PHOTO:CORA/PIXTA

6月12日に第2次補正予算案が可決し、「家賃支援給付金」が支給されることになりました。ただしこの給付金は事業者のみが対象で、一般の入居者さんが支払っている家賃は対象とはなりません。また事業者であっても、「連続する3カ月の売上が30%以上減少」といった条件があり、今後も大家さんにとって予断を許さない状況が続くと思います。

現状、コロナの影響を受けていない大家さんでも、今後は家賃減額を求められた場合の対応は考えておく必要があるでしょう。そこで今回は、前回ご紹介した支援策のうち、大家さんが返済する必要のない3つを活用した場合、いくらまで家賃減額に耐えられるのかシミュレーションをしてみたいと思います。また、長期的な視点から物件の保有を継続するか売却するかの検討方法についてもお話したいと思います(税理士・大野晃男)。

大家さんが使える3つの支援策をおさらい

現在、新型コロナウイルスに関連したさまざまな支援策が打ち出されており、中には大家さんが利用できるものもあります。こうした支援策を実際に活用した場合、どれくらいの恩恵が受けられるのでしょうか?

それを検証する前に、まずはそれぞれの支援策の概要をおさらいしておきましょう。大家さんが現在利用できる支援策のうち、融資などの制度を除いたものは以下の3つになります。

【1.持続化給付金(法人のみ)】

コロナの影響により、ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少している事業者を対象に、法人は200万円、個人事業者は100万円を上限に受け取れる給付金。

<給付額の計算方法>
昨年売上金額-対象月売上×12カ月=給付対象額(上限あり)

<注意点>
・個人は事業所得がある人のみが対象(賃貸業は不動産所得のため対象外)
・法人なら賃貸業でも給付対象になる
・物件1棟での判断ではなく、法人全体の売上が減少しているかで判断
・コロナの影響による売り上げ減少が要件

【2.固定資産税の減免】

コロナの影響により、連続した3カ月の売上が前年同月比で一定割合以上減少している場合、2021年度(令和3年度)の事業用の家屋と償却資産を対象に、固定資産税の減免を申請できる。

減免割合
2020年2~10月までの任意の3カ月間の売上高を前年同期間と比較した結果を基に、以下の表の通りに適用される。

固定資産税減免の要件と割合(クリックで拡大)

<注意点>
・アパートやマンションの敷地の土地は対象外
・自宅も対象外

【3.国民健康保険料の減免】

新型コロナウイルス感染症の影響により、主たる生計維持者が死亡又は重篤な傷病を負った場合は100%(全額)、主たる生計維持者の収入(事業収入、不動産収入、山林収入、給与収入)のいずれかについて、前年の収入の30%以上減少が見込まれる場合は20~100%の減免となる。

<要件>
・国民健康保険の加入者、つまりサラリーマンなどではなく、個人事業主が対象(不動産所得者も対象)
・前年の合計所得金額が1000万円以下であること
・減少することが見込まれる収入以外の前年の所得(年金などの雑所得や一時所得、譲渡所得など)の合計額が400万円以下であること

<減免割合>
対象保険料額×減額・免除割合=保険料減免額

上記の「対象保険料額」は、「当初の保険料額×減少する収入に係る前年の所得額/前年の合計所得金額」で計算、また「減額・免除割合」は下表の通り算出する。

国民健康保険料の減額・免除割合

<注意点>
・廃業や失業の場合は、前年の合計所得にかかわらず全部免除
・減収見込みでも申請可能

家賃減額、いくらまで耐えられる?

まずは個人事業主の大家さんのケースで考えてみましょう。毎月の家賃収入が60万円の個人事業主の大家さんが、3カ月間30%の家賃減少があった場合を取り上げます。先に挙げた3つのうち、個人事業主の大家さんが受けられるのは、「固定資産税の減免」と「国民健康保険料の減免」です。まずは固定資産税の減免額を試算します。

(クリックで拡大)

前提として、建物の固定資産税は50万円とします。3カ月間30%の家賃減少の場合には、固定資産税の減免割合は50%です。したがって、50万円×50%=25万円となり、固定資産税の減免額は25万円となります。

次に、国民健康保険の減免額を試算します。前提として、国民健康保険料が30万円、前年の合計所得金額が550万円、前年の合計所得金額のうち不動産所得分が440万円、前年の合計所得金額550万円の場合の減免割合は60%です。したがって、30万円×400万円/550万円×60%=約13万円となり、国民健康保険料の減免額は13万円となります。

