一部の投資家が収支の悪化で自己破産寸前に追い込まれている「ホステル投資」をめぐり、ホステルに投資した7人が18日、このビジネスを展開する業者と業者の社長に対し、約2億4000万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。

※前回の記事
「利回り30%も可能」のはずが損失3500万…ホステル投資の実態

ホステルの収支悪化で赤字が膨らんでいる投資家側は「当初提示されたシミュレーションと実際の収支状況に乖離がある」として、業者の責任を追及する姿勢。一方、業者側は「シミュレーションは事業を保証するものではないということは最初に説明している」と主張するなど、両者の意見は対立している。

今回の問題では、開業後に稼働率や宿泊単価が伸びず赤字に苦しむケースとは別に、そもそもホステル仕様にするための建築工事が予定通り進まず、開業のめどが立たないまま賃料の支払いだけがのしかかっている投資家もいることが分かってきた。

さらに取材を進めていくと、このホステルには、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」で損失を出した複数のオーナーが投資していたことが発覚。このホステル投資を展開する業者は、かぼちゃの馬車案件の多くを手掛けていたスルガ銀行横浜東口支店でもセミナーを開催しており、「カモ」になりやすい投資家が狙われた可能性も浮上してきた。

 

7人が集団提訴

前回の記事で紹介した通り、この投資は投資家が空き家や空きビルをオーナーから賃貸し、業者が必要な設備を施工することで、旅館業の営業許可を得て簡易宿所(ホステル)を運営する―という内容。業者は「五輪前でインバウンド需要が高まる」などと説明し、「実質30%の高利回りも可能」「初期投資金平均回収年数は3年以内が90%」といった謳い文句で投資家を勧誘していた。

しかし、一部の投資家は宿泊単価が当初の見通しを大きく下回り、稼働率も20、30%台にとどまっている状態で、毎月数十万円の赤字が発生。物件の購入ではなく「転貸」による投資のため、売却で負債を穴埋めすることもできず、新型コロナウイルスの影響でさらに稼働率が悪化しているケースもある。

今回、集団提訴に踏み切った7人のうち、5人は前回紹介したようにホステルの収支悪化による赤字の増加に苦しむ投資家たち。しかし、残りの2人は建築工事すら予定通り進まず、宿泊料収入がゼロのまま、工事費や賃料の支払いだけがのしかかっている。

「利回り44%」

「東京城南エリアなら利回り20%も実現可能」「不動産投資の新たな選択肢『ホステルビジネス』」

東京都在住の会社員溝江正史さん(仮名、50代)は今年初め、そんなタイトルのメールに目を留めた。「東京五輪を控えて外国人観光客も増え、ホステル需要も伸びる、といった内容で、場所も一等地で駅から近い。コンセプトはいいなと思って、セミナーに参加したんです」

ホステルに投資した溝江さん

セミナー後に3カ所の候補地を内見し、渋谷区内の駅から徒歩4分のビルの一部を投資先に選んだ。ビルのオーナーから賃料45万円で賃貸し、3080万円の建築工事で22ベッドのホステルを作るという計画だった。

業者から提示されたシミュレーションを見ると、満室時の表面利回りはメールにあった「20%」を大きく上回る「44%」で、投資金額の想定回収期間は「3年」という記載があった。「稼働率について業者の社長にメールで尋ねると、『80〜83%』という返答だったので、それなら投資価値があると判断しました」

業者が提示したシミュレーション資料には、満室時表面利回り44%という記載がある

当初の建築工事請負契約では、4月1日に着工し、五輪前の6月末に完成というスケジュールだった。請負代金は4回の分割払いで、溝江さんは2月末に1回目分として924万円を現金で支払った。

「6月末」から「10月末」に

問題はその後だった。

「6月になっても、一切工事が進む気配がないんです。3月から毎月45万円の賃料を払っているので、このままでは支出が膨らんでいくだけ。業者に問い合わせると、『コロナの影響で工事の手配が遅れている』と言われて…」

結局、契約の巻き直しをすることになり、完成時期は6月末から10月末に変更された。また、当初の請負金額は3080万円だったが、「新型コロナウイルス対策協力金」という名目で2640万円に値下げされた。もともとの見積書では「インテリアコーディネート」「寝具」「旅行サイト登録」「スタッフ募集」に各100万円ずつ計上されていたが、それらをすべて「ゼロ」にするという内容だった。

請負代金を400万円値引きする内容の契約変更合意書

「400万円がゼロにできるのなら、そもそもそれらの費用は最初から必要なく、ただ請負代金の水増しに使われていたのかと勘ぐってしまいます。当時はこのホステル投資がネット上で物議を醸し始め、そのあたりの費用が割高だということが騒がれていたので、先手を打って対応してきたのではないかと思っています」

当初の請負契約では旅行サイト登録やスタッフ募集に100万円が計上されていたが、契約変更でゼロに

溝江さんは「10月末完成」という言葉を信じ、7月末に2回目分の請負代金716万円を支払った。しかし、その後も工事は一向に進まず、スケルトン状態のまま。「早く工事をしてほしい」と伝えると、仲介業者からメールが届いた。

「ビルの消防設備が未設置で、消防から指摘を受けている」「総床面積300平米以上、地下室ありのため、各階に自動火災報知機の設置義務がある」「今までは総床面積300平米以下で、地下室の存在も届け出ていなかったから指摘を受けなかったのでは」という内容だった。

仲介業者から届いたメール

溝江さんによると、当初は1階に22ベッドを設置し、物置だった40平米ほどの地下室を「テレワークルーム」として整備する計画だった。「ビルのオーナーからは『これまでは一度も消防から指摘を受けたことがなく、地下室を使うことで消防設備が必要になったのなら、通常のテナントが入っている2〜5階の消防設備もあなたが負担してほしい』と言われました。費用は300万円以上です」

テレワークスペースとして整備される予定だった地下の平面図

地下の一角には壁に囲まれた給水関係設備があり、溝江さんは「これを撤去できるのか」と疑問を抱いた。その後も、地下の水漏れなどを理由に工事が一向に進まない日々が続いた。