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事業主が労働者に支払う休業手当の一部を国が支給する「雇用調整助成金(雇調金)」制度。その新たな特例が5月19日に厚生労働省から発表された。これまで毎週のように追加措置の発表があり、そのたび確認に追われる事業主や社労士から困惑の声があがっていたが、今回は特に要望が多かった申請方法や助成額の算出方法の簡素化に、厚労省が動いた形だ。

この記事では、これまでに発表された特例の内容を振り返りつつ、5月19日に発表された新たな特例を解説していく。

変化する特例内容、特に変わったものは?

雇調金の制度自体は、新型コロナウイルス以前もあったものだ。今回新型コロナの問題を受けて、より使いやすく、より多くの事業主や労働者に支給できるよう、特例措置が随時発表されてきた。しかし、一度発表された特例がその後変更になるなど、情報を熱心に追いかけていた事業主でも混乱していただろう。そこで、4月当初の特例発表後から更に変更になった点を以下の図にまとめてみた。(5月19日発表の内容を含む)

※一定の要件の詳細はこちらの記事から確認ください(図はクリックして拡大できます)

簡単に振り返っていただけただろうか。楽待新聞でも過去に4月10日時点のコロナ特例についてや、4月25日に先行発表された助成率の変更などを記事で解説している。一度振り返り、今回新たに発表された点を見ていただきたい。

5月19日に発表された新たな特例

1. オンライン申請が可能に
2. 「計画届」の提出が不要に
3. 助成金額などの算出方法が簡素化
4. 申請期限を8月末まで延長

<5月20日からオンライン申請が可能に>

これまで、労働局やハローワークの窓口で申請するか、郵送で申請書類を提出するしか方法がなかった雇調金だが、5月20日からはオンラインでの申請が可能になった。厚生労働省HPから「雇用調整助成金等オンライン受付システム」に登録し、マイページから申請書類を送信すれば手続きが完了する仕組みになっている。

申請者が殺到し、一部の労働局やハローワークがいわゆる「密状態」になっていることも指摘されていたが、これでわざわざ赴く必要がなくなり、申請者が増えることが期待されている。しかし、20日正午から受付開始予定だった本システムは、同日に不具合が発覚。厚労省からサービス延期の旨が発表された。5月22日現在、再開の目処はたっておらず、申請を予定していた事業主はお預け状態となっている。

<「計画届」の提出が不要>

平時であれば、休業期間に入る2週間前を目処に、労働局に「休業等計画届」の提出が必要となる。この計画届の作成に必要な書類を揃えるのに手を焼く事業主が多かったことから、2月に発表した追加特例により休業後の事後提出が可能に。それでも、「作成に手間がかかる」「事後提出なら無くてもいいのでは」という声が上がり、更に今回の発表で、計画届の提出が「不要」となった。

厚生労働省・職業安定局の担当によれば「計画届を作成するのに、小規模事業主はとん挫してしまい、申請ができていないという声が多くありました。そのため、4月1日から6月30日で定めている『緊急対応期間』は提出を不要とします」。計画届を作成していた事業主にとっては拍子抜けかもしれないが、1つでも提出書類が減るのは朗報といえるだろう。

<助成金額などの算出方法が簡単に>

申請に当たっては、申請者自身が助成金額を計算する必要がある。これまでは以下の式に基づいて計算を行っていた。

平均賃金額×休業手当等の支払率×雇調金の助成率(1人1日あたり8330円が上限)

一見簡単に見えるが、「平均賃金額」の計算方法が少々ややこしい。厚労省の「雇用調整助成金FAQ」によると、平均賃金額は以下のように定義されている。

「『1日の平均賃金額』は前年度の雇用保険料の算定の基礎となる賃金総額等を従業員数(前年度各月平均雇用保険被保険者数)と1年間の所定労働日数で割ります」

これを読み、すぐ理解できず困惑する事業主が多数いるだろう。社会保険労務士法人「ローム」代表の牧野剛氏は「小規模事業主であれば、所定労働日数を正しく把握していない方もいる」と話す。そして、問合せてもハローワークは混雑して電話が繋がらず、ここで諦めてしまうケースもあったようだ。そこで、今回の特例では従業員20人以下の小規模事業主に限定し、助成金額の計算方法が一気に簡素化された。それが以下の式である。

