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新型コロナウイルスの影響による外出自粛の動きを受けて、不動産売買の現場では「非対面対応」「オンライン化」といったデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きが前進しつつある。ビデオ面談やオンライン内見などに対応する不動産会社も徐々に増加しており、この流れは今後さらに加速していくことも予想される。

一方、不動産投資に密接な関わりのある「融資」の現場に目を向けてみると、ローンの申し込みや面談、契約などはいまだに対面でのやりとりが中心で、DXの動きはかなり遅れているのが現状だ。コロナショックを契機に不動産投資家の間でも融資業務のオンライン化を求める声が強まっているが、金融機関側がその期待に応えているとは言い難い。

不動産に限らずさまざまな業界でDXの動きが活発化する中で、金融機関の取り組みはなぜ遅々として進まないのか。その理由に迫る。

メールすら送れない

「先月に融資を受けた地銀は、個人はもちろん支店にすらメールアドレスがなく、資料は持参かFAXか郵送のみ。ZoomだSkypeだの前に、まずメールでのやり取りができるようになってくれないと…」

不動産投資歴20年、東京都の60代男性はあきれた表情でそう語る。

現在、一般企業の名刺の大半にはメールアドレスの記載があるが、地銀や信金・信組ではメールアドレスが記載されていないことも多く、あっても個人ではなく支店単位のメールアドレスである場合が少なくない。

「面談後に火災保険の見積書や建築関係の書類など2、3回にわたり追加資料を求められたんですが、そのたびに20分かけて支店に行ったり、コンビニからFAXを送ったり…。こんなの他の業界ならあり得ないですし、今の時代にそのスタイルで商売できるのが逆にすごいと思いましたね」

IT技術が飛躍的に発展する中にあって、セキュリティや情報漏洩リスクの観点からデジタル化で遅れを取ってきた銀行業界。コロナショックをきっかけに各業界でZoomなどビデオ会議ツールでの営業活動も一般化してきているが、メールの利用すら十分に進んでいない中で、業務のオンライン化はそう簡単なものではない。

「完全非対面」が可能なのは1行だけ

楽待新聞が6月、投資用不動産向けの融資を扱う金融機関28行に電話ヒアリングを実施したところ、「投資用不動産ローンでオンライン化の取り組みをしている」という回答があったのは28行中9行のみ。その9行も大半が「申請のみWEBでも受け付けている」「金消契約だけはメールと電話で可能」など、部分的な対応にとどまっているという結果だった。

唯一、申し込みから契約まで完全非対面で完結できる場合があるのは、以前からオンライン化の取り組みで先行しているオリックス銀行。ローン申込や面談、契約などについて、WEBや郵送、電話、オンライン会議ツールを活用することで極力非対面で融資を行っている。

オンライン化するメリットがない

なぜ、融資業務のオンライン化は進まないのか。前述したようにセキュリティ面の問題もあるが、金融機関からは非対面でのコミュニケーションへの不安の声も多く聞かれる。

ある政府系金融機関は「投資家にとっては来店が不要になるメリットは大きいと思うが、金融機関側からすると、投資家の人物像や経営ビジョン、熱量をオンラインだけで測るのは難しい」と説明。南関東の地銀も「対面と比較すると細かい要望を読み取りにくく、コミュニケーションの密度が保てないのが問題」という意見だった。

現在、地銀の支店審査部門で管理職を務めている「FP大家」さんは「私の銀行でもアパートローンは面談と金消契約の最低2回は対面が必要。何千万、何億という金額を貸し出す相手なら直接会って人となりを知りたいというのが本音で、そもそもエビデンスの原本確認を義務付けているのに本人確認はオンラインでもOKというのは理屈が通らない」と話す。

契約時などの細かい説明の煩雑化、高齢者など対面を好む層からの反発など、オンライン化を推し進めることで予想される代償も少なくない。莫大な設備投資をしてまでオンライン化のシステムを構築するだけのメリットを、多くの金融機関が感じられていないのが現状といえる。

ただ貸出を増やせばいいわけではない

オンライン化を阻む壁は、金融機関特有の収益構造にもありそうだ。銀行事情に詳しい金融アナリストの高橋克英氏は「商品を売れば売るほど儲かる製造業などと違って、銀行はただ貸出額を伸ばせばいいというわけではない。オンライン化で融資の申請件数が増えれば申込者の属性も玉石混交になり、不良債権化のリスクも高まる」と指摘する。

現場の金融機関からも「対面よりもハードルが下がることで、属性のよくない人からの相談が増えることは避けたい」(北関東の信組)「接点の拡大ができるのはオンライン化のメリットだが、相談が増えすぎて対応できなくなる懸念はある」(南関東の信金)といった声が上がる。

実際に、コロナショックで顧客からのニーズが高まる中でも、多くの金融機関は「変革より現状維持」という保守的な姿勢を崩していない。

電話ヒアリングで「今後、投資用不動産ローンの融資フローでオンライン化を推進していく予定はあるか」と質問したところ、28行中19行が「今のところない」と回答。「顧客のニーズはあるが、情報漏洩の懸念がある以上は実施できない」(都内の地銀)「システムの安全性や融資審査の厳格性が現在と同水準に保てるか検討が必要」(南関東の地銀)など、思いきった変革に後ろ向きな姿勢が浮き彫りとなっている。

メガバンクのデジタル戦略

業界全体でオンライン化への動きの鈍さが目立つ中、比較的前向きな姿勢を示しているのがメガバンクだ。以前から電子契約サービスなどに力を入れる某メガバンクは「非対面による電子ベースの処理はスピードが早く、申請や契約でミスがあっても素早く修正できる」と、業務効率向上のメリットを指摘。4月はアプリ経由での口座開設が前年同月比で2.2倍に増えたといい、デジタル戦略を強化した成果が表れている様子だ。

3年前までメガバンクに勤務していた「投資家SA」さんは「近年はどのメガバンクも低金利の長期化で利ざやが縮小し、経費や人員を削減する動きが強まっている。店舗の統廃合やリストラが進む中、営業拠点を集約してオンライン対応を強化することは時代に即した動きで、今後は対面営業からオンラインへのシフトが加速していくだろう」と話す。