経済的に困窮し、住まいに困った人たちが駆け込む不動産会社がある。昨年12月、楽待新聞でも取材した「絶対に見捨てない不動産会社」、神奈川県座間市の「プライム」だ。

代表を務めるのは、エステティシャンから不動産業界へ転身した経歴を持つ石塚恵さん。過去に勤めていた不動産会社で「たらい回しにされ、泣きながら帰っていくお客さんをたくさん見てきた」経験から、2012年に独立しプライムを立ち上げた。以来、困っている人を「絶対に見捨てない」を信条とし、身寄りのない高齢者や、仕事に就けず部屋が借りられない人たちの住まい探しに奔走している。

前回の密着取材から約半年が経った現在、世界中でコロナウイルスの影響が広がり、職を失う人が増加している。そんな中、生活困窮者の住まい探しはどのような状況にあるのか。改めて取材させてもらった。

 

※取材・撮影は社会的距離を保ったうえで実施しています(5月11日、12日実施)

健康ランドが休業、居場所をなくして

編集部が取材に訪れたこの日、店舗のカウンターに1人の男性の姿があった。現在72歳のAさん。訳あってこれまで約10年間、健康ランド(食堂などが併設された公衆浴場)で生活していたが、コロナの影響でその店が営業を休止、居場所を失い車上暮らしとなり、それを機に部屋探しを始めたという。

10年間健康ランドで生活していたというAさん。座間市役所から、プライムと連携するNPO法人「ワンエイド」を紹介され、石塚さんの元を訪れた

仕事も身よりもなく、なかなか部屋を見つけることができなかったAさんだが、石塚さんが懸命に掛け合った結果、ようやくアパートを貸してくれるというオーナーが現れた。この日はその部屋の内見に行くため、店舗を訪れていたという。部屋の間取りは1K、家賃は駐車場込みで4万5000円だ。

Aさんのように高齢で身寄りがなく、仕事もしていない人の場合、部屋を探すのは難しい。しかしAさんの場合は幸いにも十分な年金収入があり、貯金もあるとのことで、「免許証のコピーと、年金の通知書や通帳などで保証会社の審査にかけて、通れば1週間後くらいに入居してもらえると思います」(石塚さん)という。

Aさんが暮らしていた施設やネットカフェなどは、住まいのない人の受け皿という側面もある。石塚さんは「そうした店舗が軒並み営業自粛となったことで、居場所をなくしてしまった人たちがかなり増えている」と話す。

東京から2日間、歩いて来た男性

Aさんとの面談を終えたのもつかの間、今度は50代ぐらいの男性(Bさん)が駆け込みで店にやってきた。

Bさんは複雑な事情があり職に就けず、東京で2年ほど路上生活をしていたという。たまに無料低額宿泊所(生活保護受給者などが宿泊できる、社会福祉法に基づく施設)などに寝泊まりしていたが、コロナの影響で施設が閉鎖、行き場を失ってしまった。そんなある日、たまたま拾った雑誌の記事で石塚さんのことを知り、住所を調べて東京から座間まで2日間かけて歩いてきたという。

東京から2日間をかけて座間まで歩いてきたというBさん

できれば無料低額宿泊所ではなく、普通のアパートのような個室を探してほしいと話すBさん。無料低額宿泊所(無低)の中には住環境が劣悪な施設もあり、Bさんのように入居を嫌がる人も少なくない。また、無低の利用料には通常、入居者の生活保護費の一部が充てられるが、運営側が必要以上の金額を徴収し、入居者の手元にお金が残らないという、いわゆる「貧困ビジネス」に利用されて問題になるケースもある。

ただ、Aさんとは違い、Bさんの場合は貯金もなく、収入が得られる見込みもない。さらには免許証など入居審査に使える書類も持っておらず、携帯電話もない。今のままでは部屋を見つけるのはかなり難しい。

石塚さんは手を尽くし、ようやく部屋を貸してくれそうなオーナーにたどり着いたものの、あいにく持病の手術で入院中とのこと。その電話ですぐに別のオーナーを紹介してもらい、「今後生活保護を受けること」を条件に部屋を貸してもらえることになった。石塚さんはBさんを車に乗せ、そのオーナーと引き合わせた。生活困窮者の事情を理解しているオーナーだったこともあり、今回はここで石塚さんの役目は終わりとなった。

Bさんを駅まで送り、物件のオーナーと引き合わせる

石塚さんによると、Bさんのように遠くから店舗まで歩いてくる人は少なくないのだという。

「座間周辺はもちろんですが、東京や埼玉、千葉の方からの相談もけっこうあります。部屋を提供してくれる方は以前よりずいぶん増えたんですが、それでもまだ足りていなくて。今は10人ぐらいが順番待ちの状態です」