実際に支払った休業手当額×雇調金の助成率(1人1日あたり8330円が上限)

これであれば、休業手当を支払った実績を確認することで、比較的すぐ確認できるようになる。なお、雇調金の助成率は、従業員の解雇を行わなかった場合や、賃金に対する休業手当の支給率で変動するため、どの助成率で掲載すればいいかチェックするためのマニュアルも用意されている。

※厚労省発行「小規模事業主向け 雇用調整助成金支給申請マニュアル」から引用(クリックして拡大できます)

小規模事業主以外については、「平均賃金」の確認方法を簡素化することで便宜を図る。これまで平均賃金を確認するには「労働保険確定保険料申告書」が必要だったが、代わりに源泉所得税の納付書で確認をしてよいこととなった。「労働保険確定保険料申告書」は1年に1度事業主が作成する書類だ。どこに保管したか探すにも時間がかかり、かつ記載内容も複雑である。それに対し、「源泉所得税」の納付書は毎月作成するものであり、比較的見つけやすく、内容も分かりやすいため、確認作業が容易になると考えられる。

また、通常は就業規則や労働契約などを確認する必要があった「所定労働日数」は、事業主の規模に関わらず、算出を簡素化。休業実施前の任意の1カ月をもとに算出できるように変更された。

<申請期限を8月末までに延長>

原則、雇調金の申請期限は支給対象期間末日から2カ月以内となっている。その際は、「支給申請書」と必要な書類を添えて、労働局に提出しなければならない。ただし、新型コロナの影響を受け休業した場合は、休業の初日が2020年1月24日から5月31日までの場合、申請期限を同年8月31日までとすると発表。北海道・首都圏を除き、多くのエリアで緊急事態宣言が解除され、これから本格的に経営の建て直しに注力する事業主にとって、申請期限が伸びると助かる面もあるだろう。

ちなみに、1月24日は東京都で初の新型コロナウイルス感染症患者の発生が確認された日である(国内2例目)。前述の牧野氏は、「新型コロナの感染が表面化した日のため、1月24日からとしたのでしょう」と話す。

また、2020年4月1日から6月30日までの「緊急対応期間」においては、通常は助成金の対象でない事業主にも支給すると発表している。例えば「風俗業」はこれまで助成の対象外とされていたが、今期間においては限定なく対象とする。

その他にも、これまでならば同じく対象外の「労働関係法令違反事業主」も今回は支給対象とする。労働基準法に違反するほどの長時間労働を従業員に強いるなどして、社名を公表された事業主などを指す。通常ならばハローワークで求人も扱わないなどの規制もあるのだが、今回の特例では、労働者の生活支援を優先して考えるとし、厚労省は対象に含めると発表した。

なお、緊急対応期間は、感染状況を鑑み、延長するかどうか6月末までに判断するとされている。「よくわからないからまだ申請できていない」という事業主も、ここまで簡素化された雇調金に、もう一度チャレンジしてみてはどうだろうか。

緩めた条件、「不正受給」懸念する声も

以前にも、雇調金の大規模な特例措置が実施されたことがある。2008年のリーマンショックの時だ。当時も計画届の事後提出を認めるなどの特例措置が講じられ、多くの企業が助成金を受け取ったが、同時に「不正受給」も多く発覚した。休業としつつも裏では業務を行っていたり、教育訓練と称して、裏では実務を行っていたりするなど、その数は2011年2月から2013年10月までの間で全国に約570社、累計額は107億円にのぼる。(2013年東京商工リサーチ発表)

