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2020年6月6日、東京メトロ日比谷線に開業以来56年ぶりとなる新駅「虎ノ門ヒルズ駅」が誕生した。虎ノ門エリアでは高層オフィスビルなど大規模な再開発が進み、都心と臨海副都心とを結ぶバス高速輸送システム(BRT)なども整備される予定だ。

ただ、6月の暫定開業は7月に開催予定だった東京五輪に合わせた日程で、五輪の開催延期によって肩透かしを食らった形。さらに、新型コロナウイルスの影響で都心オフィスの空室率も上昇傾向にある。

果たして、虎ノ門エリアの資産価値や将来性はどうなのだろうか。住宅評論家の櫻井幸雄氏に見解を聞いた。

「虎ノ門ヒルズ駅」はなぜできた?

6月6日に開業した虎ノ門ヒルズ駅だが、現在は「暫定開業」で、出入り口の横にはまだ工事中の箇所がある。本格開業は2023年の予定で、今回の暫定開業は7月に予定されていた東京五輪に合わせたもの。東京五輪が延期されてしまったため、やや寂しい船出となった。

駅の場所は霞ケ関駅と神谷町駅の間で、神谷町駅からは約500メートル。東京メトロ銀座線虎ノ門駅から桜田通りを神谷町方面に歩き、金比羅宮を過ぎて少し歩いたあたりの地下に位置する。銀座線虎ノ門駅とは地下通路でつながり、徒歩7分程度で移動できる計画だ。

つまり、虎ノ門ヒルズ駅の場所というのは、銀座線虎ノ門駅に近く、日比谷線神谷町駅にも近い。

あえて新駅をつくらなくても十分便利だと思われるのだが、なぜ虎ノ門ヒルズ駅が新設されたのか。それは、スケールの大きな再開発が行われているからに他ならない。

六本木ヒルズ、東京ミッドタウンにはない可能性も

「虎ノ門ヒルズ」駅から地上に出ると、「虎ノ門ヒルズ 森タワー」(2014年竣工)と「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」(2020年竣工)がそびえ立っている。これに続き、「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」(2021年1月竣工予定)、「(仮称)虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(2023 年7月竣工予定)が建設中だ。

これらすべてが「虎ノ門ヒルズ」となり、区域面積は約7.5ヘクタールとなる。

2003年に開業した六本木ヒルズの場合、隣接する六本木ヒルズゲートタワーを含めた区域面積が約11.6ヘクタールとなるので、それよりも小さい。だが、虎ノ門ヒルズの隣接エリアでは、「The Okura Tokyo」や「虎の門病院」「東京ワールドゲート」などが新たに竣工しており、六本木ヒルズと同等のビジネス拠点ができることになる。

そして、虎ノ門ヒルズには、六本木ヒルズや東京ミッドタウンにはない特徴も備わっている。それは「新たな交通拠点になる」ということだ。

「世界と都心をつなぐ交通拠点」に

「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」の1階にはバスターミナルが設けられ、「東京BRT(バス高速輸送システム)」が発着することになっている。

「BRT」とは、「Bus Rapid Transit(バス高速輸送システム)」の略。路面電車と遜色ない輸送力を持ちながら、一般車が走らない専用道路を走るため通常のバスより所要時間が短く、運行の遅れも少ないことが特長だ。

日本ではこれまで、利用者が多くない地方都市での導入が多く、評価も今ひとつだった。今回、人口増加が著しいエリアで東京BRTが開業すれば、都心と湾岸エリアのアクセスが大きく向上することが期待される。

東京BRTでは、湾岸エリアからバス専用レーンを走り、進行に合わせて交差点の信号が青になる公共車両優先システム(PTPS)が採用される。これにより、信号や渋滞で止められるストレスがなく、鉄道並みに正確なダイヤで運行されることになる。

さらに、2つの車両をつないだ連節バスがあり、乗客が多いときは臨時バスを走らせるという臨機応変さも期待できる。万一事故が起きた場合、後続のバスは停車するバスを追い抜いていくことで、鉄道路線で頻発する「事故による運行停止」が生じにくい、といった長所にも注目すべきだろう。

東京BRTは2020年5月からプレ運行が行われる計画だったが、新型コロナウイルスの影響で延期されてしまった。プレ運行の開始時期は未定で、本格運行は2022年からの予定だ。

本格運行が始まれば、東京BRTは湾岸エリアからの主たる交通手段となる可能性がある。そうなった場合、虎ノ門ヒルズは多くの人が集まるバスターミナルとしての価値を備えることになる。さらに、東京BRTが走行する環状第二号線バス専用レーンは、羽田空港や成田空港に向かうバスも利用できる計画であるため、2つの飛行場へのスムーズなアクセスが可能となる。

交通拠点というと、従来は鉄道の駅のことを指した。しかし、虎ノ門ヒルズはバス専用レーンを走る新交通システムの拠点としての潜在能力を備えている。「世界と都心を繋ぐ交通拠点」となる可能性も秘めているのだ。

新しい「ビジネス街」の形

計画によると、虎ノ門ヒルズに建設されるビルの延床面積は約80万平米。約30万平米の国際水準のオフィス、約720戸のレジデンス、約2万6000平米の商業店舗、約350室のホテル、約1万5000平米の緑地空間が創出され、六本木ヒルズに匹敵する国際新都心・グローバルビジネスセンターに進化することになっている。

といっても、「ビジネスマンだけが行き交う街」にすることは想定されていない。ビジネスの拠点ではあるが、買い物客や旅行客も大勢訪ねてくる。そのような活気ある街づくりが目指されている。

昭和時代のビジネス街には、オフィスと食堂、ちょっとした買い物施設しかなく、サラリーマンだけの街になりがちだった。大手町や西新宿のビル街には、その色合いが濃い。しかし、汐留エリアや六本木ヒルズ、東京ミッドタウンなど、平成以降に開発されたビジネス街は、商業、住宅との複合開発が主流になった。

平日の昼食、夕食時間以外も、そして休日にも買い物客や観光客が集まる場所にしたわけだ。これにより、商業施設は活気づき、魅力的な飲食店や物販店が集まる。すると、集まる人がさらに多くなる。このシナジー効果で街の魅力を上げていこうとしているのが、新しいビジネス街の形である。

六本木ヒルズも、東京ミッドタウンも、存在の中心になるのはオフィスのフロアだ。しかし、一般の人は「買い物や飲食に楽しい場所」と認識している。虎ノ門ヒルズも同様に、「人が集まる」ビジネスゾーンに成長していくと考える。