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不動産の契約時、必ず確認するのが「売買契約書」と「重要事項説明書」。物件購入後、売主と買主の間で「そんなことは聞いていなかった」とトラブルになることを避けるため、契約内容やその他の重要事項を書面に明記しておくものだ。

しかし、楽待が今月会員向けに実施したアンケートでは、回答者の5人に1人が「契約後に修繕の不具合が大量に発覚した」など、売買契約書や重要事項説明書にまつわるトラブルを経験したという。

そこで本記事では、契約書をめぐってトラブルになった楽待会員のエピソードを紹介。投資家や不動産仲介会社、弁護士にも話を聞きながら、トラブルを防ぐために最低限チェックすべきポイントをまとめていく。

重要事項説明書と売買契約書の違い

まずは売買契約書と重要事項説明書がどういうものなのか、簡単に紹介しておこう。

売買契約書のサンプル

売買契約書とは、不動産取引に関する取り決めを書面にしたものだ。具体的には、対象となる不動産や売買代金、引き渡しの時期、契約書に記載された面積と実態が異なる場合どう対処するか、境界についてはどのように取り扱うか、などが記載されている。買主がこの書面に署名・捺印を行うと「この条件で不動産を購入します」という意思表示をした証拠になり、契約に対して法的効力が発生する。

重要事項説明書のサンプル

一方で重要事項説明書は、売買契約書に記載されている内容のほか、建物の権利関係や法令上の制限など、買主が契約前に知っておくべき重要事項を補足説明するものだ。不動産の契約時には、宅地建物取引士(宅建士)がこの書面を用いて重要事項説明(重説)を行う。重要事項説明書と売買契約書の内容には重複している部分も多いが、基本的には売買契約書に基づいて取引が行われる。

楽待会員の5人に1人は「トラブルの経験あり」

編集部が実施したアンケートの結果。約2割の回答者が「重要事項説明書・売買契約書の内容をめぐってトラブルになった経験がある」と回答した(n=172)

今月会員向けに実施したアンケートでは、回答者172人のうち、約20%にあたる35人が「重要事項説明書、または売買契約書の内容をめぐってトラブルになった経験がある」と回答。実際にトラブルを経験した35人のコメントを一部紹介しよう。

「売買契約書」をめぐるトラブルの事例(回答から一部抜粋)

・雨漏りについて、約束した部分が修理されなかった(茨城県/男性/50代)

・雨漏りがあるにもかかわらず、契約書には「雨漏りなし」との記載が。売主側に修理してもらった(千葉県/男性/40代)

・土地から新築の物件で、当初の竣工予定から4カ月以上遅延することになり、契約が白紙撤回になった。あらかじめ、竣工の期日や契約解除の条件などを決めておけばよかった(神奈川県/男性/40代)

「解体時に発見できた地中埋没物は撤去」という一文があった。解体時に撤去費用が高額となる埋没物が見つかったが、売主側は撤去せずに引き渡しを履行しようとしてきた。結局はこの一文が自分を守ってくれた(大阪府/男性/40代)

「重要事項説明書」をめぐるトラブルの事例(回答から一部抜粋)

広告の賃貸中賃料よりも、重要事項説明書に記載されている賃料が安かった。差額の12カ月分を違約金として売主から受け取った(兵庫県/男性/40代)

・重要事項説明書には「アスベスト無し」と記載されていたが、契約後に建築資料を確認してアスベストが使用されていることがわかった(福島県/男性/40代)

契約後に水漏れやシロアリ被害が発覚したが、瑕疵担保免責の対象になっていないにもかかわらず売主側に修補をゴネられた。訴訟にもお金がかかるので、水漏れの修理費40万円は仕方なく自己負担した(東京都/女性/50代)

エレベーター補修費は売主持ちのはずだったが、重要事項説明書に記載しておらず、約束が果たされなかった(東京都/男性/50代)

