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不動産オーナーが消費税還付を受ける方法として知られていた、金地金売買によるスキーム。しかし、それも2020年度の税制改正で封じられることが決まった。今後は不動産のオーナーが消費税の課税事業者になることは減っていきそうだ。

ところが、消費税還付スキームを使わない場合でも、「いつの間にか課税事業者になっており、納付の義務が生じるケースもあり得る」と税理士の大野晃男氏は指摘する。場合によっては数百万円の納税義務が課せられることもあるというが、どのような場合にこうした事態が想定されるのか。大野氏に解説してもらった。

大家さんが「課税事業者」になるケース

こんにちは。税理士の大野晃男です。

アパートやマンションなどの大家さんは通常、消費税の免税事業者であることは、以前の記事でも解説してきました。大家さんが住宅から得ている家賃は、社会政策上の理由から消費税が非課税になっており、「課税売上」がほとんどないためです。

課税事業者であれば、消費者から受け取った消費税を税務署に納めなければなりませんが、大家さんは消費税を受け取っていませんから、売上げ(家賃)の中から消費税を納める必要もありません。これについては、こちらの記事で詳しく説明しているので読み返してみてください。

では、大家さんは絶対に「課税事業者」になることはないのでしょうか? ここで一度、大家さんが課税事業者になる条件を確認しておきましょう。次の3つのいずれかに該当した場合です。

1.「基準期間」の課税売上が1000万円を超えた場合

2.「特定期間」の課税売上が1000万円を超えた場合

3.「資本金」が1000万円を超える法人を新規に設立した場合

まず「基準期間」の考え方は下図の通りです。個人事業者の場合はその年の2年前、法人の場合は2期前の年度が基準期間になります。この基準期間の課税売上が1000万円を超えた場合、2年後に課税事業者になります。その年ではなく2年後というのがポイントですね。

基準期間の考え方。基準期間に1000万円を超える課税売上があった場合、その2年後に課税事業者となる

次に、2つ目の「特定期間」についてです。あまり知られていないのですが、特定期間の課税売上が1000万円を超えた場合も課税事業者となります。特定期間とは、個人事業者の場合は前年の1~6月までの期間、法人の場合は原則、前期の期首から6カ月間を指します。

特定期間の考え方。特定期間に1000万円を超える課税売上があった場合、その2年後に課税事業者となる

なお、この場合は課税売上ではなく、特定期間中に支払った給与等の金額が1000万円を超えたかどうかで判定することもできます。たとえば、法人の大家さんが特定期間中に、役員や従業員に支払った給与や賞与が0円であれば、特定期間の課税売上が1000万円を超えていても課税事業者とはならないことになります。

3つ目は、法人を新たに設立した場合です。設立1年目には「基準期間」も「特定期間」もないので上記の条件には当てはまりませんが、資本金が1000万円以上の場合には、設立1年目から自動的に課税事業者となってしまいます。大家さんが資本金1000万円を超える法人を設立することはめったにありませんが、念のため覚えておきましょう。

注意すべきは「物件の売却時」

先に述べた3つのうちいずれかに該当した場合、大家さんは課税事業者となり、2年後の物件売却時などに多額の消費税納付義務を負う可能性が出てきます。これについては後述しますが、ここではまず大家さんがどんなケースで課税事業者となるのかについて、もう少し詳しく見ていきましょう。

大家さんが課税事業者になる条件は上述した通りですが、そもそも大家さんが受け取る住宅の家賃は非課税売上ですので、先に示した条件1や2のように、課税売上が1000万円を超えることはほとんどないように思われます。実際のところはどうなのでしょうか? 大家さんの課税売上にはどんなものがあるのかをおさらいしてみましょう。

1.事務所や店舗の賃料

2.駐車場の賃料

3.自動販売機の手数料

4.太陽光発電設備の売電収入

5.入居者が負担する原状回復工事代

6.物件売却時の建物の売却代金(土地の売却代金は非課税)

これらの収入は「課税売上」となります。このうち特に気を付けなければならないのが、物件売却時の建物の売却代金です。

物件の売却代金のうち、建物の金額が1000万円を超えていた場合、その代金は課税売上となりますので、その2年後に課税事業者になります。つまり2年後には、たとえ少額だとしても課税売上があった場合、消費税の申告をして納税しなければならないのです。

いきなり数百万円の消費税が課されることも

もし、物件の売却で大家さんが2年後に課税事業者になった場合、どんなことが起こりうるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

