2.支出を減らす
方法1:敷金があれば敷金を充当する
もし入居者さんから敷金を預かっているのであれば、敷金を家賃に充当して、家賃の支払いを免除するという方法があります。
退去時には敷金を返さなければなりませんが、この敷金を家賃に充当させてもらうことにすれば、退去時の支出がなくなることにより、大家さんの将来の資金繰りが改善されます。この場合には、入居者さんと契約書を交わしておくべきです。
方法2:金融機関に返済猶予を申し入れる
家賃の猶予をしなければならない状況になるのであれば、大家さんが破綻しないように、銀行に返済の猶予を申し入れることも検討しましょう。
2020年4月2日付の国土交通省の事務連絡には、「金融庁より金融機関に対し、賃貸事業者を含む事業者や個人の有するローンについて、返済猶予など条件変更に迅速かつ柔軟に対応するよう要請をした」とあります。入居者さんから家賃の猶予を迫られていることを理由に、銀行に交渉ができるということです。大家さんから銀行へ出ていくお金を一時的に止めて先延ばしにすることで、現在の資金繰り悪化を防ぐことができます。
3.税金を抑える
方法1:「納税猶予」「固定資産税免除」を申請する
コロナによる減収があった場合に無担保、かつ、延滞税なしでの1年間の納税の猶予が認められます。2020年2月以降の任意の期間(1カ月以上)について、その期間の収入が前年の同期間と比べておおむね20%以上減少していることが要件となります。

特例措置が実施された場合、担保なし、延滞税なしで1年間、各種税金の支払いが猶予される(国土交通省資料より)
ただし、個人の一時所得のように単発で発生した収入の減少は含められません。2020年2月1日から2021年1月31日に納期限がくるもので、所得税、法人税、消費税、固定資産税などほぼすべてが猶予対象です。青色申告者でも白色申告者でも適用可能です。
また固定資産税には免除制度があります。業種を問わず、中小事業者に適用されます。事業用建物・償却資産が対象ですが、土地は対象外となります。要件は下表の通りです。

(国土交通省資料より)
売上減少の要件を満たしているかを認定経営革新等支援機関(税理士など)の認定を受けたうえで市町村への申請が必要になります。あくまでも2021年度分の固定資産税が対象です。2020年度分の固定資産税は免除できませんが、納税猶予することはできます。
なお、納税猶予と固定資産税免除の要件である収入の減少には、家賃の免除だけでなく、書面による家賃の支払猶予も含まれる見込みです。
国民健康保険料にも減免制度があります。不動産収入が前年の30%以上減少が見込まれる場合、所得に応じて保険料の20%~100%の減免が受けられます。前年の合計所得金額が1000万円以下などの所得要件があります。
方法2:課税事業者となり「消費税還付」を受ける
テナントさん(店舗・事務所など)に賃貸している大家さんの家賃収入が減少し、赤字となる場合には消費税還付を受けられる可能性があります。事業者が納める消費税額は以下の式で計算されます。
受け取った消費税より支払った消費税の方が多い場合には、国から消費税が還付されることになります。ただし、消費税の還付申告を行うためには「課税事業者」である必要があります。課税事業者となるためには、「2年度前の課税売上が1000万円を超えていること」「前年度中に課税事業者選択届出書を提出すること」のどちらかを満たす必要があります。
これまでは、テナントさんからの家賃収入が1000万円を超えておらず免税事業者となっている大家さんは、前年度中に届出書を提出していなければ、課税事業者となることはできませんでした。
しかし今回特例が設けられ、コロナの影響により減収した場合、前年度中に課税事業者選択届出書を提出していなかったとしても、課税事業者となることができるようになりました。2020年2月1日から令和3年1月31日の間の任意の期間(1カ月以上)について、その期間の収入が前年の同期間と比べておおむね50%以上減少していることが要件となります。
課税事業者になりたい年度の消費税の申告書の提出期限までに申請書を提出することで適用できます。ただ、減価償却費などの消費税がかからない経費が原因で赤字になる場合、仕入れにかかる消費税が少額のため、還付とならない可能性があります。なお、以前の記事でお話したとおり、住宅だけを賃貸している大家さんは還付とならないケースがほとんどなので、免税事業者のままでいる方がよいでしょう。
方法3:家賃の減免による損金算入
大家さん(法人)が合理的な理由なく家賃を減免した場合には、原則として家賃を受け取ったものとみなして、税金が課されることになります。
ただし今回、コロナの影響により家賃を減免した場合には、減免した金額が経費として認められることになりました。国税庁が発表している資料(P29)には「この取扱いは、テナント以外の居住用物件や駐車場などの賃貸借契約においても同様です」と記載がありますので、テナントだけでなく居住用物件の大家さんも対象となると思われます。
気を付けなければいけないのは、家賃を減免すること自体が節税になるわけではないということです。もともと受け取っていない家賃に対しても税金が課される取り扱い(寄付金)が、それに税金が課されなくなったという話です。節税になるから家賃を減免するとは考えないようにご注意ください。
◇
入居者さんから家賃減免の相談を受けたら、まずは入居者さんの状況をよく聞き対応を考えましょう。退去されて空室が発生するとキャッシュフローが悪化するリスクがあります。また、家賃滞納での居座りや倒産して夜逃げという事態になると、家賃を回収することがより困難になります。
入居者さんの状況を見て、家賃の減免や猶予をして残ってもらうべきか、退去もやむを得ないとして対応すべきかはまさに大家さんの経営判断だと思います。入居者さんの話や賃貸借契約書を確認して現状把握をしたうえで、上記の「収入を増やす」「支出を減らす」「税金をおさえる」という観点からキャッシュフローの悪化を防いで賃貸経営を維持できるかを見極め、入居者さんに選択肢を提示していく必要があると思います。
キャッシュフローを減らさない9つの方法まとめ
■収入を増やす(減らさない)
1.「雇用調整助成金」を活用し、入居者の勤務先に休業手当を給付してもらう
2.入居者に「住居確保給付金」を申請してもらう
3.法人大家さんも対象の「持続化給付金」を利用する
4.「小規模企業共済」「経営セーフティ共済」などの貸付制度を利用する
■支出を減らす
1.家賃の支払い免除に敷金を充当する
2.金融機関に返済猶予を申し入れる
■税金を抑える
1.「納税猶予」「固定資産税免除」を申請する
2.課税事業者となり「消費税還付」を受ける
(大野晃男)
この連載について
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大家さん専門税理士、渡邊浩滋総合事務所副所長の大野氏が、大家さんが知っておくべき税金の知識を「これ以上はムリ!」というくらいやさしく解説。小手先のテクニックではなく、「節税に必要な正しい知識」をイチから学ぶことができる連載です。
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