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まち探訪家・鳴海侑さんが個人的に注目しているまちに、不動産投資家の代わりに足を運び、そのまちの開発状況や歴史についてレポートする本企画。今回は、東京西部にある交通の要衝、八王子エリア周辺をピックアップして紹介します。

南北に駅ビルがあるJR八王子駅前

人口約58万人を抱える八王子市。市の人口は2012年ごろまでは増加傾向にありましたが、それ以降はほぼ横ばいで推移しています。

市の中心部にはJR八王子駅と京王八王子駅があり、あわせて4路線が乗り入れています。そのうち東京都心部へダイレクトにつながるのはJR中央線と私鉄の京王線です。新宿駅までは、JR中央線の「中央特快」や京王線の「特急」で約40分という立地です。

続いて、中心市街地の様子を見ていきます。まず注目するのは、JR八王子駅前です。JR八王子駅は商業施設が充実していますが、中でも特に大きいのが駅ビルの「セレオ八王子」です。

JR八王子駅の駅ビル「セレオ八王子」の北館。ここから北の方向に市街地が広がっている(著者撮影)

「セレオ」はJR中央線沿線に展開する駅ビルで、国分寺や甲府にもありますが、「セレオ八王子」は線路をまたいで北館と南館に分かれたひときわ大きな駅ビルです。

上の写真が北館の正面。2012年まで百貨店「八王子そごう」だったこともありフロア面積も大きく、ファミリー向けから若者向けまで幅広い店舗ラインナップを揃えています。

一方、JR八王子駅南口に接する南館には、大型家電量販店のビックカメラが入居しています。

JR八王子駅南口。駅からすぐ南は戸建てを中心とした住宅地だ(著者撮影)

また、南館はイオン系のファッションビル「OPA」や、客席数2000席を持つ文化施設の「オリンパスホール八王子」(八王子市民会館)に接続しています。

中心市街地は北側に広がる

さて、再び八王子駅北口に目を戻しましょう。

八王子エリアの中心市街地は、JR八王子駅の北側に放射状に広がっています。軸になるのは、駅から北東に伸びる「東放射線アイロード」、北西に伸びる「西放射線ユーロード」、そして北へ伸びる「桑並木通り」です。

「セレオ八王子」北館に接続するようにペデストリアンデッキ「マルベリーブリッジ」があり、3本の放射線と直接つながっています。また、「桑並木通り」と「西放射線ユーロード」の間にある大型商業施設「八王子オクトーレ」(旧八王子東急スクエア)にも接続しています。こちらは「セレオ八王子北館」と比べると価格帯が安めのテナントが入っており、幅広い層が買い物に訪れるビルです。

JR八王子駅と京王八王子駅を結ぶ「東放射線アイロード」(著者撮影)

先述した3つの通り沿いにそれぞれ目を転じると、それぞれの道が特色を持っており、中心市街地の広がりを感じることができます。

まず北東に向かう「東放射線アイロード」は、5分ほど歩くと京王八王子駅に至ります。沿道には飲食店やコンビニが、そして京王八王子駅の上にはショッピングセンター「K-8」があります。「K-8」は11階建てと大きな駅ビルで「オクトーレ八王子」と同じく比較的安価な価格帯のテナントが入っています。

JR八王子駅から北へ延びる「桑並木通り」は片側2車線ある立派な通りで、沿道は業務系のビルが多いですが、商業施設としては大型家電量販店の「ヨドバシカメラ八王子店」があります。また八王子の特徴でもあるバスの多さを感じることができる通りです。

JR八王子駅から北へ伸びる「桑並木通り」。バスがひっきりなしに行きかう(著者撮影)

八王子は駅から遠く離れたところにまで住宅地があり、また大学が市内に20近くある学園都市でもあります。そのため、朝から晩まで多くのバスが運行され、昼間でもマルベリーブリッジから「桑並木通り」を見ると常時5台ほどの路線バスが見えるほどです。

路線バスが市内各地から集まり、若年層も運んでくることがJR八王子駅周辺の求心力を底上げし、大型商業施設のテナントや商店街の店舗に多様性をもたらしています。

今度は北西へ延びる「西放射線ユーロード」です。こちらは歩行者専用道路になっています。遠くにはマンションが見え、沿道には大型店の「ドン・キホーテ」をはじめ多くの商店の入ったビルが軒を連ねています。

「西放射線ユーロード」。歩行者天国の通りの向こうには新しく建てられたマンションが見える(著者撮影)

この通り沿いの店舗はチェーン店に限らず個人商店も多いことが特徴で、JR八王子駅の北側から伸びる3本の放射線の中では一番商店がある通りといえるでしょう。さらに「西放射線ユーロード」の南には繫華街が開けています。

ここまで見てきたJR八王子駅から延びる3つの放射線はいずれもJR八王子駅北側を東西に走る国道20号線(甲州街道)に接続します。

この通り沿いには有名なシンガーソングライター・松任谷由実氏の実家である「荒井呉服店」をはじめとした個人商店を中心に、昔からの商店街があります。ここが以前八王子の商業の中心だったところです。

