土石流の被害を受けた住宅の捜索を行う警察官ら=5日午後、静岡県熱海市(時事通信ヘリより)

今月3日、静岡県熱海市で大規模な土石流が発生し複数の家屋が流された。熱海市によるとこれまでに少なくとも4人が死亡、所在不明の住民は24人にのぼる(7月6日15時時点)。

土石流が発生した詳しい原因については調査中だが、複数の専門家が「盛り土」が崩れたことが大きな要因となったのではないかと分析している。また周辺にメガソーラーが設置されていたことなどから、事故との関連を指摘する声もある。

5万立方メートルの「盛り土」が流される

土石流の原因は「盛り土」だったのか。

静岡県の川勝平太知事は今月4日の記者会見で、今回の土石流の起点となった逢初川(あいぞめがわ)上部に「約5万4000立方メートルの盛り土があり、それがすべて流された」と説明した。5万立方メートルの盛り土の存在は、2010年の国土交通省のデータと、2020年の静岡県のデータを照合して分析し、判明した。3日に発生し市街地を襲った土石流はこの5万立方メートル超の盛り土のほか、周囲の土砂などを含んで10万立方メートルとなり、流下したとみられる。

7月4日に静岡県がドローンで撮影した、土石流の起点となったとされる地点。近くには複数の家屋も見える(画像=静岡県)

上記の写真は静岡県が7月4日にドローンで撮影した映像の一部で、土石流の起点となったとみられる地点。山肌が大きくえぐられているのが分かる。この場所は土石流の発生以前は以下のような状態だった。

上記画像の中央、山肌が露出している部分が当該の盛り土があったとされる箇所だ。現場は宅地造成等規制法(宅造法)の規制区域内に位置する。盛り土など一定規模以上の宅地造成を行う際は、宅造法に基づく規制がかかる。

しかし熱海市などによると、今回問題となっている盛り土は「残土」として届け出がされていた。残土処分として行われた盛り土は「静岡県土採取等規制条例」に基づく規制がかかるが、宅地造成等規制法の規制対象とはならない。

同条例は、盛り土や切り土に関連する土砂災害を防止するためのものだ。今回の盛り土が条例に則って行われたものなのであれば、どこに問題があったのかを今後明らかにしていく必要がある。

盛り土はなぜ崩れるのか

土石流の原因は現在調査中だが、前述の「盛り土」が深く関わっていると見る専門家は多い。

土砂災害に詳しい地質コンサルタントの太田英将氏も、「報道の映像から、土石流の発生原因は谷の上の盛り土だと考えてほぼ間違いない。盛り土が大雨によって崩れ、それが流れ下って住宅地を襲ったということだ」と話し、こう続ける。

「長雨で地中に染みこんだ水は、地中を通って低い海に向けて流れ下ろうとする。順調に流れていけばよいが、どこかで水が詰まってしまうとその部分に高い水圧がかかる。その場所に今回の盛り土があり、耐えきれなくなって崩壊した。溜まっていた水も一気に流れ出て、崩れた土と一緒に木をなぎ倒したりしながら市街地に向かっていったのだろう」

国土地理院が7月5日に公開した資料。2017年に撮影された写真の上から、今回問題となっている盛り土の付近を起点とした崩壊箇所をプロットしている

一方、メガソーラーと災害の関係については、「西側にメガソーラーが見えるが、地形の改変は確認できない。いまのところそこ(ソーラーパネルの設置箇所)が崩れたという話もなく、今回の直接の原因になっているとは思えない」と見解を示した。

盛り土があった場所のすぐ西側(写真左上)にはソーラーパネルがずらりと並んでいる(画像=静岡県)

ところで、盛り土に関連する災害は過去に何度も発生している。なぜ盛り土を巡る災害は多いのか。

そもそも盛り土とは、宅地造成などのために、土を盛って平らな土地をつくりだすための造成工事だ。盛り土をするための土はトラックなどで運搬するため、一度「ほぐした」状態の土を使うことになる。当然、造成工事に当たっては締め固めなどを行うが、自然の土や固い岩と比べると強度はかなり低くなる。

しかし、盛り土そのものは「平常時は安定している」と太田氏は言う。「問題となるのは、『水』です。大雨が降ったり、地下水位が高い状態で地震で揺れたりしたとき、その瞬間に盛り土は危険になります。水さえなければ盛り土には何も起こらないんです」

