
PHOTO: ばりろく / PIXTA(ピクスタ)
宅建や賃貸不動産経営管理士の資格試験問題などを通して、賃貸経営の実務にも生かせる知識を身に着けていこうというこの連載。
今回は、昨年その説明が義務化され、今年の宅建試験でも出題される可能性のある「水害ハザードマップ」に関する知識を解説していきます。
重要事項説明を受ける側である投資家のみなさんも、不動産業者はどのように重要事項説明を行わなければならないのか知っておくことで、トラブルを避けられる可能性もあります。ぜひ、参考にしてください。
高層階なら、ハザードマップは説明しなくてもよい?
まずは、水害ハザードマップと、宅建業者が行うべき説明について、クイズに挑戦してみましょう。
水害ハザードマップに載っている建物があった場合でも、4階以上に位置するマンションの一室が取引の対象であれば、宅建業者は、購入希望者等にその旨を説明する義務はない。○か×か。
4階以上だと、床上浸水などのリスクは低くなりそうですが、答えはどうなるのでしょうか。
正解は…
答え:×
建物の規模にかかわらず説明しなければなりません。
水害ハザードマップとその説明義務
水防法15条3項の規定に基づいて市町村が提供する水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップ。各市区町村のホームページで参照することができます。
日本は災害大国と言われますが、近年、「平成30年7月豪雨」や「令和元年台風19号」など、甚大な被害をもたらす大規模水災害が頻発しています。
こうした災害が起こることを前提として考えれば、不動産の購入や賃借に際して、水害リスクにかかる情報が、契約するかしないかの決定を行う上で、とても重要な要素となっています。
そこで昨年、国土交通省は、宅地建物取引業法の施行規則を一部改正。売買・賃貸の重要事項説明時に、宅建業者は、水防法に基づき作成された「水害ハザードマップ」を活用し、対象物件にどのような水害リスクがあるのか、契約締結前までに伝えなくてはならないと義務付けました。
宅建業者は、取引の対象となる宅地又は建物の位置を含む水害ハザードマップを、洪水・内水・高潮のそれぞれについて提示し、その宅地または建物のおおむねの位置を示しながら、説明しなければなりません。
説明時の水害ハザードマップは、取引の対象となる宅地又は建物が存する市区町村が配布する印刷物又は当該市区町村のホームページ等に掲載されたものを印刷して使用します。
なお、水害ハザードマップに記載されている内容の説明まで宅地建物取引業者に義務付けるものではありません。つまり、避難場所などの詳細は、必ずしも説明されるわけではないということです。
ただし、水害ハザードマップが地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民などに提供するものであることという性質を鑑み、水害ハザードマップ上に記載された避難所についても、あわせてその位置を示すことが望ましいとされています。法的な義務ではなく、努力義務ではありますが、説明するほうが望ましいということです。
過去問で重説を学ぶ
今回は水害ハザードマップについて基本的な事項をおさらいしました。
では、宅建試験の過去問題から、「重要事項説明」に関するものにチャレンジしてみましょう。宅建業者がどのような義務を負っているのか、不動産投資家の皆さんも知っておくと、いつか役立つかもしれません。
【問題】宅地建物取引業者が行う宅地建物取引業法第35条に規定する重要事項の説明に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。なお、重要事項説明の相手方は宅地建物取引業者ではないものとする。(2011年度宅建士試験問32改題)
(1)建物の貸借の媒介を行う場合、借賃以外に授受される金銭の額については説明しなければならないが、当該金銭の授受の目的については説明する必要はない。
(2)昭和60年10月1日に新築の工事に着手し、完成した建物の売買の媒介を行う場合、当該建物が指定確認検査機関による耐震診断を受けたものであっても、その内容は説明する必要はない。
(3)建物の売買の媒介を行う場合、当該建物が宅地造成等規制法の規定により指定された造成宅地防災区域内にあるときは、その旨を説明しなければならないが、当該建物の貸借の媒介を行う場合においては、説明する必要はない。
(4)宅地の売買又は貸借の媒介を行う際、水防法施行規則第11条第1号の規定に基づき市町村の長が提供する図面に当該宅地の位置が表示されているか否かにかかわらず、当該所在地及び避難所を説明しなければならない。
重要事項説明についての基本的な事項なので、ぜひ知っておきたいところです。
果たして正解は…?
答え:2
では、ひとつひとつ見ていきます。
1→×
宅建業者は、代金、交換差金および借賃以外に授受される金銭の額と目的を、重要事項として説明しなければなりません(宅建業法35条1項7号)。金銭の授受の目的も説明しなければなりません。
2→○
宅建業者は、建物が、指定確認検査機関、建築士、登録住宅性能評価機関または地方公共団体が行う耐震診断を受けたものであるときはその内容を重要事項として説明しなければなりません(宅建業法35条1項14号、同法施行規則16条の4の3第5号)。
この内容は、すべての取引態様で説明しなければなりません。しかし、昭和56年6月1日以降に新築の工事に着手したものは除かれます。本問の建物は、昭和60年10月1日に新築の工事に着手しているので、耐震診断の内容を説明するべき建物にはあたりません。
3→×
宅建業者は、宅地または建物が宅地造成等規制法20条1項 により指定された造成宅地防災区域内にあるときはその旨を、重要事項として説明しなければなりません(宅建業法35条1項14号、同法施行規則16条の4の3第1号)。
この内容は、すべての取引態様で説明しなければなりません。建物の貸借の媒介を行う場合でも説明しなければなりません。
4→×
宅建業者は、水防法施行規則11条1号の規定により、宅地又は建物が所在する市町村の長が提供する図面(水害ハザードマップ)にその宅地又は建物の位置が表示されているときは、その図面における当該宅地又は建物の所在地を、重要事項として説明しなければなりません(宅建業法35条1項14号、同法施行規則16条の4の3第3号の2)。
しかし、水害ハザードマップ上に記載された避難所の位置の説明については、努力義務であり、法的義務まではありません(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方)。
◇
今回は水害ハザードマップと、それにともなう重要事項説明について、基本的な事柄を解説しました。
宅建業者から説明を受ける立場の不動産投資家のみなさまも、ぜひ、不動産業者がどのような義務を負っているのか、重要事項説明ではどのような説明をするのか、など、ぜひ知っておいていただければと思います。
また、今年の宅建試験もまもなくです。受験される方は、ぜひ、日ごろの成果を発揮できるよう応援しております。
(田中謙次)
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