先日、楽待新聞で報じた「お人よしすぎる大家」さんによる追跡劇。大家のYUKIさんが、インターネット掲示板を通じて入居申し込みをしてきた「斎藤」という男に約200万円を持ち逃げされ、その足取りを追うことになった顛末を記事と動画でお伝えした。

緊急事態宣言が解除された5月下旬、YUKIさんから編集部へ連絡が入った。「斎藤の居場所がわかりそうなんです」。情報提供者によると、斎藤らしき人物が大阪にいるという。YUKIさんは、その情報を頼りに大阪へと向かった。

貯金ゼロに、覚悟を決めた大阪入り

朝9時半ごろ、同じく斎藤に金を取られ、これまでもYUKIさんと情報を提供し合ってきた被害者2人と合流。車を使って、移動を開始した。目的地は大阪府某市。現在斎藤とその妻がいると思しきエリアだ。関西在住で、YUKIさんの事情を知っていた知り合いの大家から、YUKIさんのもとに「うちの物件に斎藤が内見に来て、『今、某市のテラスハウスに住んでいる』と話していた」と情報提供があったのだ。

この日、YUKIさんに同行したのは、以前斎藤に塗装材などを供給していたものの、代金約150万円を支払わないまま逃げられてしまったという男性Aさんと、やはり所有物件で夜逃げされたというBさんだ。Aさんは「怒りよりは、自分が情けないという気持ちの方が大きい」と心境を語る。

一方、斎藤による被害額とこれまでの追跡にかかった費用がかさみ、自身の貯金がほぼゼロになってしまったと明かすYUKIさん。金を取り返したい思いとともに、斎藤に心から反省してもらいたいと行動している。

「もし斎藤を捕まえることができれば、まずは被害者全員に連絡して、謝らせたい。その後のことは…今は考えていません」

「少しでも金を取り戻したい、謝罪させたい」というYUKIさん

まさかの事態、斎藤本人と遭遇

斎藤が住んでいると思われる場所への道中、3人は朝食を買いにコンビニへ。すると、見覚えある顔の男性と遭遇した。斎藤だ。

車に乗り込む斎藤の姿

突然の事態に全員声をかけることができずにいたものの、斎藤が乗り込んだ車の後を追走。斎藤が別の場所で車を停めたところで、YUKIさんらも車から降りる。だが車内にその姿はなく、周囲にもそれらしき人物は見当たらない。

見失ったかと思ったその瞬間、歩いてコンビニへと向かう斎藤の姿を発見した。コンビニから出てくるのを待ち構えて、声をかける。

「斎藤、斎藤!」

その名を呼ぶと斎藤は振り返るものの、特に動揺した様子は見せない。

「俺の顔忘れた?」

Aさんが聞くが、「誰でしたっけ?」ととぼけたように答える。

「誰かわかるでしょ」
「本当にわからない、ごめんなさい。俺忘れちゃってて」
「コンプレッサー忘れたでしょ。うちに」
「ああ!」

Aさんの言葉に、斎藤はわざとらしいほどに大きな声をあげた。続けて、「ごめんなさい、すいません」と謝罪の言葉を口にするが、その言葉に真剣さは感じとれない。

YUKIさんが「春日部の家はどうするんだよ」と斎藤が夜逃げした物件のことを持ち出し問いただすと、「YUKIさんのこと、全然わかんなかったです。ごめんなさい。返済します」とやはりどこか軽い調子で答えた。

「詐欺でもなんでもして、返しますんで」

「斎藤、嫁は?」
「別れちゃった。逃げられた」
「それはないね。家にいるよな」
「ここにいる人間、お前のこと100%信用してないからな」

被害者の追及に、斎藤はこの期に及んでも嘘をつく。問い詰めると、実際は家にいると白状した。その斎藤の妻のもとを、斎藤とともに訪れる。

家から出てきた妻は、突然の事態をうまく理解できていない様子だ。「何、なに…怖い」と泣き崩れる。斎藤は、妻に車に乗りこむよう告げた。妻の両親に電話をかけ、お金を借りるという。だが、何度かけても妻の両親の携帯電話がつながることはなかった。

頼る先を無くした斎藤は、「詐欺でもなんでもして、返しますんで」と言う。YUKIさんは「とりあえず警察に連絡する」と返すが、斎藤らは「それだけは勘弁してください」と懇願した。