盛り土の造成には、宅造法等による規制があり、設計標準も決められている。その中には地下水を抜くための排水管についても規定があるが、この排水管が機能しているかをチェックするルールは存在しない。

盛り土における排水のイメージ。盛り土の底部に排水管を設けて水を抜く必要があるが、この排水管が機能しなくなると、地下水位が上がって危険な状態となる

「盛り土による災害は、水によって起こる。その水、つまり地下水位の状態を定期的にモニタリングすることで、危険な状態は察知できる。大規模な法改正を行うとなるとなかなか難しいが、地下水位のモニタリングを適切に行うようにできれば、状況を変えるきっかけになるのではないか」

なお盛り土に関しては6日、赤羽一嘉国土交通相が「(今回の災害を受け)全国の盛り土を総点検することを検討したい」と述べている。

土砂災害で火災保険は使えるのか?

ところでもし、今回のような土砂災害に見舞われて家屋が倒壊するなどした場合、火災保険の補償対象となるのだろうか。

不動産オーナー専門にコンサルティングを行う保険代理店、保険ヴィレッジの斎藤慎治氏は「土砂崩れや土石流による被害は通常、大量の雨水に起因します。したがって火災保険の『水災補償』に加入していれば補償の対象になります」と説明する。

水災補償とは、台風や暴風雨などの水災によって発生した、洪水や高潮、土砂崩れ、落石等が原因で建物や家財が損害を受けた場合に補償が受けられるもの。具体的には、水災補償の支払い要件は「再調達価額の30%以上の損害を受けた」もしくは「床上浸水または地盤面から45cmを超えた浸水」のいずれかに該当した場合に補償される。

一般的に水災補償は、建物が低地にある人が加入する傾向にあり、高台にある人は加入しないことが多いと斎藤氏は言い、「感覚値だが、不動産オーナーの半数以上の人が水災補償に入っていないのではないか」という。

なお、災害を受けた後に水災補償や家賃収入特約をつけても、その災害における保険金を請求することはできない。この機に自身の保険を再度確認し、水災補償を含めたオプションに加入するかどうかを改めて判断してほしい。

不動産投資家、災害への意識は

最後に、楽待新聞編集部が行ったアンケートの結果も紹介しておく。

まず「物件購入時、自然災害のリスクをどの程度重視していましたか?」という質問に対しては、「非常に重視していた」「ある程度重視していた」が合計で約8割を占めた。具体的な調査の方法として、多くの人が「ハザードマップ」を挙げていた。

集計期間=2021年7月5日~7月6日、n=253

一方、過去に自身の物件が土砂災害などの自然災害で大きな影響を受けたというオーナーはそう多くはなかった。だが、中には「台風や震災で床下・床上浸水を経験した」という人もいた。

福島県内で5棟30室を自主管理する不動産投資家の長谷川さんもその1人。東日本大震災の津波が同県いわき市に所有していた木造アパートを襲い、床上浸水を経験したという。

「幸い入居者に被害はなく、また、これが原因で退去するといったことも起きずに、大きな損害にはつながりませんでした。被災後は石灰をまき、消毒作業を行ったのですが、50万円弱くらいかかった費用も保険金で賄うことができました」

こうした経験もあり、物件購入を検討するときには、物件所在地の浸水や土砂災害のハザードマップを調査し、また、現地でも自分の目でどのような場所なのかを確かめ、災害リスクを確認しているという長谷川さん。それでも、不動産投資家としては「完璧な物件はなく、どこで妥協をするか」がポイントになると指摘する。

「今の時代、絶対に被害を受けないと言い切れる物件はないのではないでしょうか。特に、災害リスクを重視しすぎれば安い物件は手に入らなくなってしまいます。当然、明らかに危険だとわかるような物件を買ってはいけませんが、購入する際には、思い切りも必要だと考えます」と話した。

地震や洪水、そして今回のような土砂災害を完全に予測することは困難だが、危険なエリアを見極め、自らの判断で物件の購入を避けることはできる。不動産賃貸経営に自然災害は常についてまわるものと考え、万が一のことも含め、対応を考えておきたい。また購入に際しては、各種ハザードマップなどを存分に活用し、判断の役に立ててほしい。

(楽待新聞編集部)