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7月1日、2020年の路線価が発表された。全国の平均は1.6%上がっており、5年連続での上昇となる。そこで、不動産鑑定士の浅井佐知子さんに、今回発表された路線価の注目ポイント、そして今後の土地価格の推移について予測してもらった。

今回発表の路線価、コロナの影響は?

不動産鑑定士の浅井佐知子です。

2020年度の路線価(相続税路線価)が今日、7月1日に発表となりました。全国平均は前年比1.6%上回り、5年連続で上昇したようです。上昇率のトップは那覇市の40.8%で、大阪市35.0%、横浜市34.5%となっています。

価格を見て「あれ? コロナの影響はないの?」と思われた方もいるかもしれません。今回発表された相続税路線価は、「2020年1月1日時点」の価格です。したがってコロナの影響は反映されておらず、ほとんどの地域で上昇する結果となりました。5年連続で上昇した理由としては、アベノミクス効果による景気の回復と、インバウンド需要の伸びがその背景にあると思われます。

ただし、一部報道によると、国税庁はコロナによる経済活動低迷で地価が大幅に下落した場合には、路線価を減額修正できる措置を検討しているようです。 

ところでこの相続税路線価は、不動産投資においても重要な意味を持っています。融資を利用して物件を購入する場合、土地の評価はこの相続税路線価で計算されるからです。今回のコラムでは、相続税路線価の意味や「一物四価」における位置づけをおさらいしつつ、今後の地価の推移についても予測してみたいと思います。

「一物四価」をおさらい

冒頭で触れた「相続税路線価」は、相続税や贈与税を算定する際の基準となる土地価格のことです。その年の1月1日時点の価格を、国税庁が毎年7月初旬(7月1日であることが多い)に公表しています。

土地の価格は「一物四価」などとよく言われます。全く同じ土地なのに、以下の4つの異なる価格が存在するのです。それぞれ目的も用途も異なり、公表される時期も異なっています。

1.公示価格(3月下旬に国交省が発表)
⇒土地取引の指標になる価格。「公示地価」とも呼ばれる。

2.相続税路線価(7月初旬に国税庁が発表)
⇒相続税、贈与税の課税基準を算出するための価格。

3.固定資産税評価額(各市町村が算出)
⇒固定資産税、都市計画税の課税基準を算出するための価格。

4.時価
⇒実勢価格。需給バランスによって決まる。

この中で根幹となるのは「公示価格」です。公示価格を中心に、他の3つの価格がどのような位置づけにあるのかをざっくり把握しておくとよいでしょう。

公示価格を100とした場合、そのほか3つの価格との関係は以下の通りです。相続税路線価は公示価格の80%、固定資産税評価額は公示価格の70%程度、時価はその時の状況によって変わりますが、ざっと公示価格の1.1倍程度が目安と言われています。相続税路線価も固定資産税路線価もすべては公示価格を基準に決まっているのです。

公示価格を100とした場合の、他の価格との関係

この中で一番わかりやすく、いつでもすぐに求められるのは相続税路線価でしょう。公示価格が全国にある「標準地」の価格であったり、固定資産税路線価が3年に1度評価替えされたりするのに対し、相続税路線価はほぼ全国の市街地の道路に価格がついていて、しかも毎年更新されるからです。

なお発表時期は異なりますが、公示価格、相続税路線価、固定資産税路線価のいずれも1月1日時点の価格を示しています。ですからすでに述べたように、今年の公示価格にはコロナの影響が全く織り込まれていということになります。

相続税路線価と不動産投資の関係は?

融資を利用して物件を購入する場合、金融機関はその不動産の価値がどれくらいあるかを試算します。その試算方法のひとつが「積算法」です。積算法では、土地の価格に建物の価格を足してその評価額を求めます。このとき、土地の評価額の算定に「相続税路線価」が採用されているのです。

積算価格が高い不動産は、金融機関の評価も高くなります。不動産を評価するときに積算法で計算する金融機関が多いからです。そして評価が高いということは、購入するときに資金を多く借りられるだけではなく、次の不動産の購入時に融資を引くときにも有利になります。

例えば、所有している不動産を担保に金融機関から5000万円の融資を受けたとします。不動産の担保としての価値が6000万円だった場合、6000万から5000万円を引いた1000万円が担保余力となります。

融資を利用して規模を拡大していきたい場合は、担保評価の高い不動産を購入することが大切になるのです。自分で判断できるようになるためにも、相続税路線価がどのようなものかは理解しておく必要があるでしょう。

今後の相続税路線価はどうなる?

ここまで、路線価の考え方、そして一物四価について改めておさらいしました。ここからは、今後の土地価格の推移について考えてみたいと思います。

まず一物四価のところでお話した通り、相続税路線価は公示価格の約8割と決まっています。したがって、今後相続税路線価が上がるか下がるかは、公示価格の変動次第と言えます。

次回発表の公示価格は2021年1月1日が基準日ですから、コロナの影響も織り込んだ価格となります。それを踏まえて、今後の予測をしてみたいと思います。

以下の図は、東京都の土地成約件数と平均単価の推移を表しています。レインズデータライブラリから抽出した、2010年から10年間の毎月の数値です。

この図を見ると、成約件数はここ2カ月ほど下げているのが分かりますが、これはコロナの影響だと思われます。ただし、10年間という広いスパンで見ると、ある一定の範囲内で上下を繰り返していることが分かります。価格(単価)については、まだコロナの影響を読み取ることができないようです(ちなみに住宅地の公示価格は成約事例をもとに算定されます)。

今は売れやすい物件を中心に売れていている(相場よりも高い物件は売れ残っている)ため、成約件数が減っていますが、今後は価格が下がって取引が成立する可能性もあります。そうなると成約件数は増えて、成約単価は下がることになります。

またコロナの影響で都内から地方に移る人が増えれば、都内の土地価格の下落要因となるでしょう。ただし、アベノミクス以降右肩上がりの価格で推移している中古マンションと異なり、土地価格は、成約件数同様、一定の範囲内で上下を繰り返していることからも、それほど大きく下落しないのではないかと私は思っています。

したがって2021年の東京都、住宅地の地価公示は上昇になることはありませんが、プラスマイナスゼロ、場所によって多少下落する、という結果に落ち着くのではないでしょうか。連動して、相続税路線価も同じ結果になるでしょう。

最後に、商業地の地価について少し触れておきましょう。商業地は住宅地と違い、収益価格で決まります。事務所、店舗のテナントがコロナの影響で退去が続いたり、賃料が下落すると収益価格は下がります。以上から商業地の公示価格および路線価は今後、下落すると予測します。

【まとめ】

1. 今回の相続税路線価にはコロナの影響は反映されていない
2. 相続税路線価は銀行が担保評価をする時に使われる価格である
3. 地価公示との関係、1物4価の法則を理解しよう
4. 2021年度(来年)の公示価格および相続税路線、固定資産税路線価は、住宅地はプラマイゼロ、またはややマイナス。商業地は下落すると予測する。

(浅井佐知子)