新型コロナウイルスの影響で飲食店などの事業者が大きな打撃を受ける中、国会ではテナントに対する賃料負担軽減などの支援策に関する議論が続いている。テナント物件を多数所有するオーナーも、賃料の減額や猶予要請などへの対応で重要な局面を迎えているケースも多いだろう。

総投資額30億円に上る楽待コラムニスト・地主の婿養子大家さんも、居酒屋や美容院、薬局など18業種のテナントを抱えている。コロナショックでどのような影響が出ているのか、今回は外出自粛要請期間中のためビデオ通話ツールでインタビューを敢行し、所有するテナントとの交渉内容について聞いた。

実はコロナショックのさなかに、過去最大規模となる5億円の物件を購入したという地主の婿養子大家さん。「利回り14%も狙える」というその物件を買えた要因、そしてコロナ下で感じたマーケットの変化、今後の市況に対する見方など、たっぷり語ってもらった。

 

約15年で30億円

――あらためて自己紹介をお願いします。

楽待で2年ほどコラムを書いている地主の婿養子大家と申します。不動産投資歴は約15年で、6月購入予定の物件を含めると総投資額は約30億円になります。投資エリアは神奈川県のみ、戸数は269戸で、そのうち自主管理が216戸。入居率は不動産投資を始めてから98%を下回ったことは多分ありません。年間家賃年収は約2.5億円、税引きCFは8000万円ほど。残債を引いた純資産は、固定資産税評価額で計算すると20億円程度です。

――「地主の婿養子大家」というコラムニスト名について教えてください。

私は15年前、地主の家に婿入りすることになって不動産賃貸業を始めました。もともと土地はあるけど現金はないという状態で、このままでは相続で資産を失うことが目に見えていたので、それを解消するためにスタートしました。決して私一人でやってきたわけではなく、最初の頃はお義父さんがメインでしたし、その後もずっと二人三脚で規模を拡大してきました。

「安心先」と「懸念先」

――新型コロナの影響についてですが、所有している269戸のうちテナントの割合はどれぐらいですか?

テナントは18業種が入っていて、戸数でいうと25戸ほど。賃料ベースではレジ(住居)が7割、テナントが2割、駐車場が1割ぐらいの割合です。

――その18業種について、コラムでは「安心先」「懸念先」に分類していますね。

基本的に「住」「医」「官(行政)」に関わるテナントは取りっぱぐれが起きにくいと考えています。私が保有するテナントでいうと、例えば行政からの補助金で運営されている認可保育園。あとは薬局や医院事務所など医療系は心強いですね。懇意にしている不動産会社も問題ないと思っています。

――逆に懸念先はどのようなテナントですか?

やっぱり一番は飲食ですね。居酒屋、インド料理店、ベトナム料理店が入っています。あとは美容院というのは開業2年以内に廃業する確率が高い。私のテナントにも2店舗あるんですが、1店舗は今も3カ月滞納していて懸念先です。逆にもう1店舗は10年以上入ってもらっていて一度も滞納がないので、安心先に分類しています。

――コロナの影響でテナントの退去は発生しましたか?

1件だけありました。13年借りてくれていた整体院さんですが、4年ほど前から経営が苦しく、今回のコロナショックで決心がついたようです。6月末退去予定で、自室の1室で新たに開業するということでした。それ以外では今のところ退去の連絡はきていません。

「コロナ便乗」の賃料減額は断固拒否

――テナントから賃料の減額要請などはきていますか?

4月中旬にデイサービスのテナントから、書面で賃料減額の依頼が来ました。資本金1億円ほどで、全国展開している大きな規模の会社です。書面が届いて半月後ぐらいに本部の社員から電話があり、「国交省からテナント賃料の支払いについては柔軟な措置を検討するよう要請が出ていると思いますが、賃料の減額についてお願いしたく…」とのこと。

私は「具体的にどれぐらい売上が下がっているかも分からない状況で、いきなり減額と言われてもすぐに回答できません」と伝えました。すると、「4月の売上が4割ぐらい下がっています」というので、「では持続化給付金の申請はされていますか?」と尋ねたら、「実は事業所の増設をしており、給付金の対象にならないです」と返ってきました。

