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厚生労働省は4月25日、「雇用調整助成金」の更なる拡充を行う方針だと発表した。詳細の発表は5月上旬となる見込みだ。楽待新聞でも以前紹介した通り、「雇用調整助成金」とは、企業が支払う休業手当などの一部を国が助成する制度。厚労省はこれまでも、助成率の引き上げや申請の簡易化など、新型コロナウイルス特例措置を実施してきたが、今回さらに「助成率最大10割」まで打ち出すこととなった。

拡充その1:
休業手当を賃金の6割以上支給する場合、6割以上の助成率は10割とする

拡充その2:
一定の要件を満たす場合、休業手当全体の助成率を10割とする

今回は、先行発表された特例措置の内容を、社会保険労務士法人ローム代表の牧野剛氏とともに解説していく。

拡充その1
「休業手当を賃金の6割以上支給する場合、6割以上の助成率は10割とする」

事業主の都合により休業する場合、休業中の労働者の生活を守るため、事業主は労働者に対し休業手当を賃金の最低6割以上支払うよう労働基準法第26条で定められている。労働者からすれば少しでも多く支給されるほうがありがたいが、今回のように先の見えない状態では、事業主も金銭的な体力を確保しておきたいと考える。その結果、休業手当は最低基準の6割に留まることが多くなり、労働者によってはこれまで通りの暮らしが困難になるケースが発生してしまう。

そこで、今回の新たな特例措置では、中小企業が解雇等を行わず雇用を維持し、賃金の6割を超えて休業手当を支給する場合、6割を超える部分に係る助成率を特例的に10分の10とする。これまでの特例措置では、中小企業は休業手当の5分の4、大企業は3分の2にあたる助成金を受け取れた。従業員の解雇を行わない場合、中小企業で10分の9、大企業で4分の3と助成率はさらに上乗せされるが、助成率10分の10はこれまでなかった。

これによって会社の負担はどのように変化するのだろうか。従業員の解雇を行わなかった中小企業のケースで考えてみたい。

6割以上の助成率が10分の10になることによって、休業手当を賃金の10割支給する事業主の負担は4%減少することになる。会社の負担を減らすことにより、労働者の休業手当が少しでも多く支払われるようになることがこの案の狙いだ。

拡充その2
「一定の要件を満たす場合、休業手当全体の助成率を10割とする」

さらに、都道府県からの要請に基づき、休業または営業時間短縮に協力した事業主は、一定の要件を満たすことで休業手当全体の助成率が10割となる。対象企業の詳細と要件は以下の通りだ。

<対象>
・中小企業であること
・都道府県の要請により、休業または営業時間短縮を求められた対象施設を運営する事業主であること
・解雇等を行わず、雇用を維持していること

<要件>
以下のいずれかに該当する手当を支払っていること
・労働者の休業に対して、休業手当を賃金の10割支払っている
・1人1日あたりの支給上限額(8330円)以上の休業手当を支払い、なおかつ賃金の6割以上支払っている

今回の拡充においてはいずれも「解雇等を行わず、雇用を維持した場合」という点が肝になってきている。人件費を賄うことが困難だとしても、いざ営業を再開する際、労働者を解雇してしまうとこれまでのように仕事ができない可能性がある。そのため、できるだけ解雇せずにこのピンチを乗り越えたいと考える企業に対して、今回の拡充は適用できると考えられる。ただし、いずれも1日1人あたり8330円という上限があるため、助成金額の計算には注意してほしい。

通常「不支給」になる会社も利用できるように

このような特例が出るたび、労働局やハローワークに問い合わせが殺到しないよう、厚労省は「雇用調整助成金FAQ」などを更新し、よくある質問とその回答を記載している。非常にボリュームの多い資料だが、社会保険労務士の牧野氏は4月27日に更新されたFAQに、注目すべき項目が書いてあるという。FAQの問い22とその回答を以下に抜粋する。

<問>
労働保険料の未納や労働関係法令違反で不支給要件に該当していますが、 従業員の雇用維持のため雇用調整助成金を利用できませんか。

<答>
今般の「緊急対応期間の特例」は、新型コロナウイルス感染症の拡大が見られる状況下において、雇用維持を最優先とした緊急時の対応であることから、 労働保険料の未納や労働関係法令違反の不支給要件に該当していても、特例的に利用いただくことが可能です。ただし、一定の条件がありますので、まずは、管轄の労働局に御相談ください。

本来、労働基準法等を遵守した事業主にのみ支給される「雇用調整助成金」。ただし、今回の特例においては、労働保険料の未払いなどの通常ならば不支給となる事業主に対しても、一定の条件を満たせば支給することができると書いてあるのだ。なお、一定の条件は労働局に個別で確認する必要がある。

「小規模な事業主ほど、労基法などに則らずに営業活動しているところが多い。そういった会社が助成金を申請すると、労働局から『労働時間が正しくありません』『支払うべき残業代を支払ってください』などと指示がでます。もちろん指示に従わなければ助成金は支給されないのでなんとかしたいのですが、不利益変更があった場合は労働者の合意を得る必要があったり、残業代を支払おうにも資金が足りなかったりするケースも多々あります。そのため、申請を諦めてしまう人も多いんです」と牧野氏は話す。

事実上の「不支給要件の緩和」となれば、一時的に救われる事業主は多いと予測される。しかし、牧野氏は「いつかは特例措置というハシゴが外されるときが必ず来ます。今後の経営のために、一時的ではなく長期的に適法の状態を目指すことが重要です」と注意を促す。

「雇用調整助成金は、今回のような非常時、困った時のための制度です。しかし、助成金には会社がより高い成果を上げるために利用できる『前向き』なものもたくさんある。そういった助成金を多くの会社が活用できるよう、これを機に適法な状態で運営される会社が増えてほしいと思います」(牧野氏)