例えば今から2年前の2018年に物件A(建物価格1000万円超)を売却し、2020年に課税事業者となった大家さんがいたとします。物件Aの売却時は大家さんは免税事業者だったので、消費税の納付は不要です。

ところがこの大家さんが2020年になって新たに物件Bを売却した場合、建物の売却代金にかかる消費税を納税しなければならなくなります。

仮に物件Bを5000万円で売却し、そのうち建物代金が2000万円だった場合、約182万円(2000万円×10/110)を消費税として納めなければならないのです。

この大家さんは2020年の時点では課税事業者ですから、売却した物件の売買契約書に消費税額の記載がなかったとしても、2000万円の中には消費税が含まれていると見なされます。つまり2000万円を税込金額として、消費税を受取ったとみなして計算しなければなりません。

売却代金が土地と建物に区分されていないときは、売却時の土地・建物それぞれの時価の比率で按分する方法や、固定資産税評価額で按分する方法など、合理的な基準で売却代金を分け、建物分の売却代金を求めることになります。

ここで気を付けていただきたいのは、消費税の計算は、所得税や法人税とは異なり、利益に対して課税されるわけではないということです。売却益が出ているか売却損が出ているかに関係なく、課税売上となる建物の売却代金に対する消費税が納付の対象となることを覚えておいてください。

知っておきたい「簡易課税」と「原則課税」

ここまでの内容で、課税事業者となっている状態で物件を売却すると思わぬ負担が生じることを説明しました。しかし、実際の課税額を計算するうえではもう1つ、ぜひ知っておいてほしい知識があります。それが「簡易課税」「原則課税」です。

実は、課税事業者には「原則課税(一般課税)」と「簡易課税」の2種類があり、それぞれ消費税の計算式が異なります。

詳細な説明はここでは割愛しますが、先ほど紹介した物件売却時の事例で、建物の売却代金が2000万円だった場合の消費税額は約182万円(2000万円×10/110)であると説明しました。この例では原則課税で計算しています。

一方、このとき簡易課税を選択していれば、消費税額は約73万円(182万円-182万円×60%)に抑えられます。物件を売却した年では、簡易課税を選択した方が有利になるケースが多いのです。

「簡易課税」では消費税還付が受けられない

簡易課税を選択したい場合は、課税事業者となる年の前年までに「簡易課税制度選択届出書」を提出すればOKです(基準期間の課税売上が5000万円を超えている場合には、簡易課税は適用されず強制的に原則課税となります)。ただし、簡易課税を選ぶデメリットもあります。

それは、消費税の還付が発生しないことです。冒頭でも述べた通り、金地金売買を利用しての消費税還付スキームは、今後適用できなくなります。ただ、これは「居住用」の物件に限った規制です。たとえばテナントビルを購入した場合や太陽光発電設備を購入した場合には、今後も還付を受けることができます。

ただし、簡易課税を適用している場合は支払った消費税を控除することができないため、還付を受けられないことになります。この点には注意してください。

特に覚えておいていただきたいのは、いったん簡易課税の適用を受けると「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して取り下げない限り永遠に有効なことです。

たとえば消費税が導入された1989年(平成元年)に、簡易課税の適用を受けるために届出書を提出した大家さんがいたとします。

その後、2019年(令和元年)までの30数年間は売却など課税売上がなく、免税事業者であったため、消費税の申告をしてきませんでした。しかし今年に入り、この大家さんは新たにテナントビルを購入します。消費税還付を受けようと思い、申告をしても、30数年前の簡易課税はまだ有効になっているため、消費税の還付が受けられないのです。

還付を受けたい場合には、還付を受ける年の前年までに「簡易課税制度選択不適用届出書」を提出して簡易課税を取下げる必要があることに注意してください。

通常の事業者であれば、ほとんどは課税売上しか発生しないため、毎年課税事業者となり、消費税の申告をしています。ただ、大家さんは通常は免税事業者で、たまに課税売上が多額に発生していつの間にか課税事業者になってしまうという危険な業種です。大家さんこそ、消費税を常に意識しておいてほしいと思います。

まとめ

物件売却の2年後は課税事業者になる可能性が高い

・課税事業者となった年の売却は影響が大きい。事前の準備が重要

・「簡易課税」の選択は永久に有効。還付を受ける場合は前年までに手続きを!

(大野晃男)