「要するに売上は上がっているということですね? 私のテナントさんでも、すごく苦しいけど給付金でなんとかしのいで、猶予すらせずに頑張って払ってくれている人がいます。それなのに、給付金の対象にならないぐらいの状態でいきなり減額要請ですか?」と聞くと、そそくさと退散していくように電話を切られました。

――売上が下がっていないものの、とりあえず減額交渉だけしてみようかということだったんでしょうか。

要はコロナに便乗したコスト削減の取り組みで、国交省の要請をタテにして応じてもらえれば儲けものと思ったんでしょう。そもそも本当に苦しんでいるのなら、まず経営者なり責任者が頭を下げにくるはずですよね。その前にコロナの緊急融資や雇用調整助成金の申し込みはしたのか、企業としてどれぐらいコスト削減の取り組みを本気でやっているのか、という話です。

相手のことを一切考えず、自分さえよければいいというスタンスの交渉に応じることはできません。もともと相場よりかなり低い賃料で貸しているので、コロナが終息したら賃料アップの依頼をしようかと思っているぐらいですよ。苦しいのは我々大家だって同じなんですから。逆に将来的にコロナの影響で退去が増えて借金返済が苦しくなった時に、賃料増額してくれるんですか? という話です。

2月にオープンしたベトナム料理店

――コロナの影響で苦しんでいるテナントさんはありますか?

一番気になるのはベトナム料理屋さんですね。2月下旬というタイミングでオープンして、その直後にコロナの問題が起こってしまった本当に不運なテナントさんです。

――実際にどんな相談が来たんですか?

最初は3月末に、契約者で料理を作っているベトナム人の若いお兄さんから相談がありました。日本語があまりしゃべれないので、片言で「コロナで潰れそう、助けてほしい」みたいな感じで。同時に、次女のお姉さんから泣きながら電話がかかってきて「お店が潰れたら弟はベトナムに帰らないといけないから不安でしょうがない。大家さん優しいから、家賃の減額を…」という内容でした。

私はお店に行きました。店を手伝っている長女のお姉さんは「私は簡単に大家さんを頼るのは迷惑だから、まだ相談するべきじゃないと言っていたんですが、次女が勝手に電話してしまって…すみませんでした。まだやれることを頑張ります」と言ってくれました。

――どういうことを伝えたんですか?

私はお兄さんに面と向かって「開店1、2カ月でお客さんが来ないのは、コロナのせいだけじゃないでしょ?」と言いました。このお店は広告すら一度も打っていなかったし、まだテイクアウトもしていなかった。「私だったら深夜アルバイトでもしてなんとかしのいで、休日も一日中ビラ配りをしますよ。全然営業が足りていないのに、家賃減額交渉は甘すぎるんじゃないですか?」と厳しく伝えました。

ただ、お客さんが全然来ないという状況で、不安に押しつぶされそうな彼らの気持ちはすごく分かりました。大家だって、空室が出て全く問い合わせすらこないときというのはすごく不安ですから。だから私は相談に対して真摯に受け止めつつも、ひざを突き合わせて「できることはやってほしい」ということをしっかり伝えたんです。もちろん、本当に厳しいときには相談に応じることも踏まえて。

大切な仲間

――それから経営は改善したんですか?

そのお店はすぐにテイクアウトを始めて、実際に売上も少しですが上がりました。4月に入って3週間ぐらいは頑張っていたんですが、売上が家賃に少し足りないぐらいまでしか伸びず、「3カ月間、家賃の半額を支払い猶予してもらえないでしょうか」と相談を受けたんです。すぐに「分かった」と答えました。

でも、その後給付金が入ることが決まり、「やっぱり猶予はお願いせずに3カ月は自力で頑張ります」と言ってくれました。3カ月経って7月末にまだ全然客入りが回復してないのであれば、またその時に話し合おうと思っています。

――その後も何度かお店に足を運んでいるんですよね。

先日も投資家仲間10人ぐらいが「ぜひ行きたい」とお昼を食べに来てくれて。お店の人も、不安な中で多くのお客さんが来てくれたことにすごく喜んでいましたね。私自身も、こういう時期に来てくれる仲間の存在に心から感謝しました。お店の方は毎日来てくれるようなリピーターさんも少しずつ出てきて、これからが踏ん張りどころだと思います。

――やはりテナントと面と向かってやりとりすることは重要だと思いますか?

