応じるといったことはあり得ます。しかし、オーナーも家賃が入らなくなってしまえば死活問題になりかねない。そういう意味では、たとえ猶予に応じなかったとしても、オーナーが非難されるいわれはありません」(阿部弁護士)

また、米国などで起こっている「家賃不払い運動」などについても、「家賃を1カ月滞納しただけで立ち退き裁判を起こされるような国と、入居者保護が非常に強い日本では、法律や制度も全く異なります。こうした海外の事例を日本の事例に当てはめ、家賃を支払わなくてよいと主張するのは無理がある」と指摘する。

猶予や分割は「双方の合意があれば」自由

そもそも、賃貸借契約などについて定める借地借家法の32条は、建物・土地の価格や公租公課(公的な目的のために負担する費用)の上下、あるいは経済情勢の変化などを理由とする家賃の増減請求権を認めている。

つまり、オーナー側も入居者側も、現在の家賃が不相当であると思えば、増額や減額を申し出ることができるというわけだ。

なお、家賃支払いの猶予や分割について、法律上の規定はない。もし入居者側が「今月の支払いが厳しいので待ってほしい」、あるいは「3回の分割払いにしてほしい」などと申し出てきた場合、オーナーがそれに合意さえすれば、その約束は有効となる。

一方、こうした入居者からの減額請求や猶予・分割のお願いに対して、応じないことも当然可能だ。合意がなされなかった場合、入居者は今まで通りの家賃を支払わなくてはならない。その際、例えば入居者が勝手に支払いを遅らせたり、家賃の一部しか支払わなかったりして、さらにそれが繰り返されれば、裁判所が言うところの「信頼関係の破壊」と認められ、入居者を退去させられる可能性が高くなる。

ただし現在のように、新型コロナウイルスの影響などによって経済状況が著しく悪化した場合には、「訴訟になった際、裁判所がその影響を多少考慮する可能性は高い」と阿部弁護士は解説。

これまで半年や1年近く滞納をしているような悪質な入居者であれば、コロナウイルスの影響を考慮に入れたとしても、契約解除が滞りなく認められるだろう。他方で、「例えばこれまで一度も滞納をしたことがないような入居者や、2カ月~3カ月程度までの滞納をしているような入居者の場合は難しい。コロナウイルスの影響で収入が減り、当月の家賃が支払えないとなっても、考慮すべき事情もあるとして信頼関係が破壊されたとまでは言えず、賃貸借契約が解除できないなどの可能性は残ります」(阿部弁護士)。

つまり、入居者の経済状況が悪化しており、家賃支払いが難しい状況なのであれば、オーナーに相談・交渉するのがまっとうな道筋ということだ。それを受けてオーナーは、それを申し出てきた入居者がどのような人であるのかを個々に見たうえで、「応じる」「応じない」の判断を下す必要がある。

「比較的誠実だと思えて、数カ月もすればもとの経済状況に回復できるだろうな、と信頼できる入居者であれば、分割などの合意をしても良いと思います。逆に言えば、今までの対応が適当で、滞納の経験もあるような場合には、猶予や分割などの合意はしないほうが良いでしょう」

コロナ後の「滞納グセ」を防ぐには

アンケートの結果でも示されている通り、オーナーには「コロナウイルスの影響が終息した後も、家賃滞納や分割払いが常態化しないか」という懸念が残る。こうした状況を防ぐための手立てはないのだろうか。

阿部弁護士は、「その合意が新型コロナウイルスの影響によるものだと範囲を限定する文言を盛り込んだ合意書」の作成も1つの方法だと話す。

「合意書に『目的』として『新型コロナウイルスの影響に鑑み…』と書いたり、支払い猶予の期間や金額を『3月から5月まで』『○万円まで』と明記したりという方法が考えられます。また、『この範囲を超えて、今後滞納があった場合には退去してもらう』と条件を付記することも可能です」

もちろんこうした合意書の条件は、入居者への心理的な効果をもたらすものであって、家賃滞納を直接防ぐわけではない。加えて、この合意書の内容に反したことだけをもって、裁判所がすぐさま「信頼関係の破壊」と判断するとは限らない。だが、仮に訴訟にもつれ込んだ場合でも、オーナー側が法に基づいて十分な対応をしていたという1つの証拠にすることは可能だろう。

オーナーにとって、入居者からの家賃は会社員の給与のようなものだと言える。特に専業大家は家賃収入が滞れば生活に大きな支障が出てしまう。

入居者とオーナー、双方にとってよい結論を出すための手段として「住居確保給付金」の活用なども考えられる。経済的に困窮している人に向け、国や自治体が家賃を原則3カ月(最長で9カ月)支給するという制度だ。利用には、離職後2年以内であること、ハローワークに求職の申し込みをしていること、また収入や資産状況などの要件を満たす必要がある。詳しくは厚生労働省が公開している資料を参照してほしい。なお、同制度にはもともと「申請日において65歳未満」などの年齢制限もあったが、4月以降はコロナ問題を受けてこの要件は撤廃されている。こうした制度の緩和などについて、続報があれば今後も報じていく。

(楽待新聞編集部)