
PHOTO: makaron*/PIXTA
初めまして。田中謙次と申します。20代の頃から大手予備校で不動産関連の資格の講師をし、32歳で独立。不動産に特化した資格と実務の教育機関にて多くの不動産会社の研修事業をプロデュースしつつ、自らも講師を担当しております。
僭越ながら、宅建士や賃貸不動産経営管理士、そして不動産の法改正などについて、クイズや資格試験の過去問題を通して、実務にも生かせる知識を身に着けられるコラム執筆をさせていただきます。
こうした知識は、知っておくことでご自身の賃貸経営に役立つものもたくさんあります。コラムを通じて興味を持っていただき、さらに資格試験に合格できる知識も身に付けていただければ幸いです。
「賃貸住宅管理業」って何?
第1回目の題材は、「賃貸物件の管理」です。2021年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」(賃貸住宅管理業法)が施行されました。
まずはこの賃貸住宅管理業法について、クイズです。
「200戸以上の賃貸物件(投資用物件)を所有する場合は、国土交通大臣の登録を受けなくてはならない」。○か×か?
深く考えずに、直感でお答えくださいね。
では、正解発表です。正解は…
答え:×
賃貸物件(投資物件)は、何棟持っていても、国土交通大臣への登録は不要です。
おや? と思われた方もいるでしょうか? 新しく施行された賃貸住宅管理業法で、「200戸以上の賃貸物件の管理を行っている場合には、賃貸住宅管理業の登録が必要と聞いたことがある」という方もいらっしゃるかもしれません。
新しくできた賃貸住宅管理業法には、投資家に国土交通大臣への登録を求める規定は存在しません。そのあたりについて、詳しく法律を読み解いていきましょう。
賃貸住宅管理業法では、賃貸住宅管理業を営もうとする管理戸数200戸以上の者は、国土交通大臣の登録を受けなければならなくなりました(同法3条)。
ここが、先ほどの問題のポイントとなっているところです。「所有」ではなく、「管理」です。
「賃貸住宅管理業」とは、賃貸住宅の賃貸人から1)委託を受けて、2)管理業務を行う、3)事業をいいます。
ですから、投資物件を自分で有していても、賃貸人から委託を受けていない以上、賃貸住宅管理業とはならないので、国土交通大臣への登録は必要ないのです。
サブリースでも大きな罰則
この賃貸住宅管理業法では、「サブリース」をめぐっても規定がなされました。これまでトラブルの多かったサブリース事業の契約が、法律によって厳格化された形です。主には、「重要事項説明の義務化」と「不当な勧誘の禁止」が盛り込まれています。
投資家(オーナー)にとって、管理受託契約やサブリース方式での契約の相手方である賃貸住宅管理業者が、どのような業者なのかを知っておくべきでしょう。
国土交通大臣の登録を受けている会社なのか、さらにはサブリース事業を行っているのかで、その業者に課せられる法的義務が異なり、その結果、投資家に与える影響も大きくなるからです。
登録業者の場合は、国土交通大臣による監督処分があり、厳しい規制が課せられます。また、サブリース業者であればさらに厳しい行為規制と報告制度(誰でも国土交通大臣に、悪徳業者を制裁するように申し出ることができる制度)があるため、業務停止や刑事罰が科せられる仕組みとなりました。
投資家は、サブリース業者や管理業者の法的な義務を知ることで、業者との交渉の中で、有利に話を進めることも可能となるでしょう。ぜひ、知っておいていただければと思います。
賃貸不動産経営管理士の過去問を解いてみよう!
では、ここからは上記の内容も踏まえて、実際の過去問題にチャレンジしてみましょう。今回は、賃貸不動産経営管理士の過去問題です。賃貸住宅管理業者の登録制度について、登録が必要な場合とそうでない場合についての内容がまとまっていますので、ぜひチャレンジしてみてください。
【問題】賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
1.自ら所有する住宅を賃貸する業務のみを行う事業者は、賃貸住宅管理業者登録制度における登録を受けることができる。
2.賃貸住宅管理業者登録制度の対象となるのは、賃貸人から委託を受けて賃貸住宅の管理を行う者であり、賃貸住宅を転貸する者(サブリース業者)は含まれない。
3.賃貸住宅管理業者登録制度は、賃貸住宅の賃貸人と賃貸住宅管理業者の関係についてルールを定めるのみならず、定期報告及び書面の交付等、賃借人と賃貸住宅管理業者の関係についてもルールを定めている。
4.賃貸住宅管理業者が業務に関して不正な行為をした場合であって、情状が特に重いときは、賃貸住宅管理業法に基づき罰則が科せられる。
(2015年・問4改題)
この中で、「正しいもの」はどれでしょうか。
さあ、それでは答えの発表といきましょう。
正解は…。
正解:2
正解できましたか?
大切なのは正解できたかどうかではなく、なぜこうした答えになるのかを理解することだと思います。それではひとつひとつ解説していきましょう。
1→×
賃貸住宅管理業とは、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、1)委託にかかる賃貸住宅の維持保全を行う業務や、2)賃貸住宅にかかる家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務を行うことをいいます(賃貸住宅管理業法2条2項)。貸家業だけでは賃貸住宅管理業にあたらないので、登録を受けることができません。
2→〇
賃貸住宅管理業者の登録は、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて、管理業務を行う事業が対象となります(賃貸住宅管理業法3条)。したがって、特定転貸事業者(サブリース業者)はその対象となっていません。ただし、特定転貸事業者が管理業務も行う場合(200戸以上)には登録する義務が発生します。
3→×
賃貸住宅管理業法における登録制度は、主に賃貸人と賃貸住宅管理業者の関係を規律するものです。なお、問題文にある「定期報告及び書面の交付等」は、管理業者が賃貸人に対してするものです。
4→×
賃貸住宅管理業者が業務に関して不正な行為をした場合であって、情状が特に重いときという犯罪構成要件は存在しないので、罰せられません。
◇
いかがだったでしょうか? これまで「宅建士」や「不動産経営管理士」の資格試験なんて考えたこともない、という方でも、こうした知識はみなさんの不動産経営に生かせるものも多々あります。ぜひ関心を持っていただければ幸いです。
また、資格試験に向けて勉強されている方などで、「この解説してほしい」などの要望があればぜひコメント欄でお知らせください。
(田中謙次)
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全21話
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