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新型コロナウイルスの感染拡大により、外国人向け賃貸物件を保有しているオーナーが悲鳴を上げている。賃貸契約を結んでいた借り主がコロナ禍を避けるため一斉に母国に帰国、家賃収入減少や空室増に見舞われているからだ。

数カ月前まで安定した収益を上げ、「インバウンドの恩恵」を享受していた外国人向け賃貸物件。オーナー達は今、どんな思いでこの苦境を受け止めているのか。外国人不動産アドバイザーの佐野氏にレポートしてもらう。

「コロナで一斉帰国」の外国人入居者

「正直、収益は絶望的です。私はマンション1棟の12室を全室外国人に貸し出していましたが、3月中に9室の住人が出て行きました。今は3室を除き空室状態。管理会社に客付けの依頼はしていますが、今は外国人が日本に入国すらできない状況で、この先どうなるか不安です」

こう話すのは、東京・豊島区に築古物件を所有する50代のMさん。今からおよそ5年前、政府が推し進めていた「留学生30万人計画」を背景に、外国人留学生などに向けた賃貸物件の運営を始めた。最寄駅から徒歩6分、築40年の築古物件だったが、当時は外国人が入居できる物件が少なかった。おかげでワンルームで6万円という、周辺よりやや高めの家賃設定でも、募集をかければすぐに埋まる状態が続いていた。

状況が一変したのは今年2月に入ってから。日本国内で新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されはじめ、マスクの品薄状態が続くようになると、入居していた外国人が相次いで解約を申し出てきた。

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「通常であれば外国人入居者は次に入る入居者を紹介してくれることが多い。でも、今年はコロナの影響もあって入居者からの紹介はありませんでした。この頃から嫌な予感がしていたのですが、案の定、それからは入居者から退去の話ばかり。管理会社を通して理由を聞いてみると、みな母国に帰国するとのことでした」(Mさん)

3月までに計9室の退去手続きは完了したが、残り3室のうち2室の住人が、契約期間中にも関わらず日本を脱出。現時点(4月中旬)も音信不通が続いているという。結局9割が空室となってしまった。

「家賃は3月分までは振り込んでくれていましたが、4月分は2部屋とも入っていない。家賃保証会社から日本国内の緊急連絡先に問い合わせてもらいましたが、本人と連絡は取れていません。このままでは、家賃保証会社からの保証も来月には打ち切りになるはず。仮に入居者が戻ってこなければ、明け渡し裁判など法的に契約解除をするしかない」

とはいえ、これには手間や時間、原状回復費用がかかるうえ、次の入居者のアテもない。Mさんは最近脱サラしたこともあり、このマンションの家賃収入が生命線。「このままだと貯金を崩しながらの厳しい生活が続くと思います」(Mさん)

売却を検討するも…

Mさん以上に深刻な問題を抱えるオーナーもいる。千葉県船橋市に木造アパートを所有するサラリーマンオーナーのTさんだ。

3年程前に3000万円を投資して最寄駅から徒歩10分の中古物件(ワンルーム計6室)を購入。外国人や留学生らに1室4万円(共益費別)で貸し出していた。昨年12月までは1部屋を除き全室埋まっていたものの、現在の入居は2部屋だけ。そのうち1室の入居者であったベトナム人も、4月末に退去してしまう。本業であるサラリーマン稼業での収入があるとはいえ、アパート購入資金のうち約8割は銀行からの借り入れ。今後も空室が続けば返済が重くのしかかる。

「船橋駅周辺は近年、外国人労働者や留学生が増えていたので、家族(妻と小学生の娘1人)や将来の事を考えて外国人向けのアパート経営を始めました。でも、今となってはそれがアダになった感じです。コロナのせいで街中にいた外国人が一斉にいなくなりましたからね」(Tさん)

これから管理会社に依頼して空室を埋めていく予定だというが、ターゲットとなる外国人がいつ戻ってくるかは分からない。日本人の単身世帯に狙いを変えることも検討したが、周囲には同じような外国人が多く住む物件が多数あるため、日本人に敬遠される可能性もある。「私の給料もそんなに高くはないし、銀行への返済も残っている。アパートの事を考えるだけで頭が痛いです」(Tさん)

家賃収入が滞り始めた今、Tさんは所有物件を手放すことも検討し始めている。ただ、船橋市の複数の不動産業者に売却の見積もりを依頼したところ、高くても残債をわずかに上回る程度だったという。いまのうちに売却するか、将来の外国人客を見越して今を耐えるか、選択を迫られている。

「新型コロナウイルスの感染拡大が終息すれば、外国人は戻ってくると個人的には考えています。ただ、その時期がいつ頃になるかによって選択が変わってくる。当面、今夏頃までは所有する予定ですが、その先は自分でもどうするか。見当すらつきません」(Tさん)

JR船橋駅周辺を商圏にしている不動産買取業者の担当者に話を聞くと、「4月に入り周辺地域のアパート、1棟物件の動きが出始めている」と話し、こう続けた。

「駅近で築浅の物件はまだあまり出てきていませんが、駅から少し離れた築古物件に関しては、オーナーから売却依頼の相談があります。我々としては買い手がいれば積極的に動きたいところですが、今は個人投資家も静観している。とりわけ、外国人向けだった物件に関しては内部の損傷度合いを含め買い取りリスクが高いので、慎重にならざるを得ない。必然的に買取価格は安くなります。もっとも、物件を安く買えるチャンスでもあるので資金力がある業者や外国人投資家にとっては絶好のチャンスかもしれませんが。その動きも今後のコロナの状況次第でしょう」

これまで、駅から15分以上離れた築40年を超えるような古い物件も、東南アジアなどを中心とする外国人の需要が望めた。前述の「留学生30万人計画」などにより外国人が日本に流入してこなければ、これらの多くは「死んだ物件」になっていたかもしれない。また、外国人は日本人の知らないネットワークを持っているため、「友達も入りたがっている」と客を呼んできてくれ、客付けも比較的簡単にできた。

そうしてここ数年、首都圏を中心に右肩上がりで拡大していた外国人向け収益物件も、現時点ではオーナーを悩ます「負動産」になりかねない危機的状況にある。それでも、少子高齢化社会が進み若年人口減が著しい日本。今後異国からの労働者は日本経済を支えるうえで必要な存在と言える。外国人向け物件を所有するオーナーにとって、今後どうなるかは全てコロナ禍次第。終息を祈りながら見守っていくしかない。

(佐野真広)