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6月12日、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下、賃貸住宅管理適正化法)」が成立した。この法律により、サブリース契約や管理受託契約の前に重要事項説明が義務付けられ、管理業者は国土交通省への業者登録が必要になる。

国土交通省が2019年12月に実施した「賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査(家主)」によると、賃貸住宅を管理業者に委託しているオーナーは約8割。そのうち約半数のオーナーが「管理業者との間でトラブルが発生した」と回答した。特に「サブリース契約」においては、不当な勧誘行為や契約条件の誤認がたびたび生じるなど、社会問題にもなり喫緊の対応が求められていた。

こうした問題を受け、トラブルを未然に防ぐための「サブリース契約の規制」と管理業界の健全化に向けた「賃貸住宅管理業者の登録制度」が定められた。本記事では、サブリース契約に生じている課題とともに、賃貸住宅管理適正化法の概要について紹介する。オーナーは管理業者との契約がどのように変わるのか、注目してほしい。

社会問題に発展した「サブリース契約」

最初に「サブリース契約」について、不動産投資初心者向けにおさらいしておこう。

サブリース契約とは、アパートなどの賃貸住宅を管理業者がオーナーから一括で借り上げ、入居者へ転貸することだ。オーナーは物件を一括で管理業者に貸して賃料を受け取れるため、空室が発生しても一定の賃料収入が保障されるというメリットがある。ただし、管理業者には賃料の10~20%の手数料を支払う必要があり、入居者が支払う家賃を満額受け取れず収益性が低下するというデメリットもある。

また、近年多発しているサブリース関連のトラブルの1つが「家賃保証などの契約条件の誤認」だ。たとえば、オーナーは30年間一定の賃料収入が保障されると思って購入したのに、近隣の賃料相場との相違を理由に、管理業者から家賃保証金額の減額を求められるケースだ。借地借家法では、「貸主(オーナー)」より「借主(管理業者)」が保護されるため、管理業者から家賃減額の申し立てや契約解除の要求ができる点が問題視されている。

このようなトラブルは、オーナーが管理業者から十分な説明を受けていないことから発生していることが多い。そこで今回の法律で「サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化に係る措置」が定められ、サブリース契約するために必要な規則が設けられた。

サブリース契約前に重要事項説明が必要に

トラブルを未然に防止するため、サブリース契約をする全ての管理業者に対して、勧誘時や契約締結時に一定の規制が導入されることになった。その中で主な2つの規制について紹介しよう。

1.不当な勧誘行為の禁止
サブリース契約の勧誘時に、故意に事実を告げず、又は不実を告げるなどの不当な行為を禁止する内容。具体的には「10年後に家賃改定の見直しがあることを告げず、広告で30年間の家賃保証を告知する」などの行為が該当する。これはサブリース契約を案内するアパートメーカーなどの勧誘者も規制の対象となり、違反した場合は管理業者と同様に処分を受けることになる。

また、家賃改定に関する記載はあるが、オーナーが口頭で説明を受けていない場合、「故意に事実を告げないこと」に該当するのかを、国土交通省に問い合わせたが「ケースバイケースになるので、回答できない」と明確な答えを得られなかった。

2.重要事項説明の義務化
不動産の売買や仲介の重要事項説明書と同じように、サブリース契約の締結前に、家賃や契約期間、契約の更新に関する内容などを記載した書面を交付して説明する義務が生じるようになる。この規制により、オーナーが契約内容を理解しないまま、サブリース契約を締結してしまうのを防ぐのが狙いだ。

ここで注目したいのは、本法律の第35条にある「何人も、特定賃貸借契約の適正化を図るため必要があると認めるときは、国土交通大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる」という部分だ。

これにより、不当な勧誘行為をされたり、重要事項の説明がなかった際は、契約当事者ではない親族や弁護士でも、国土交通大臣に申し出ができるようになる。申し出をしたあとに対処されるかは案件ごとの判断になるが、たとえば高齢のオーナーに代わって息子が申し出をするケースなどが想定できる。

契約内容の誤認トラブルはなくなるのか

この規制によって、サブリース契約にまつわるトラブルは本当に減少するのか、サブリース問題に詳しい阿部栄一郎弁護士は次のように話す。

「今回の法律は、契約時にその内容を理解することに重点を置いています。一方で、事後的な救済には繋がらない内容と言えるでしょう。たとえば、サブリース契約を締結するのは、本業が多忙であるか、不動産投資の知識が少ないオーナーで、自主管理に切り替えられない人が多い。そのため、一度サブリース契約をしてしまったら、物件が存在する限り、サブリース業者に頼らざるを得ないオーナーも多いということです。重要事項の説明を受けて契約したとしても、大幅な家賃保証の減額を提示されたら受けざるを得ないオーナーもいると思いますので、トラブル自体は今後も発生するでしょう」

一方で、重要事項説明書が必要になることで、こんな効果が期待できるとも話した。

「今後、国土交通省が契約内容をどこまで記載するかの基準とするため、重要事項説明書のひな型を作成することが予想できます。各管理業者はそのひな型にそって重要事項説明書を作成すると思われますので、家賃の減少リスクがあることを知らずに契約するオーナーは減るのではないでしょうか」(阿部氏)