楽待会員から寄せられたコメントの中には、「修繕」「新築物件の工期」「賃料」に関するトラブルを経験したという意見が多く見られた。

具体的には、どのようなトラブルが起こりうるのだろうか。また、買主はどのように対処したら良いのだろうか。以降では投資家の経験談と、不動産業界に詳しい阿部栄一郎弁護士からのアドバイスを紹介していく。

事例1:火災報知器が鳴り止まない中古アパート

最初に紹介するのは「契約後に大量の設備不良が見つかった」という事例。中古物件の場合、売買契約後のトラブルを避けるため、売主が知らない故障や不備については責任を追わないという「瑕疵担保免責(2020年4月以降、契約不適合免責)」や、不動産を現在の状態のまま引き渡す「現状有姿」を付けて契約することもある。だが、この内容をよく確認しておかないと、トラブルになることもありそうだ。

大阪府を中心に築古マンションを複数棟所有する楽待コラムニストの「じゅんじゅん」さんは、3年ほど前に中古のアパートを購入。ある程度築年数が経過しており、瑕疵担保免責と現状有姿の条件をつけて契約することになっていたという。

契約日までに、雨漏りや過去の浸水被害、修繕の履歴など大まかな不具合については説明を受けていたと話すじゅんじゅんさん。その他の修繕履歴については契約書に「別紙参照」との記載があったそうだ。ここで「別紙」が指すものは、建物の不具合や修繕履歴をまとめた「引渡書類目録」。

契約日にこの目録は完成しておらず、仲介会社からは未完成の目録を見せられ、「点検の結果は問題ありません」と説明を受けて契約を交わしたと言う。ところが引き渡しの日、帰り際に仲介会社から手渡された目録を見て、じゅんじゅんさんは愕然とした。

引き渡しの日、仲介会社から手渡された「引渡書類目録」。当初、建物の不具合などの記載はA3用紙1枚、31項目程度にまとめられていたはずが、引き渡し時にはA3用紙2枚、70項目に増えていた。中には、引き渡し日に業者が手書きで書き加えたものもある

「すっかり追記編集されて、契約時に貰った書類と内容が違ったんです。屋上は防水工事済みとの説明を受けていましたが、実際にはヒビを普通の塗料で塗り込んだだけ。火災報知器は発報しっぱなしで、鳴らないように大元を切断してある状態です。鳴り止まない原因は不明で、調査と修理には数百万円かかると言われました」(じゅんじゅんさん)

この物件は現在も修理しておらず、そのまま保有しているという。あまりにも契約書類の過失が多かったため、銀行側は激怒したそうだ。当初9300万円の予定だった融資額は、300万円引き下げられて9000万円に。当時を振り返り、じゅんじゅんさんはこう話す。

「当時はまだ初心者で、周りに不動産のことを相談できる人もおらず、『こんなものなのか?』と思いながら取引を終えてしまいました。後になって弁護士や不動産協会に相談しましたが、あまりにも不備項目が多いので弁護士も面倒臭がって引き受けてくれず、本当に悔しい思いをしました。何かおかしいと思ったら契約書に署名・捺印せず、しっかりと確認することが重要です」

<阿部弁護士のアドバイス>

「現状有姿」で引き渡す場合、物件に故障箇所が存在するか否かは関係がありません。故障箇所があったとしても、修補されずに引き渡されるので注意が必要です。

ただし契約上、売主は買主に対して物件の故障箇所を告知する義務が定められていることも多いです。売主が物件の故障箇所を把握しながら買主に告知しなかった場合、「売主が物件の故障箇所を把握していた」ということを買主側が立証できれば、瑕疵担保免責(現行法の契約不適合免責)の適用はなく、売主は修補や損害賠償義務を負うことになります。

じゅんじゅんさんのようなトラブルを防ぐためにも、売主や管理会社に不具合や修繕履歴の有無を確認したら、契約前に「書面」として受け取っておきましょう。契約時に必要な書類が未完成の場合、完成物を受け取るまでは契約を延ばすことも検討した方が良いでしょう。