一級建築士をはじめとする建物のプロに実際に物件を見てもらい、物件でチェックすべき点を解説する連載企画。投資家が最低限知っておきたい建物に関する知識をわかりやすくお伝えする。

実際に物件を見学していただくのは、一級建築士の資格を持ち、「NPO法人建築Gメンの会」の理事長を務める大川照夫さん。

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大川さんに見学いただいたのは、築29年、軽量鉄骨造の2階建てアパートだ。こちらの物件は、高さ4メートルほどの擁壁の上に建っているのが特徴。間取りは、2DKが5戸、1LDKが1戸。物件自体は外観、室内ともにきちんと管理されており、綺麗な状態が保たれているようだ。

気になるのは、約4メートルの高さの擁壁。擁壁の上に建つ物件を購入する場合の注意点は、どのようなことがあるのだろうか。一級建築士の大川さんに解説してもらった。

外観チェック

〇外壁

大川さんはまず外壁の状態を確認。縦方向に貼られたサイディングは、継ぎ目の処理も適切に行われており、施工には問題なさそうだ。

縦張りのアパート外壁

また、外壁を手で触ったところ、白い粉が手につくといった「チョーキング」現象も見られなかったため、「適切に維持管理されてきた物件だ」と大川さんは話す。

〇擁壁

次に大川さんが確認したのは、高さ4メートルの擁壁。今回の物件は、この高さ4メートルの擁壁の上に建っていることが大きな特徴だ。

高さが約4メートルもある擁壁。この上に今回のアパートが建っている

そもそも擁壁とは何のために必要なのだろうか?

大川さんによると「擁壁とは崖を保護するために必要」という。高低差のある土地で、高い場所に建物を建てる際、土地の斜面が崩れないように擁壁を建てて斜面を保護しているのだ。

擁壁の建て方にはさまざまな方法があり、「間知(けんち)ブロック」を石積みにした擁壁や鉄筋コンクリート造の擁壁などがある。鉄筋コンクリート造の擁壁の場合、L字型に擁壁を建てることが可能なので、擁壁の上の土地をさらに広くできるというメリットがある。

鉄筋コンクリート造の擁壁

擁壁を見ていくと全体に丸い穴が開いていて、穴には白い筒のようなものが入っていた。大川さんによると、これは「水抜き穴」と呼ばれるもので、擁壁の裏側の土の中に含まれる水分を抜くためのものだ。擁壁の裏側にある土に雨水が浸み込むと、擁壁への負担が大きくなるため、「水抜き穴」を設置して擁壁の中の水を抜き、擁壁への負担を減らしているのだという。

水抜き穴は、3平方メートルあたり1つの穴を設けるという設置基準があるそうだ。今回の物件では、水抜き穴はこの基準に従って適切に設置されていることが確認できた。

擁壁に設置された「水抜き穴」

大川さんは「水抜き穴、もしくは擁壁の継ぎ目から異常に泥水が流れている場合は注意が必要」という。

通常、擁壁の裏側には「裏込石(うらごめいし)」という、透水性の高い材料を詰めて、擁壁の裏側にある土が水と一緒に流れない仕様になっている。しかし、裏込石が適切に入れられていないと、裏側の土が水と一緒に流れてしまう。そうすると、擁壁裏の土の量が減り、土地が陥没したり、擁壁自体がへこんだりするなど、擁壁の崩壊につながってしまう恐れがある。

大川さんは、水抜き穴から泥水ではなく水だけが異常に流れている場合も注意が必要だと話す。この場合、擁壁裏の土が完全になくなって、水しか流れるものがない状態にあるという。擁壁裏に土を詰めなおすことも可能だというが、いったん擁壁を壊して土を詰めなおすなど、大掛かりな工事になるため、オーナにとっては工事期間やコストの負担が増えそうだ。

それでは、すでに所有している物件の擁壁が崩れそうな場合、補修は可能なのだろうか。大川さんは、「転倒しているなど、擁壁としての役割を果たしていない場合は擁壁の作り替えが必要になる」と話す。