1970年代まで商業の中心となっていた甲州街道沿いの現在の様子。だんだんとビルやマンションが増えている(著者撮影)

このあたりは駅から徒歩10分程度で、近年次々と中~大規模マンションが建設されています。便利なエリアにもかかわらず、値ごろ感のある新築物件があるのが大きな特徴です。

市街地変遷の歴史

なぜここでいまマンション供給が進んでいるのか。その理由は、八王子エリアの「市街地の変遷」に関係しています。

八王子の市街地は江戸時代から甲州街道沿いに拓けていました。現在のJR八王子駅の真北、甲州街道沿いにあたる横山町と、さらにその西、ユーロードと甲州街道が交わる八日町の周辺で市場が栄えていたのです。

この市場が生糸の集積地になり、市街地の北側に浅川が流れていたことから、八王子は1970年ごろまで織物のまちとして発展します。その後、八王子市も含めた東京郊外にベッドタウン化の波がやってきます。すると、大都市資本の百貨店や総合スーパーが八王子の中心市街地に進出をはじめ、現在のJR八王子駅と甲州街道の間に店舗を構えるようになります。

かつての八王子駅前には「織物の八王子」と書かれたタワーが建っていた。このタワーは1995年に取り壊されている(八王子市Webサイトより)

さらには1983年に国鉄八王子駅前(当時)に駅ビルとともに「八王子そごう」が開業し、商業の重心は駅前へと大きく移動していきました。

その後も2010年代後半にかけ、JR八王子駅周辺に大型商業施設の開発が行われました。こうして甲州街道沿いの市街地は人の流れが薄くなり、少しずつ衰退していきます。商店街の店舗は取り壊され、次々にマンションへと変わっていきました。

このように、元々まちの商業の中心になっていた商店街が衰退してマンションになる流れは地方都市で多く見られるものです。

地方都市の場合は郊外のロードサイドやショッピングモール、大都市の中心市街地に商業の中心が移ることでこのような流れが見られますが、八王子の場合は駅から離れたところにあった商業の中心が駅へと移ることで同じような流れが発生しているのです。

このように、八王子はJR八王子駅周辺が商業の中心であり、八王子駅の北側の甲州街道沿いは新たなマンションが立ち並ぶ住宅地に変化したことで、コンパクトな中心市街地が形成されるようになりました。

JR八王子駅北口から1.5kmほど北にある浅川大橋から見た浅川と関東山地。八王子の豊かな自然環境を感じられる(著者撮影)

そして、中心市街地から外へ目を転じれば、甲州街道の北側には多摩川の支流、浅川が流れ、西にはハイキングで人気の高尾山をはじめ、関東山地が迫る豊かな自然を感じやすい環境になっています。

車を使えば中央道経由で富士五湖や甲府盆地、圏央道経由で伊豆や箱根といった観光地に気軽にアクセスできることも大きな魅力です。

八王子の住みやすさは?

ここまで紹介してきた八王子の魅力を総合すると、さまざまな年齢層が行き交う中心市街地の買い物環境・コンパクトな中心市街地の構造・豊かな自然環境という要素があります。

一方で、百貨店をはじめとした高級店とこだわりのある店舗の少なさといった買い物環境で不足する部分があることや、都心へのアクセス時間の長さは気になるところです。

買い物環境については電車で約10分のところに立川市があり、JR立川駅周辺や多摩都市モノレール沿線に百貨店や大型のショッピングモール、大型家具店などがあります。こうした近隣の環境を利用することで、都心に出ることなく買い物を完結させることはできそうです。

都心へのアクセスに関しては、朝ラッシュ時のJR中央線が新宿まで約55分(快速)、京王線が新宿まで約60分(急行)と比較的長くなっています。しかし、その弱点をカバーするようにJR・京王共に座席指定制の特急やライナーが運行されており、400~700円ほどの追加料金を支払えば、混雑を避けて座って行き来することもできます。通勤やお出かけの手段に選択肢がある点は時間の長さを補えるところです。

また、不動産投資の観点から見れば、多摩地区には工場をはじめとした多くの事業所があり、八王子市内には多くの大学があることで住まいの需要は決して少なくありません。

さらに今年に入り、新型コロナウイルスの影響でリモートワーク、テレワークが一気に普及し、出社回数が大きく減った業界もあります。このままフルリモートとはいかずとも出社回数が週に1~2回という仕事スタイルが一部で広がる可能性も考えられます。

そうなると通勤時間を気にすることも少なくなり、八王子のように、都心へのアクセスに時間がかかるとしても十分魅力的な場所であれば、居住したいと思う人が増える可能性は十分に出てくるわけです。もちろん、こうした層を狙う場合、個々の物件におけるリモートワークのしやすさは精査する必要があります。

中心市街地のポテンシャルが高く、大学や工場をはじめとした事業所などが周辺にあり、自然環境もよい八王子駅周辺エリア。今までとは少し違った住まい選びの流れも見据えつつ、不動産選びの新たな選択肢として加えてみてもいいかもしれません。

(鳴海侑)