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今年9月2日、菅義偉官房長官(当時)は、自民党総裁選の出馬会見で「地方の銀行について、将来的には数が多すぎるのではないか」と発言、翌3日には「再編も1つの選択肢になる」とした。

同月16日には菅政権が誕生。地銀再編を巡る動きは、いま足元で急激に加速している。これから地銀を取り巻く環境はどのように変わっていくのか。金融アナリストの高橋克英氏に解説してもらう。

期間限定の「金利優遇・現金支給キャンペーン」

菅首相の意向を受け、政府・金融当局による地銀再編への動きが加速している。代表的なものとして挙げられるのは、「1.独禁法の特例」「2.日銀の支援制度」「3.政府から補助金支給」だ。順番に説明していこう。

1.独禁法の特例
今年5月に、地銀同士の統合・合併などを独占禁止法の適用除外とする特例法が成立し、11月27日に施行されることになった。

従来は、例えば同一県内同士の銀行が合併すると、県内の預金シェアなどが7割や8割となり、独占禁止の観点から統合が難しかった。しかし、今後10年間にわたる適用除外の期間中は、県内同士の合併なども認められることになる。なお2018年には、長崎県内の銀行合併により十八親和銀行が誕生している。このときは2年以上に渡り公取委による審査が行われた末、一部の融資先に競合他社への借り換えをしてもらうことで統合が承認されたという経緯がある。

現在101行ある地方銀行のなかで、地銀1行体制の都道府県は、埼玉県、山梨県、石川県、京都府、奈良県、鳥取県の6府県に限られる。

他の41都道府県内には2行以上の地銀が存在しており、中でも福岡県は5行、静岡県は4行と多い。岩手県、山形県、福島県、東京都、千葉県、新潟県、富山県、愛知県、三重県、大阪府、沖縄県では3行体制だ。こうした「数が多すぎる」都道府県では、地銀再編が真っ先に進むことになろう。

福岡銀行天神支店(PHOTO:撮るねっと/PIXTA)

2.日銀による支援制度
日本銀行は11月10日、「地域金融強化のための特別当座預金制度」を導入すると発表した。

これは、地方銀行や信用金庫が、経営統合など一定規模の経営効率化を進めた場合、日銀に預けている当座預金に0.1%の金利を上乗せするというもの。事実上の補助金であり、異例の措置と言えるだろう。なおこの制度は、2023年3月末までの時限措置である。

3.政府による補助金支給
日本経済新聞(2020年11月13日付)などの報道によると、政府は2021年夏にも、地域金融機関の再編を促すための補助金制度を新たに創設するという。地銀や信金が経営統合に踏み切った場合、国がシステム統合などの費用を最大30億円程度負担するという。

これら3つの施策は、「この10年の間は、政府・金融当局としても地銀に対してさまざまな支援をするので、統合を推し進めてください」という、期間限定の金利優遇・現金支給キャンペーンのようなものだ。対象者は「地銀と信金」、条件は「経営統合」、主催者は「政府・日銀」である。もはや地銀再編の「賽は投げられた」といえよう。

地銀再編最前線、群馬県

こうした政府・金融当局による動きもあり、地銀が県内に2行ある群馬県では今年10月、第二地銀の東和銀行が、SBIホールディングスとの資本業務提携を発表した。

そして翌11月、今度は県内最大手の第一地銀・群馬銀行が、千葉銀行など地銀10行で形成する地銀連合「TSUBASAアライアンス」に参加すると発表した。これまで独立経営を貫いていた県内2行が相次いで新たなパートナーを決めたことになる。

ちなみに群馬県内には、高崎信用金庫など信用金庫も7つと多く存在している。群馬県ではこの先、地銀・信金入り乱れての再編や提携が進むとみられる。群馬県以外にも、今年に入って特に地銀の再編や提携の動きが活発化している。

