東京・水道橋の住宅金融支援機構本店(soraneko / PIXTA)

住宅金融支援機構が提供する低金利の住宅ローン「フラット35」を不動産投資に不正利用していたオーナー約150人が、契約違反として機構から残債の一括返済を求められ、一部が自己破産に追い込まれていることが分かった。オーナーからの相談を受けている加藤博太郎弁護士によると、相談者9人のうちすでに2人が自己破産の申し立て手続き中で、残りもほぼ全員が自己破産を避けられない見通しだという。

オーナーのほとんどは実勢価格を大きく上回る価格で物件を購入しており、競売にかけられたとしても多額の債務が残る状況で、サブリース契約を打ち切られて家賃収入が途絶えているケースも少なくない。加藤弁護士は「購入者は年収の低い若年層も多く、売却後に1000万円近い負債が残れば持ちこたえられない。自己破産者はこれから100人を超える可能性がある」とみている。

自己居住用と偽って投資物件を購入する行為は「なんちゃって」と呼ばれ、業界では古くから横行していた手口だ。今回、調査を進めていくと、業者側が巧みな営業トークで投資家にフラット35のローンを組ませ、さらに二重売買契約や架空のリフォームローン契約などによって組織的に金をむしり取るスキームの実態が浮かび上がってきた。フラット35販売首位のアルヒ(東京都)による審査の甘さも問題視されている。

148件中145件で不正認定

フラット35は自己居住目的の住宅購入者に対し、アルヒなど住宅金融支援機構と提携した民間金融機関(モーゲージバンク)が融資をする仕組みで、1%ほどの固定金利で最長35年の融資が受けられる。投資目的の利用は認められていないが、金利の高い投資用ローンを使うより収益性が上がるため、自己居住と偽って投資用物件を購入する「なんちゃって」と呼ばれる不正が以前から横行していた。

住宅金融支援機構が昨年、外部の指摘で不正利用の疑いが浮上した案件162件について調査したところ、購入者にヒアリングした148件のうち145件で自己居住用と偽った不正な申し込みがあったことが発覚。いずれも「なんちゃって」の不正だけでなく、金額の異なる2種類の売買契約書を作って融資額をかさ上げする「二重売買契約」も行われていた。

金消契約書には、債務者が貸主の承諾を得ず自己居住目的以外に借入金を使用した場合は「期限の利益(一定期限までは債務の履行を請求されない債務者側の利益)」を喪失し、全額返済義務を負うという条項がある。機構はこの条項に基づき、これらの不正があった案件のオーナー約150人に対して残債の一括返済を求めている。

オーナーを「食い物」にするスキーム

住宅ローンと知りながら契約したオーナー側にも落ち度はあるが、加藤弁護士は「今回のフラット35をめぐる不正は、マンションの売主業者、投資家を見つけてくるブローカー、仲介業者、サブリース業者、そして融資審査を行うモーゲージバンクが絡み、組織的に行われていた詐欺的なスキームといえる」と指摘する。

加藤弁護士の調査や関係業者の証言、複数のオーナーへの取材結果を総合すると、このスキームの基本的な仕組みはこうだ。

まず、ブローカーが投資セミナーや異業種交流会などでマンションを売りつける投資家を見つけ、仲介業者に引き合わせる。仲介業者は投資家に「みんなやっているから問題ない」などとフラット35の利用を促し、投資用マンションを購入させる。自己居住用と見せかけるために住民票を購入物件の所在地へ移すよう指示し、郵便物は管理会社などに転送させることで居住実態がないことの発覚を防ぐ。

契約時は金額の異なる2種類の売買契約書を作り、実際の物件価格を上回る融資を引き出す。その差額分は裏金として、ブローカーや仲介業者、保証賃料を払うサブリース業者らにわたる。このスキームでは多重債務者が買主となっているケースも多く、「不動産を買って借金を帳消しにできる」などと勧誘して二重売契の差額分を買主の借金返済に充てていた事例も多いとみられる。

