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建物の老朽化・所有者の高齢化が進み、管理が行き届かずに荒廃するマンションが増加している。「スラム化」を防ぐ手段の1つとしては建て替えが考えられるが、費用負担や合意形成が障壁となり多くの物件が放置されている。

先日の記事で紹介したように1981年6月以前に建設された旧耐震基準のマンション104万戸に対し、2019年4月時点で建て替えが完了した物件は累計244件程度だ。

そこで先月、老朽化マンションの再生促進を目的とする「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」の改正法が成立。マンション再生に向けた合意形成がしやすくなった。

これにより、投資家にはどのような影響が考えられるだろうか。楽待会員の中には「再開発の影響でボロボロの所有物件がタワマンに建て替わり、賃料収入が上がった」という人も。建て替えが促進されることで、投資家にはメリットもありそうだ。

今回は、建て替え経験者やベテラン投資家の話をもとに、老朽化が進んだマンションを安く購入し、建て替えによって物件の収益性を上げる投資手法について考えていく。これから物件購入する人や現在中古の区分マンションを所有している人は、ぜひチェックしておいてほしい。

老朽化マンション再生の選択肢

マンション再生時の損失を抑えるために理解しておきたいのが、「建て替え以外にも選択肢はある」ということ。初めに老朽化マンションを再生する際の選択肢について紹介しておこう。

そもそも、老朽化マンションを再生するには大きく3つの選択肢がある。建て替えをせずに建物を維持する「修繕・改修」、「建て替え」、建物を取り壊して住み替える「敷地売却」だ。

原則、修繕・改修では区分所有者及び議決権の過半数、建て替えの場合は区分所有者、及び議決権の5分の4以上の賛成が必要になる。敷地売却の場合だと、民法の原則に基づき全員の同意が必要だ。ただし、耐震性不足などにより公的に除却(解体)の必要があると認定されたマンションであれば、5分の4以上の賛成で敷地売却決議ができる。

以下の図に、これまでの法整備の推移がまとめられている。

建て替えに関する法整備の推移。1962年に区分所有法が成立。1995年の阪神・淡路大震災で被災したマンションの建て替えが問題になったことを背景に、2002年、マンション建替法が成立した(出典:国土交通省『これまでの主な取組』)※クリックして拡大

中でも今回は、建て替えを見越した投資手法について焦点を当てていきたい。まずは建て替えの基本的な仕組みについて、以降で簡単に説明していく。

建て替えには大きく2つの方法があり、区分所有者自身が選択できる。建物の区分所有等に関する法律(以下、区分所有法)での建て替えと、マンション建替え等の円滑化に関する法律(以下、マンション建替法)での建て替えだ。

●区分所有法で建て替えを行う場合

区分所有者はデベロッパーにマンションを売却。デベロッパーは建設費用を負担し、余った容積(余剰容積)を使ってマンションを大きく建て替え、完成後に区分所有者が一部を買い戻す

区分所有法に基づいて建て替えを行う場合、老朽化マンションをデベロッパーに売却し、建て替え後のマンションの一部を買い戻すことになる。一般的に、建て替え事業の主導権や意思決定権はデベロッパーが握るため、区分所有者に実務的な意思決定などの負担がかかりにくい。

反面、個々の区分所有権をデベロッパーに売却してから建て替えを実施するため、その間旧マンションの所有権は一旦デベロッパーに移ることになる。融資を受けて物件購入している場合、金融機関の承諾を得てローンを返済し、抵当権を抹消する必要が出てくることも多いので注意したい。

これに対し、マンション建替法での建て替えでは所有権の移転がない。区分所有者は「所有権や抵当権をそのまま建て替え後のマンションに移行させる」という仕組みになっている。

●マンション建替法で建て替えを行う場合

区分所有者は行政の認可を得て、建て替え事業の主体となる「建て替え組合」を設立。デベロッパーに参加組合員という形で余った容積(余剰容積)を売却し、その対価として建設費用を負担する

マンション建替法に基づいて建て替えを行う場合、売却による所有権の移動や抵当権抹消がないため、区分所有者は自身の権利を保全しながら建て替えを進めることができる。反面、法的責任やリスクを負う事業主体がデベロッパーではなく区分所有者になるため、実務的な意思決定などさまざまな負担が伴う。

また、建て替え決議後、マンション建替組合の設立許可、権利の移行について行政の許可を得るなど区分所有者自ら手続きを進める必要があり、建て替え完了までに時間がかりやすいのも注意点だ。

現時点で建て替えが完了している物件は、建蔽率や容積率に余裕があり、建て替え後の床面積が建て替え前を大きく上回る場合がほとんどだ。区分所有者に建て替え前と同等以上の床面積を与え、デベロッパーは余剰部分を分譲して建て替え費用を賄う仕組みになっている。

このように、デベロッパーなどの事業者が建て替えにかかる費用の大半を担うことで、区分所有者側の経済的負担を軽減できる。反対に言えば、デベロッパーの協力が得られない物件の場合、建て替え時の費用負担が重くなり、合意形成が進まないのが現状だ。

こうした背景から先月、国はマンション建替法を改正。敷地売却のための合意形成をしやすくすることで、老朽化したマンションの再生を促進する。

賃貸オーナーが建て替え賛成に転じたワケ

建て替えの基本的な仕組みについて理解したところで、経験者の事例を紹介していこう。都内在住の佐藤よし江さん(仮名)は、自身の居住用区分マンションを、区分所有法に基づいて今まさに建て替え中なのだと言う。

佐藤さんの所有するマンションは、都内の駅から徒歩5分圏内にある。総戸数16戸、うち7戸は投資家が所有する物件だ。駅からのアクセスは良いが築50年を超えており、玄関扉からの隙間風などが気になる。さらに、4階建ての物件で高齢の入居者が多いにも関わらずエレベーターがない。修繕や改修を希望する声は以前から上がっていたが、大規模修繕するにも管理費や修繕積立金が足りなかった。

そんな中、佐藤さんは理事長としてデベロッパー主催の「建て替え勉強会」に出席。物件について話をしたところ、デベロッパー側がこの物件に関心を示し、佐藤さんに建て替えを提案した。敷地の広さや立地条件などから建て替えが上手くできそうなマンションだったため、佐藤さんは区分所有者に情報共有し、建て替えに舵を切った。自己負担なく、今の専有面積よりも広く建て替えができることから、1年もかからないうちに全区分所有者が建て替えに賛成したと言う。

「当初、高齢者や投資家など、一部オーナーは反対していました。特に投資家の場合、賃借人に退去してもらわないと建て替えができません。その間、自身の家賃収入がなくなることをリスクと考えたのでしょう。でも、建て替え後の賃料収入増加分や売却時の金額を加味すれば、建て替え期間中の損失よりもプラスが出ると考えて、最終的には賛成に転じていたようです」(佐藤さん)

実需の反対者も、追加負担なく子供や孫に新しいマンションを残せることなどから賛成に回り、最終的には全員の賛成で建て替えができたと佐藤さんは話す。

この物件の場合、容積率が余っており、角地で駅からのアクセスも良かったことなどからデベロッパーが積極的に地上げしたようだ。戸数16戸と規模もそれほど大きくなかったため、比較的合意形成しやすかったと言う。建て替え検討開始から4年、すでに竣工の目処も立っているそうだが、ここまでスムーズに進むケースは稀だ。世帯数の多い団地などでは、建て替えのための合意形成に時間がかかり、建て替えが完了するまでに10~20年かかるケースも存在する。