そう思います。兼業で時間が取れない人は、電話で済ませたり、不動産会社さんに交渉を任せたりすることになるのはしょうがないんですが、やっぱり気持ちは伝わりにくいですよね。私は専業で時間があるので、行ける余裕があるなら行って面と向かって伝えた方がいいと思っているだけです。本人たちにもその気持ちは伝わっていると信じているし、苦しい状況ですが最後まで一緒に頑張りたいという思いです。

テナントのリスクを意識

――大家さんの中には賃料の減額交渉を受けた時に、退去が怖いから簡単に応じてしまう人もいると思います。

たしかに、そういう相談を受けた時に退去が怖いという考えになるのはしょうがないと思います。ただ、私の場合は客付けに苦労するような立地の物件は買っていませんし、15年の経験と、何かあっても対応できるだけの体力はあります。基本的には退去を恐れて減額に応じることはありませんが、テナントさんの生活を考えて本当に減額や猶予をしないといけないと判断したら柔軟に対応するつもりです。

――今回の経験も踏まえて、テナント物件の購入についてはどのような考えですか?

これはしっかりお伝えしたいことなんですが、テナント物件というのは本来、そんじょそこらの規模で簡単に手を出すべきものではないんです。体力がなければ減額交渉にも応じざるを得ないですし、私ぐらいの規模でも契約しているテナントが一気に全空になれば大きな打撃であることに間違いありません。やっぱり小さな規模の個人投資家であれば、しっかりと地に足の着いた投資を意識するべきだと思います。

この時期に有効な「退去前契約」

――レジデンス(住居)の方の影響はいかがですか?

コロナの影響による退去というのはほとんど出ていません。それ以前にもともと退去の通知が出ていた部屋については、退去前に内見なしで契約を取る形で4、5件決まっていたので、空室に困るという状況にはなりませんでした。この「退去前契約」というのは、繁忙期かつ外出しにくいこの時期に有効な方法だと思っています。

――退去前契約は具体的にはどうやって実現していますか?

退去の連絡は通常1、2カ月前にきますが、私は普段から入居者の部屋を見たり本人とやりとりしたりしているので、連絡がきた瞬間に「この人の部屋だったらどれぐらいの汚さか」というのを予測します。クリーニングだけで済むような人なら退去日の翌日にクリーニングを入れて、募集を退去日の何日後という形で決める。仲介会社さんには通知の翌日には連絡して、早ければ退去日の翌々日に入居可能で募集を出します。

大手なんかは退去前の契約を禁止していたりもするんですが、デキる店長さんだと契約は退去後にして重説と契約金の入金を事前に済ませるといった対応をしてくれます。仲介さんもやっていくうちに慣れていくので、「この大家さんのところだったら、申し込みを取って契約だけしてしまえばあとは全部なんとかしてもらえる」と思ってもらえるようにしていますね。

――今回もそういった方法で客付けしたということですね。

最近の事例だと、3月31日退去で解約日は解約通知1カ月後の4月16日という部屋がありました。退去翌日の4月1日にクリーニングを予約して、「4月10日入居可能」で募集をかけ、3月26日に薬科大の新入生から申し込み。事前に入金を済ませて、入居日の4月10日に契約書にサインする流れで無事に入居しました。前入居者の解約は4月16日なので、空室日数はマイナス6日(笑)。稼働率は100%を超えることになります。

――支払い猶予の相談はありましたか?

8年ほど住んでもらっている若いシングルマザーの方から「コロナで仕事が激減してしまって、家賃を分割にしてもらえないでしょうか」という相談がありました。住居確保給付金の制度を教えたんですが、4月の給付対象には間に合わず、分割での支払い猶予に応じることになりました。この方は何度もお会いして信頼関係はできているので、給付金が下りなくても必ず支払ってくれると信じています。