自民党新総裁に選出され、安倍晋三首相から花束を受け取る菅義偉官房長官=14日午後、東京都港区(時事通信フォト)

自民党総裁選が14日投開票され、菅義偉官房長官(71)が新総裁に選出された。新型コロナウイルス対策や経済政策など安倍政権の路線継続が予想される一方で、規制改革に意欲を示すなど独自色も打ち出しており、今後の日本経済がどのような方向に向かっていくのか注目される。

安倍晋三首相がデフレからの完全脱却を掲げた経済政策「アベノミクス」。その功罪についてはさまざまな意見があるが、在任中に株価が大きく跳ね上がったことは紛れもない事実だ。そして、株価だけでなく、安倍政権下では不動産市況にも大きな変化が現れた。

あらためて、アベノミクスが不動産市況に与えた影響は、どのようなものだったのだろうか。そして、新たな政権下でマーケットに変化はあるのだろうか。住宅評論家の櫻井幸雄氏に話を聞いた。

アベノミクスで新築マンション価格は上昇した

安倍首相が健康上の理由で辞任を発表した後、世界各国から辞任を惜しむ声が届いたことは、ちょっとした驚きだった。それだけ世界中で知られた首相だった、ということだろう。

考えてみれば、ロシアのプーチン大統領も、ドイツのメルケル首相も、長期政権だから馴染みがある。フランスのマクロン現大統領よりもはるか昔の「ドゴール」、イギリスのジョンソン現首相よりも「サッチャー」のほうが頭に浮かびやすいように、世界中に名前を覚えてもらえるのは、長期政権の強みというものだろう。

その長期政権で打ち出された「アベノミクス」によって、日経平均株価は大きく跳ね上がった。地価も全国的に上昇し、首都圏の都心部、郊外駅近エリア、そして地方の中心エリアにおいて、新築マンション価格の上昇が顕著となった。

株価の上昇はともかく、地価と不動産価格の上昇は歓迎できない、という声もあるだろう。しかし、株価と不動産価格は連動する面が多く、株価が上がれば不動産価格も上がってしまうもの。株価だけ上がって不動産価格は下がる局面など、よほどのことが起きない限り生じるものではない。

その不動産価格の上昇はどのように起こったのか。アベノミクスがもたらした不動産市況の「変化」について、あらためて振り返ってみたい。

銀行マンはインフレを信じていた

発端は2012年の暮れだ。第2次安倍内閣が発足し、デフレ脱却のためのインフレ誘導が打ち出された。

それまで、東日本大震災後の不動産市況は全体的に低迷していた。すが「節電」や「自粛」によるマインドの低下が著しく、不動産市況は元気がなかった。そこに、アベノミクスによるインフレ誘導が打ち出され、「インフレに強いのは不動産だ」と、一部の人が前向きにマンション購入を検討するようになった。

一部の人とは、「インフレ」に敏感な金融関係者のこと。実際に当時、現場ではよく「銀行勤めの人が盛んにマンションを買っている」とささやかれたものだ。

そして、積極的に購入されたのは都心部や郊外駅近のマンション。いわゆる「資産価値」が高い、とみなされる物件だった。

2013年当時、マンション購入者の多くが「インフレ誘導」を現実視していたわけではない。多くの人は「インフレ誘導は無理ではないか」と懐疑的だった。そして、新築マンション価格は抑えられていた。インフレ誘導は夢物語だとしても、その安さは現実だと、マンション購入を決断する人がいたわけだ。

新築マンション価格は1.5倍から2倍に

参考までに、2013年当時に販売されていた新築マンションの価格を振り返ってみよう。

大井競馬場に近い品川勝島の「ブランシエラ品川勝島フレシア」は、約62平米の2LDKが2900万円台から。中央区晴海の「ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス」は、約42〜約158平米の1LDK〜3LDKが2858万円から1億9998万円。

都心部で今も中古で人気となっている「パークコート千代田富士見ザ タワー」は、約42〜181平米の1LDK〜3LDKが4900万円台からの設定で、181平米の大型住戸は4億5000万円。最上階の特殊住戸はさすがに高かったが、5000万円台、6000万円台で購入できる2LDK、3LDKがあった。

新築マンションが割安だったのは、大阪や名古屋、福岡でも同様だった。

大阪中心部の本町エリアで分譲された「大阪ひびきの街 ザ・サンクタスタワー」は約38〜156平米の1DK〜4LDKが2000万円から1億3780万円。「尼崎DC グランスクエア」は、約62〜88平米の3LDK、4LDKが2390万円〜4670万円。

名古屋中心エリアの「プレミスト御器所」は約64平米の2LDKが2940万円から、福岡の一等地に建設された「グランドメゾン大濠公園2013」は、約73平米の3LDKが2820万円から。

ほんの7年前だが、びっくりするような値段が並び、この価格なら売れて当然、と思ってしまう。今ではどのマンションも、1.5倍から2倍の値段まで上がっているからだ。

しかし当時は、この価格でも大半のマンションが完売まで時間がかかった。「ザ・パークハウス 晴海タワーズ クロノレジデンス」などは、13年9月に東京五輪招致が決まってから「五輪選手村に近いマンション」とアピールを始め、ようやく売れ行きに火がついたような状況だった。