SBITSUBASAが台風の目に

今回、東和銀行が提携するSBIホールディングスは、第二地銀などへの出資を続けることで「第4のメガバンク構想」を打ち上げている。

2019年9月の島根銀行との資本業務提携を皮切りに、福島銀行、筑邦銀行、清水銀行、そして上述した東和銀行に続き、今年11月には、きらやか銀行と仙台銀行を擁する「じもとHD」とも資本業務提携。7行合計の総資産は合計8.3兆円だ(2020年3月末)。

SBIホールディングスは、将来的に10行程度と提携を進めたいとしている。その際には、この先も、すでにSBIホールディングスと金融商品仲介において提携関係にあり、共同店舗もあるような地方銀行が対象になっていくとみられる。

一方、今回、群馬銀行が加入する「TSUBASAアライアンス」とはどのような組織なのか。

もともとのTSUBASAアライアンス自体は、2015年10月に、千葉銀行、第四銀行、中国銀行の3行で発足。その後、伊予銀行、東邦銀行、北洋銀行が参加。2018年以降には、北越銀行、武蔵野銀行、滋賀銀行、琉球銀行が加わり、今回、群馬銀行が加わり11行の大所帯となる。

11行の総資産合計は78.3兆円に達することになり、地銀トップのふくおかFGの25.0兆円、横浜銀行を擁するコンコルディアFGの18.9兆円を凌駕するだけでなく、りそなHDや三井住友トラストHDをも超え、メガバンク(3行平均257.0兆円)に次ぐ規模となる(2020年3月末)。

基幹系システムの共同化を基軸に、営業地域の異なる11行のネットワークを活用し、ビジネスマッチング、相続関連やM&A業務の連携、共同拠点の設置、フィンテック研究なども進めており、今年7月には各行出資により「TSUBASAアライアンス株式会社」も設立している。

システム共同化や業務提携の動きは他の地銀間でもあるが、TSUBASAは、最も実績があり結束が強く、仮に新たな持株会社を設立して11行による経営統合が実現した場合、質量ともに他の地銀グループの追随を許さない圧倒的なトップグループが誕生することになる。

狭まる地銀の選択肢

地方銀行の3大ビジネスである貸出、手数料、有価証券運用はいずれも悪化しており、足元の2020年9月中間決算でも多くの地銀が苦戦している。特に、規模の経済が働かない資産規模1兆円以下の銀行、コア業務純益が10億円未満の銀行は、これまでと同じビジネスモデル、同じ商品ラインナップで生き残れる可能性は低くなってきている。

先述した政府・日銀による3つの「キャンペーン」により地銀の選択肢は狭まっており、経営統合がメインシナリオだ。最終的に多くの地銀が、規模の経済を享受できるこの道を選ぶことになるだろう。弱者の救済合併や弱者連合ではなく、今後は、TSUBASAアライアンスにみられるようなトップ地銀同士のいわゆる「メガ再編」も想定されよう。

もっとも地銀にとって、経営統合だけでは、長期的かつ根本的な解決策にはならない。付け焼き刃の策ではなく、「店舗をゼロにしてネット銀行に転換する」「DX企業の傘下に入り、銀行免許を生かし、グループの銀行部門として生き残る」といった大胆な経営判断を下さない限り、経営統合の先の明るい展望は見えてこないのかもしれない。

不動産投資ローンへの影響は

地銀の構造的問題と業績不振に加え、政府・日銀による3つの施策により、地銀の再編には期限が定められ、不可避なものとなったと筆者は考えている。

ただし、地銀再編後も貸出がビジネスの中心であることは変わらない。地銀にとって、地主や富裕層、会社員などの個人投資家向けの不動産投資ローンは、中小企業向けローン以上に、厚い利ざやを享受できることもあり、積極的に伸ばしたい分野であるはずだ。再編により地銀の資本が分厚くなり、経営が安定すれば、その分、積極的にリスクを取って貸出を行うこともできるようになる。

例えばスルガ銀行の不祥事以降、年収や金融資産などの属性により対象外とされていた個人投資家の一部にも、ローン対象者が広がる可能性も出てくるのではないだろうか。

(高橋克英)