3カ月間で減少する家賃54万円に対して、大家さんが受けられる支援額は38万円となり、損失額は16万円です。固定資産税の減免は2021年分に適用されるので、2021年までの間に手残りが16万円減少しても経営に影響がないようなら、3カ月間30%の家賃減少までは耐えられることになります。

次に、法人大家さんの場合を見てみましょう。

毎月の家賃収入が100万円の法人大家さんで、5カ月間50%の家賃減少があった場合を考えてみます。法人大家さんが適用を受けられるのは、「持続化給付金」と「固定資産税の減免」です。

(クリックで拡大)

まずは持続化給付金の支給額を試算します。前提として、前年同月の家賃が100万円だとします。すると、100万円×12カ月-50万円×12カ月=600万円(上限200万円)となります。

したがって、持続化給付金の支給額は上限の200万円です。次に固定資産税の減免額を試算します。前提として、建物の固定資産税が50万円、5カ月間50%の家賃減少の場合には、固定資産税の減免割合は100%です。したがって、50万円×100%=50万円、固定資産税の減免額は50万円となります。

5カ月間で減少する家賃250万円に対して、大家さんが受けられる支援額は250万円となり、損失額は発生しないことになります。ただし、先行して家賃が250万円減少し、その穴埋めは固定資産税減免の2021年までかかりますので、手残りが一時的に減少しても耐えられるかどうかを検証しておく必要があります。

給付金・税の減免目的で家賃を下げても大丈夫?

先に紹介した支援策は「コロナの影響による減収」が要件ですから、影響が出ていないのに家賃を減額するのは問題です。

しかし入居者さんの中には、家賃を減額してもらいたくても言い出せない人や、他の支出を削って何とか家賃を支払っている人もいるのではないかと思います。そのような入居者さんに、「家賃の支払いにお困りではないでしょうか?」と話し合うきっかけをつくることは問題ないでしょう。

その話し合いによって、入居者さんと大家さんが結果的にWin-Winになればよいと思います。話し合いで折り合いがついたら、「新型コロナウイルス感染症の影響によって、収入が減少していることで、家賃を減額する」という内容の契約書(覚書)を締結しておく必要があります。

保有と売却の手残りを比較してみる

最後に、現在の状況で物件を保有し続けるべきか、それとも売却を検討すべきかをどのように考えるべきなのでしょうか。まず、保有を継続した場合のキャッシュフロー(手残り)は以下のように計算します。

<保有を継続する場合のキャッシュフロー>

家賃収入-固定資産税その他経費-借入返済-税金=手残り(年間)

手残りは保有期間にわたって毎年発生するため、保有見込み年数の累計で考える必要があります。ただし、借入金の利息は毎年減少し、税金も変動するため、毎年の手残りは一定ではありません。そのため、長期間にわたってキャッシュフローがどのように推移するのか、事業計画を作成してシミュレーションしてみましょう。

また保有し続けた場合は、空室や家賃減額など家賃収入が減少する可能性がありますので、家賃が減少した場合に手残りがどうなるのかも試算しておく必要があると思います。

次に、売却した場合のキャッシュフロー(手残り)は下記で計算します。

<売却した場合のキャッシュフロー>

売却金額-借入金残債-売却諸費用-売却税金=手残り

すでに保有に不安がある場合には、手残りが0円になる売却金額(損益分岐点)を計算して売り時を待ちます。損益分岐点とは、下記の場合の売却金額のことをいいます。

<損益分岐点の考え方>

売却金額-借入金残債-売却諸費用-売却税金=0円

実際の売却金額(査定金額)が損益分岐点よりも高ければ、手残りが発生することになります。実際に売却する場合の手残りが、保有していた場合の手残りの何年分に相当するのかを計算して、保有を継続するか売却すべきかを検討します。

緊急事態宣言が解除されてもまだまだ安心できない状況が続くと思います。家賃が減額されたらどうなるかをシミュレーションして今から準備をしておきましょう。また、保有か売却かを数字で比較して検討しておくことも必要だと思います。

もし減額交渉されたら、まずは大家さんのお金がどのように流れているのかを理解して、どの部分に対処すべきかを検討しましょう。

(大野晃男)