「なんとしてでもお金は返しますんで。悪いことでもなんでもします」

埒が明かない話し合いの中、斎藤は現在お世話になっているというリフォーム会社の社長に電話をかける。

「金を貸してください。助けてください」と電話越しに頭を下げられた社長が駆け付け、YUKIさんらとの話し合いに合流した。

社長は斎藤の過去を把握したものの、現在の働きぶりを評価。擁護の姿勢を見せていた。しかし、大阪まで来て、謝罪以外の収穫なしに帰ることもできない。双方の意見がぶつかり合い、話し合いは1時間にわたったが、最終的には返済分を斎藤の給与から天引きし、そこからYUKIさんらの口座に振り込む形をとるということで決着した。

「遊ぶ金欲しさじゃない」…なぜ逃亡を繰り返すか

そもそも、なぜ斎藤らは家を転々とし、夜逃げを繰り返すのだろうか。その問いに、斎藤は「YUKIさんたちだけじゃないんで。追われているのが…」と返す。定期的に家を移らないと、以前同じ手口で生み出してきた被害者らに捕まってしまうからだそうだ。金を持ち逃げするのも、逃亡費用としているだけで「遊ぶ金欲しさじゃない」と言い訳する。

犬3匹と猫2匹と暮らす斎藤とその妻。餌代は毎月3万円以上かかり、病気だという犬の手術費に20万円かかることもあると訴えた。

「詐欺をしようとして詐欺をしたわけじゃない。私もお金を持ち逃げされたりいろいろあって…。結局言い訳だけど、結果的にそうなってしまった」

斎藤が飼っている犬は「モモ」と呼ばれていた

そして、斎藤はYUKIさんに向かって次のように言った。

「本当にもう逃げないです。逃げても同じで、疲れるだけなんで。今回のことをいいきっかけにしないと…」

何度も謝罪し、頭を下げる斎藤。YUKIさんは、斎藤と、斎藤が毎日連絡をYUKIさんに入れるという約束をした。

被害者に頭を下げる斎藤、しかし…

「奥さんと、ペットと、仲良く暮らしてくださいね」

YUKIさんは最後にそう言って、斎藤の家を出た。

ようやく長い追跡劇に幕を引くことができたYUKIさんは、「やっと終わった」と安堵と疲れの混じる表情を浮かべる。だが、その中に「また逃げるかもしれない」と不安もにじませた。

終幕かと思いきや、再び…

大阪から東京に戻ってきた3日後、YUKIさんから再び連絡が入った。

「やられました。また逃げられました」

事情を知りながら斎藤を雇い、返済の道筋をつけてくれた社長も裏切り、斎藤は再び200万円あまりを取引先の業者から勝手に集金した挙句、その金を持って姿をくらませたのだ。毎日すると言っていた連絡も、もちろん途絶えた。

「もう笑うしかないですよね…。また逃げるかもしれないとは思っていましたが、こんなに早いとは…」。YUKIさんは電話の向こうで力なくそう話す。

だが、今後も同様の被害者が出続けることを想定し、「ここまでやったんだから、追いかけ続ける。止めるしかない」と話すYUKIさん。

「今回の件で本当にたくさんの人と出会えて、そういう人たちとリフォームしたり作業したりするのはすごく楽しい。斎藤のおかげで、プライスレスなものを手に入れたのかもしれない、と思うようにしています。ネガティブに考えたら、どんどんマイナスになっちゃうんでね…」

「騙されるヤツにも責任がある」「甘すぎる」という意見ももちろんあるだろう。不動産投資家としては、時にはシビアに、冷静に判断する力は必要となってくる。しかし、心から謝罪すると述べたその舌の根も乾かぬうちに再び人を裏切り、金を持ち逃げするような卑劣な人物もまた、許されるべきではない。

大家自身が入居希望者を見つけたり、入居者とやり取りをしたりというケースはまれではない。その際には、その入居希望者が信頼に足る人物なのか、家賃収入が途絶えるリスクがないかどうか、客観的な資料に基づき、十分に吟味しておきたい。

YUKIさんも、これまで何度も自分の甘さを口にして反省してきた。今はただ、これ以上自分と同じような被害者を出したくないという思い、そして、自分が前に進むための区切りとしたいという思いに突き動かされているように感じた。

斎藤との完全な決着がつくその日まで、YUKIさんらの執念の追跡は続く。

(楽待新聞編集部)