実際、国土交通省に問い合わせたところ、「まだ決まってはいないが、そうしたひな型の作成は検討していきたい」との回答があった。

今回の規制も、全てのトラブルに対応できるわけではない。ただし、重要事項説明の義務化により、契約内容の「基準」がつくられることになる。オーナーが内容を誤認したまま契約してしまう、といったケースが減少することに期待したい。

「業務管理者」が営業所に1人必要に

続いて今回の法律のもう1つの柱である「賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設」について紹介していこう。「賃料や敷金返還の入金遅れ」「管理業務の未報告」などのトラブルを防ぎ、オーナーが管理業者に安心して管理を依頼できるように、賃貸住宅管理業者の登録制度を導入する。

賃貸住宅管理業に係る登録制度の創設
(1)賃貸住宅管理業の登録
(2)賃貸住宅管理業者の業務における義務付け

(1)賃貸住宅管理業の登録
不動産の売買や仲介を行うのに宅建業の免許登録が必要なのと同様に、賃貸住宅管理業務(賃貸住宅の維持保全、金銭の管理)を行うにも、国土交通大臣の登録が必要になる。実はこれまでも、今回の法律と同様の目的でつくられた「賃貸住宅管理業者登録制度」という制度があった。

しかし、登録は任意であったため浸透せず、登録会社数を国土交通省に問い合わせると「全国の管理業者が約3万2000社に対して、約4500社」との回答だった。今回の新しい登録制度は、ほとんどの管理業者に登録が義務付けられ、業務内容に一定の基準が定められているため、管理業者の質の向上に繋がることだろう。

ちなみに国土交通省によると、賃貸住宅管理適正化法は「不特定多数のオーナー相手に賃貸住宅管理業を行っている業者の質の向上」が目的のため、管理戸数が200戸未満など一定規模を満たさない管理業者は登録の義務はないようだ。また、家賃や資金の管理だけをする管理業者も、管理業務には該当しないという理由で登録は不要になる。

登録方法はまだ決まっていないため、制度の詳細が決まると共に判明していくと思われる。また、登録は施行後1年間の猶予期間があるので、施行までに全ての管理業者が登録する必要はないようだ。

(2)賃貸住宅管理業者の業務における義務付け
登録を受けた賃貸管理業者は主に4つの義務が課せられるようになる。

1.業務管理者の配置
不動産会社でいう宅地建物取引主任士のように、賃貸住宅管理の知識や経験などを持つ「業務管理者」が営業所や事業所ごとに1人必要になる。「賃貸不動産経営管理士」あるいは「宅地建物取引士」の資格を持つ者が、国の定める講習を受けることで、業務管理者になれる予定だ。

2.管理受託契約締結前の重要事項の説明
サブリース契約と同様に、管理受託契約締結前にも、実施する管理業務や契約更新の内容を示した重要事項説明が必須になる。こちらは不動産の売買や仲介とは違い、説明者が専門の資格を有する必要はなく、一般の従業員でも説明することができる。

3.財産の分別管理
管理業者は、家賃や敷金などの預かり金を必要な時に遅滞なくオーナーに送金できるようにするために、自己の固有の財産などと分別して管理する義務が課せられる。具体的には、銀行口座を分けて別々に管理することが挙げられる。また、預かり金の保全策として、公共財団法人日本賃貸住宅管理協会の「日管協預り金保証制度」を管理業者は利用することもできる。

4.定期報告
管理業務の実施状況について、オーナーに対して定期的に報告する必要が生じる。今まで不透明だった管理業務実施内容をオーナーは確認できるようになる。報告内容や形式の取り決めは未定で、今後定まっていく見通しだ。

契約弱者だったオーナーの立場が変わる

ここまで、サブリース契約の規制、管理業登録制度について紹介してきた。施行時期についてはともに遅くとも、サブリース契約の規制が2020年12月、管理業登録制度は2021年6月となる予定だ。賃貸住宅管理適正化法に違反した業者は、罰金や業務停止などの監督処分を科せられるので、オーナーと管理業者のトラブルは一定数減少するだろう。

賃貸住宅管理適正化法が定められることで、今後期待できることを阿部弁護士に聞くと「管理業者に登録義務が出来ることで業者の質が向上し、適切な賃貸住宅管理を行う会社が増えるだろう」と話す。また、サブリース契約に関しては「今までの判例では、借主である管理業者が保護される立場であったが、今後は消費者契約法のようにオーナーが保護される側の立場として見られる可能性がでてくるだろう」と話した。

これまで、オーナーは家賃の減額リスクを十分に説明されずにサブリース契約を結んでしまい、さまざまなトラブルが起きていた。賃貸住宅管理適正化法ができることで、今後は解消されることを期待したい。しかし、サブリース契約に重要事項説明書の説明が義務付けられたとしても、家賃の減額リスクがあるのは変わらないので、オーナーは家賃保証などの契約条件を正しく理解することが重要になる。

「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」の詳細やQ&Aは、日本賃貸住宅管理協会のHPに記載されている。今後、重要事項の説明書のひな型や、サブリース契約時に必要な説明のガイドラインなども出てくると予想されるので、新しい情報に注目していきたい。

(楽待新聞編集部)