前回から続く)

住宅金融支援機構が提供する低金利の住宅ローン「フラット35」を不動産投資に不正利用していたオーナー約150人が、契約違反として機構から残債の一括返済を求められ、一部が自己破産に追い込まれている問題。前回の記事では、業者側が巧みな営業トークで投資家に住宅ローンを組ませ、さらに二重売買契約や架空のリフォームローン契約などによって組織的に裏金を抜くスキームの実態について紹介した。

悪質な手法でオーナーを食い物にする業者側にも当然問題があるが、その一方で、住宅ローンと知りながら契約したオーナーたちの行動を疑問視する声も少なくない。

オーナーはなぜ、フラット35での投資物件購入を決めたのか。そして、彼らは本当に「被害者」なのか。実際に一括返済を求められたオーナー3人に話を聞いた。

遅延損害金が毎月50万円積み上がる

「4000万円もの残債を一括返済できるわけもなく、毎月約50万円の遅延損害金が積み上がっている状態。借り換えも10行に断られて、任意売却も許されず、もう手の打ちようがありません。このまま競売にかけられたら数千万円の債務が残ってしまう」

東京都の会社員遠山健司さん(仮名、36)は2017年6月、都内で築2年の3LDKマンションを4600万円で購入した。「老後のために」と買ったその物件が今、目の前の生活を脅かしている。

以前から不動産投資に興味を持っていた遠山さん。参加していた副業スクールの代表者の紹介で仲介業者のセミナーに出席し、「空室でも家賃は保証され、長期的な資産形成につながる」という説明を受けた。「当時は転職したばかりで将来の退職金も当てにできず、家賃が保証されるならリスクもないのでいいかな、と思ってしまったんです」

遠山さん

その頃の年収は600万円ほどだった。担当者は「あなたの与信ではなかなか融資を引っ張るのは厳しいです。あと1社だけ、ここならいけるというところが残っているのでトライしますか?」と言ってきた。

それが、アルヒの手掛ける住宅ローン「フラット35」だった。

遠山さんが「住宅ローンなのに大丈夫なんですか?」と尋ねると、担当者は「もうこれしかないんです。みんなやってますし、住民票だけ半年移せば問題ありません」と言った。「プロが言うなら大丈夫なのかなと思って、信頼してしまったのが間違いだった」と遠山さんは振り返る。

前回の記事で紹介した通り、今回問題となっているサブリース契約では、ローン返済や管理費など月々の支出とほぼ同額が保証賃料として設定されているケースが多い。遠山さんが結んだサブリースの契約書にも「本物件の設定キャッシュフロー金額831円を保証する」という記載がある。「月の収支がマイナスになることはない」という意味だ。しばらくは、支出とほぼ同額の18万円ほどが毎月振り込まれていた。

サブリース契約書には「キャッシュフロー831円を保証する」という文言 ※クリックで拡大

しかし、昨年11月。アルヒから「面談がしたい」と突然の呼び出しを受けた。

アルヒの担当者から「フラット35で契約した住所に住んでいませんよね?」「売買契約書を偽造して差額を抜いていますよね?」と尋ねられた。

「1点目の住宅ローンについてはたしかに知っていたので、自分の認識が甘かったことを認めました。ただ、2点目については全く心当たりがなかったので『どういうことですか?』と聞いたんです」

アルヒは2種類の売買契約書を遠山さんに突きつけた。本来の売買代金が3990万円なのに対し、アルヒに提出された売買契約書は4580万円になっていた。二重売買契約によって融資額がかさ上げされ、590万円が抜かれていたことになる。遠山さんは「知りませんでした」と訴えたが、「振込伝票にはサインしているでしょう」と言われた。

遠山さんが購入した物件の売買契約書。銀行提出用(上)と本来の売買代金(下)で590万円の差がある

遠山さんはフラット35以外にアプラスの諸費用ローンなども組んでおり、契約時の振込伝票を見ると、売主業者に3950万円、仲介会社に830万円を振り込む形になっていた。

「金額などは仲介業者の担当者がすでに記入していて、名前と連絡先だけを書かされました。どこにいくら振り込むかは説明されず、何も考えずに書いてしまったのが反省点です」。この830万円の一部が、今回のスキームの黒幕などに裏金として流れたとみられている。