コロナの影響で、プライムへの問い合わせの電話も1日20件ほどかかってくるといい、中には「いま橋の下で暮らしている。お金はないが、今日から住める部屋がほしい」といった相談もあるそうだ。

実際、座間市生活援護課の担当者によると、4月中に寄せられた「コロナの影響で家賃が支払えない」といった相談の件数は、例年より4倍ほど多い100件近くにのぼるという。昨年の4月は1件のみだった「住居確保給付金」の給付数も、今年は先月だけで20件に増えているそうだ。

新たな物件提供者も、物件は慢性的に不足

こうした人たちを受け入れるにしても、肝心の物件が足りていないという問題もある。石塚さんはメディアの取材も積極的に受けるようにしており、その甲斐もあって物件を提供してくれるオーナーは増えつつあるという。

この日もちょうど、生活困窮者向けに物件を提供しているサラリーマンオーナーの橋本さんが石塚さんを尋ねてきた。リフォーム費込みで150万~200万円の区分物件を3戸購入し、プライムに入居付けから管理までを委託しているという。不動産投資を始めたのは今年に入ってからで、最初の2戸は生活保護受給者が入居、現在は3戸目のリフォームを進めているところだ。

プライムを訪れていた投資家の橋本さん

「不動産は完全に素人でしたが、知人がアパート経営をしていたこともあり、興味は持っていました。いろいろと勉強していくうちに動画でプライムさんの活動を知り、本当に住まいに困っている人がいるということ、またそういう人たち向けの賃貸事業の存在を知ったんです。それが後押しとなって、物件購入に踏み切ったという感じですね」

現在所有する3戸は、いずれもキャッシュで購入したという橋本さん。家賃は代理納付(行政から家主に直接家賃が振り込まれる制度)のため、コロナの影響もないという。現在リフォーム中の3戸目に入居が付けば、税引き後で年間70万円ほどの手残りが得られる計算だ。今後もサラリーマンを続けながら少しずつ物件を買い足していき、「いずれはローンを組んで1棟ものに挑戦したい」と話した。

「自粛したくてもできない」

生活困窮者向け不動産の現場には、一般的な不動産賃貸とはまったくことなる事情があり、悩みがある。

不動産業界でも一部ではテレワーク化が進み、自宅などで業務を行う会社も増えている。しかし、石塚さんの元を訪れる人の中には、コロナの影響で社宅を追われて店を訪れるといった切迫したケースも少なくないため、「自宅からパソコンで、というわけにはいかない。いつもよりさらに忙しくて、自粛したくてもできない」(石塚さん)のが現状だ。現在は営業時間を短縮し、消毒の徹底や飛沫ガードの設置で対策をしている。

コロナで案件が増え、毎日21時~22時ごろまでその対応に追われているという石塚さん。取材中も電話が鳴り止むことはなかった

加えて、店舗を訪れる高齢者の中には「俺はもう死んでもいいから、マスクなんてしない」という人もいるという。「私たちが感染して他の人に伝染させてしまったら大変です。だから、寄附してもらったマスクを渡して付けてもらうようにお願いしているんです」と石塚さんは話す。

また今後、住宅の家賃が支払えない人が増えることが予想されるが、自治体が家賃相当額を負担する制度である「住居確保給付金」の利用を促したとしても、高齢者などの中には「何のことか分からない」「自分で申請ができない」という人も多いようだ。仮に理解してもらったとしても役所が混雑しているため、スムーズにはいかないケースも多々ある。

「収入が減り、今お金に困ってる人は家賃の支払いが後回しになります。支払いが滞る人はこれから増えてくるでしょう。みんなが住居確保給付金を使ってくれればいいんですが…そうもいかないんですよね」(石塚さん)

住まいを探して石塚さんを訪ねる人は、コロナの影響で困窮した人ばかりではない。たとえば身体の自由がきかなくなり、階段の昇降ができなくなった高齢者が、2階の部屋から1階の部屋へと住み替えるといったニーズは以前から多くある。中には、今月から申請が始まった1人10万円の「特別定額給付金」を引っ越し資金に充てる予定の人もいるといい、今後は住まい探しの相談が増える可能性もある。

物件が足りず、コロナの収束時期も読めない状況は変わらない。それでも石塚さんは「門前払いはしない」と話す。1人でも多くの人に住まいを提供するため、「絶対に見捨てない不動産会社」の活動は続く。

取材協力:株式会社プライム

(楽待新聞編集部)