加藤弁護士によると、物件価格は実勢価格より2倍ほどに水増しされているケースも多い。裏金は1件500万円前後で、単純計算すると、機構が不正を認定した145件だけで7億円ほどが闇に消えていることになる。

あるオーナーの売買契約書。銀行提出用(上)と本来の売買代金(下)で590万円の差がある

リフォームローンによるさらなる水増しも

今回のスキームがさらに悪質なのは、二重売契による融資額のかさ上げだけでなく、買主に架空のリフォームローンや諸費用ローンなどを組ませて融資額を水増しさせていたケースもあったことだ。「オーナーの多くはそういったローンが組まれていたことを購入時に認識しておらず、勝手に申込書に記入された人もいた。ほとんどのケースでは実際にリフォームは行われていない」と加藤弁護士は指摘する。

オーナーは契約時に、売主のほか、サブリース会社など複数の関係先に送金をしているケースがある。下の画像はあるオーナーの振込伝票だが、4カ所に送金していることが分かる。このオーナーは「伝票は仲介業者の担当者が書き、『契約に必要だから』と印鑑だけ押すように指示された」と話した。

一番下にある250万円の送金先は、今回のスキームの黒幕と目されるブローカーのペーパーカンパニーとみられている。

あるオーナーが契約時に押印した4カ所への振込伝票

「破綻前提」のサブリース契約

オーナーはブローカーや仲介業者から「入居者がいなくても家賃が入ってくる」「その間はずっと手出しゼロで、返済が終われば物件があなたのものになる」といった営業トークで勧誘されていた。多くのケースでは「20年保証」といった内容のサブリース契約が結ばれているが、その契約のウラにも大きな問題が隠されている。

通常のサブリース契約では、サブリース業者が入居者から賃料を受け取り、10〜20%の手数料を引いた残りを保証賃料としてオーナーに支払う形が一般的だ。しかし、今回のサブリース契約書をみると、多くのケースで「借入返済の同額と管理費・修繕積立金の全額を支払う」という内容の取り決めになっている。

あるオーナーがサブリース業者と結んだ契約書。「借入返済の同額と管理費・修繕積立金を支払う」と記載されている(※クリックで拡大)

下の画像はあるオーナーの出入金記録だ。2019年4月25日に「15万6531円」という入金があり、これがサブリース業者から毎月振り込まれる保証賃料ということになる。一方、出金欄を見ると、住宅ローンのほか、諸費用ローンやリフォームローン、管理費などオーナーが月々支払う金額が並ぶ。

これらを全て足すと「15万6531円」で、入金額と完全に一致するのだ。

この状態の何が問題かというと、物件の実賃料は8万3000円にすぎず、サブリースの保証賃料が実賃料の2倍近くに膨らんでいるという点。つまり、二重売契や架空のリフォームローンなどで融資額を水増しした結果、見た目上の「手出しゼロ」を実現するために異常な逆ザヤ状態が生まれているのだ。

二重売契の差額分は保証賃料を払うサブリース会社にもわたっているが、この逆ザヤ状態を「20年保証」するのはもともと実現不可能で、破綻することが前提のサブリースであることが分かる。これは女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる問題で、サブリースを行うスマートデイズが飛ぶことを前提にしていたのと同じ構図だ。

なぜ、業者側はこのように無茶なサブリース契約を組んでまで「手出しゼロ」を実現する必要があるのか。黒幕とみられるブローカーは加藤弁護士の聞き取りに対し、「アルヒの都内のフランチャイズ店の担当者から『1年以内にデフォルトを起こすと機構から調査が入るので、1年はデフォルトするな』と言われていた」と証言している。

加藤弁護士によると、実際にサブリースの開始から1年経過後に保証賃料が止まり、毎月の返済だけがのしかかっているオーナーも多いという。