擁壁の水抜き穴から泥水や水が異常に流れ出ている場合、擁壁の裏側で何か問題が発生している可能性が高い。物件の近くに擁壁がある場合は、擁壁の状態だけでなく水抜き穴に異常がないかということも見ておきたい。

また、擁壁は建築基準法上は「工作物」に分類されるという。この工作物のうち擁壁は、高さが2メートルを超えると、「建築確認申請」の手続きが必要になる。

そのため、擁壁の高さが2メートルを切っているということであれば、技術基準がなく、申請手続きも不要のため、いい加減に擁壁を作ることがあるという。擁壁の高さが2メートルを超えていても申請手続きをしていない場合もあるというので、物件購入前には擁壁の高さにかかわらず、許認可を得ている擁壁かどうかを資料などで確認しておく必要がありそうだ。

〇共用部

続いて大川さんが確認したのは、床下換気口だ。換気口の鉄網から中を覗いて確認すると、床下部分は土だった。通常、床下が土壌の場合、外の土地が低くあるべきだが、こちらの物件では、床下の土壌の高さの方が外よりも低かった。この状態であると、地表の水分が高低差で内側に入るため、床下の土壌が濡れて床下の湿気の原因となるという。

大川さんによると、今回の物件は、擁壁の上に建っており、土壌の水分がもともと少ないそうだ。そのため、床下の土壌の方が低くても特に大きな問題が発生していないという。

次に大川さんが注目したのは、階段下と2階共用部の下に設置された「ブレース」だ。「ブレース」とは、鉄骨造の建物に強度を持たせるために4辺の形がいびつにならないように設けられた補強材のことだ。地震の際に建物が壊れないように補強する役割もある。

階段下に設置された「ブレース」

しかし、このブレース自体もかなり大きい地震では、折れることがあるという。物件チェックの際には、ブレースの劣化状態についても確認しておきたい。

〇屋根

屋根についても様子を確認した。コロニアル葺きの屋根は、きちんと清掃されており、綺麗な状態だった。

コロニアル葺の屋根。手前には「雪止め」が設置されている

屋根の樋についても汚れがほとんど見られなかったが、ところどころにコケのようなものが見られる。樋は落ち葉などが詰まりやすく、汚れやすい場所なので、「年に1回くらいは掃除したほうが良い」と大川さんは言う。

屋根の樋。ところどころにコケが繁殖している

室内チェック

室内に入り、大川さんがまず確認したのは、キッチンの給気口と壁付換気扇だ。

キッチンでガスコンロを使用すると、熱量の燃焼が発生する。その燃焼を確保するためには酸素が必要となり、キッチンに設けられた給気口と壁付換気扇を使用して室外から酸素を取り入れるという仕組みになっている。

キッチン下に設置された給気口

キッチンの床近くに給気口が配置されている場合、冬場などは冷たい外の空気が室内に入ってくるため、足元が寒いといったケースがある。一般の住宅などでは、給気口の配置場所を外気から遠いところに設置するなど工夫が施されている。

〇天井裏

大川さんは次に隣の部屋との境界である界壁を確認した。界壁がきちんと屋根の小屋裏まで達していたので問題はなかった。

天井裏の様子。赤い矢印で示した部分が「界壁」。下には「断熱材」が確認できる

 

「外観も室内もとても綺麗な状態が維持されている」と一級建築士の大川さんが話した、今回の物件。建物が傷まないうちに適切な管理をすることで、綺麗な状態を維持できることがわかったのではないだろうか。

また、今回の物件で大きな特徴であった擁壁についても、擁壁自体の劣化具合や水抜き穴の有無、申請手続きの有無などについて、物件購入前にしっかり資料を確認しておきたい。

 

※本物件情報は一部編集しています。
※物件所有者に許可を得て撮影しています。

 (楽待新聞編集部)