今回のコロナ特例では計画届の提出すら不要とし、提出書類では手書きの帳簿なども受け付けるとしている。不正受給が増える可能性は高まるが、前述の厚労省担当は「労働者のため迅速な支給をすることが第一。不正受給のリスクは、その後の立ち入り検査で担保をしていく形になる」と述べる。助成金の申請者は、立ち入り検査を拒むことはできない。この世界的な非常事態に乗じる不正受給者が出ないよう、願うほかない。

申請する事業主、社会保険労務士の反応は

今回発表された追加措置について、雇調金の申請準備をしていた事業主側はどう思っているのか。東京都でIT企業の経理担当をするBさんは「申請の準備はしていたのですが…週ごとに新しい情報がでますし、やり方が変わるので、いつ申請すればいいか迷ってしまいます」と本音を漏らす。気にしているのは、一部報道で出ている雇調金の上限額の引き上げ。今は1日1人あたり8330円が上限だが、これを1万5000円まで引き上げる方針であると目にし、本決定するまでは申請を待つか検討している。

「それに、計画届の提出が不要といっても、厚労省の資料には『休業等計画届と一緒に提出していた書類の一部については、支給審査に必要なため、支給申請の際に提出していただきます』と書いてあるんですよ。でも、その『一部』が何か分からない。確認しようにも、管轄のハローワークは全然繋がらないし、文言の意味を確認するだけで大苦戦です」(Bさん)

前述の社会保険労務士の牧野氏は手続きの簡素化は評価しつつも、「事業主の勤怠管理を正さなければ根本解決にならないのでは」と指摘。4月は全国で緊急事態宣言が発出され、従業員全員で休業をとる企業も多かっただろう。しかし、5月に入り、緊急事態宣言が解除されたエリアでは従業員の一部が出社したり、短時間休業に切り替えたりするなど、営業を少しずつ再開する動きが出てきた。

この動きに対し牧野氏は「全休ならば簡素化した申請方法で申請しやすいのですが、短時間休業は厚労省が定めたルールがあり、少々複雑です。しかし、それを理解せずに短時間休業をとる事業主は多く、タイムカードをみて『これは支給されないのでは』と思うことが多々あります」と、過去の経験から話す。徐々に営業再開する企業が増える中、今後また新たな問題が発生するのではないかと危惧している。

申請はしやすくなったものの、まだまだ課題も残る雇調金。申請はできても、不備があって受け取ることができなければ、事業主にとって意味がなくなる。厚労省も5月に入り、雇調金の解説動画や、厚労省HPの雇調金に関する説明を改良するなど申請数を増やすために奔走しているが、今回の追加措置で芽がでるのだろうか。

さらなる拡充も検討中、直接給付の「新制度」も

現在、雇調金は更なる拡充として、1日1人あたりの上限額である8330円を更に引き上げようとする政府の動きがある。自民党の広報に取材したところ、「現在、自民党の作業チームが雇用調整助成金の上限を1万5000円まで引き上げるよう、政府に提言する方向で動いている」と発言があった。

その中には、雇用調整助成金を申請しない事業主のもとで働く従業員が、自身で直接支給申請できる新制度も含まれているという。これは、5月14日に安倍晋三首相が記者会見で述べている。中小企業を対象に、月33万円程度を上限として支給する方針のようだ。詳細や支給時期は確定していないものの、自民党広報は「第2次補正予算案に組み込むよう動いている段階」と話した。

これらが実現されれば、休業手当の支払いに苦しむ事業主も、休業手当が支払われず苦しむ従業員も、事業運営や生活するための資金を受け取ることができるようになる。家賃滞納に苦しむオーナーにとっても追い風となるだろう。

緊急事態宣言が解除されても、経済が回復するのはいつになるかまだ分からない。店子と一緒にこの危機を乗り越えられるよう、こういった制度の更新は引き続きキャッチアップしていきたい。

(楽待新聞編集部)