そして今年2月、契約違反として機構から一括返済を求める催告書が届いた。1カ月後までに一括返済できない場合は競売に移行するという内容だった。4000万円強の残債を一括返済できるはずもなく、1カ月後に契約不履行となった。現在は残債に対して遅延損害金14%がかけられ、毎月約50万の金額が膨らみ続けている状態だ。

「仲介業者は当初、『悪いのは全てアルヒと売主業者で、あなたは何も悪くないし、裁判になっても負けません。いざとなったら弊社のネットワークで売却もできますし、ダメでも買い取りますから』と言っていたんです。それなのに催告書が届いたら態度が一変し、『ウチが買い取る義務はない。契約違反をしたのはあなたでしょう』と言われて…」

サブリースの保証賃料はまだ振り込まれているが、いつストップするか分からない状況。「このままでは自己破産する」と危機感を抱き、金融機関10行以上に借り換えを打診したが、住宅ローンを利用して投資物件を買ったことを正直に伝えると、その瞬間に門前払いされる毎日だった。不動産会社の売却査定額は3000万程度で、任意売却も機構には認められなかった。このまま競売にかかれば数千万円の債務が残る。

「最初の時点でもう少し調べておけば、契約違反が発覚した時にどうなるかぐらいは考えが及んでいたはず。副業スクールの代表者からの紹介だったこともあり、相手の言うことを軽率に信じ込んでしまったことを本当に後悔しています。これからどうすればいいのか…」

「投資用ローンを使うなんて馬鹿ですよ」

自己居住用と偽って投資物件を購入する行為は「なんちゃって」と呼ばれ、業界では古くから横行していた手口だ。住宅金融支援機構が昨年、不正利用の疑いが浮上した案件162件について調査したところ、購入者にヒアリングした148件のうち145件で自己居住用と偽った不正な申し込みがあったことが発覚。機構は今年に入り、これらの不正があった案件のオーナー約150人に対して残債の一括返済を求めている。

住宅ローンであることを知りながら、オーナーたちはなぜフラット35を使って投資物件を購入してしまうのか。今回一括返済を求められたオーナーの多くは「業界では当たり前だと思っていた」と話し、その行為が契約違反になることをしっかり認識していなかったケースも多い。

2018年6月に、フラット35で区分マンションを購入した千葉県の会社員漆原弘毅さん(仮名、31)もその1人だ。

「もともと仕事で悩みを抱えていて、異業種交流会に参加したりしていたんですが、そこでLINEを交換した人から『手出しゼロで不動産が持てる』と、ブローカーを紹介されたんです。半信半疑でしたが、とりあえず会ってみると、『ローンを20年保証して、最初に200万がもらえて、運営も全てサポートする』という話。そんなにおいしい話はないだろうと思いつつ、販売会社に行ってみると、すごくしっかりした建物で…」

営業本部長と名乗る男が「住宅ローンを使いますが、しっかり20年保証します。その後は自分で返済して住んでもいいし、手放して売却益を得てもいい。低金利の今しかできない投資です」と説明した。

漆原さん

実は漆原さん、この会社を訪問する前に別の不動産会社3社とも話をする機会があったという。

「その3社全てが住宅ローンを使ったスキームを勧めてきて、『投資用ローンを使うなんて馬鹿ですよ』という会社もありました。ただ、3社とも小さな会社だったので怪しくて断っていたんです。でも、その時に行った会社はあまりにもオフィスがしっかりしていたので、『本当に当たり前にやられていることなんだ』と。自分で住まなければいけないと分かってはいましたが、それが悪いことだという意識が希薄になってて…」

当時の年収は400万円ほど。融資審査に通るとは思っていなかったが、営業本部長は「私は金融機関と強いパイプがあるので、必ず通すことができる」と言った。面談時に物件リストを紹介され、後日LINEで「いい物件が新しく入りました。リフォーム済みで、立地も間取りもこの物件がベスト」と連絡が来た。埼玉県にある築24年の2LDKマンションで、価格は2600万円だった。

「明日までに決めてください。間に合わなければ次の人に回します」

その言葉を聞いて、思わず「では、審査に回してください」と伝えた。「今考えればもっとしっかりと調べるべきだったと思うんですが、『早くしないとこの話はなしになります』と急かされて、焦ってしまった」

住民票を千葉から埼玉に移すよう指示され、アルヒの埼玉県内のフランチャイズ店で金消契約を結んだ。仲介会社からは「とりあえず言われた通りペンを動かすだけでいい。あとは『はい、はい』とだけ答えておけば大丈夫」と指示された。契約は淡々とした雰囲気で終わった。