今年9月に米ドル建て債券の利払いができなかったとして、債務不履行が懸念されている中国の不動産開発大手、「中国恒大集団」。

2021年1~6月期の決算書には、負債総額33兆円と記載されており、一部では経済市場にリーマン・ショック級の影響を与えるのではないかと不安視され、一時世界の株式市場が大きく下落した。

恒大集団の債務不履行危機は、今後経済市場にどのような影響を与えるのだろうか。日本の不動産市場への影響は。

専門家や現地に住む投資家に取材した。

恒大集団は何が問題になっているのか

本題に入る前に、恒大集団とはどのような会社で、どのように発展してきたのかを振り返る。

恒大集団は広東省に拠点を置く不動産開発大手で、1996年に許家印氏が創業した。

中国経済に詳しいジャーナリストの高口康太氏は「1990年代以前まで、中国は不動産の自由な売買が行えませんでした。中国の土地は、国有または集団所有であったためです。1990年代以降は、『土地使用権』の譲渡を解禁しました。これによって企業や個人が不動産の取引をしやすくなり、不動産市場は急激に成長してきました」という。

「恒大集団は、その不動産市場の成長の波に乗った企業の1つで、銀行から多くの借入を受けて大量の土地を仕入れる『土地備蓄』を積極的に行ってきました。土地が安い時代に多くの土地を仕入れ、マンションを建設して販売してきたわけです」(高口氏)

2000年代初頭から積極的に不動産開発を行ってきたことにより、恒大集団の2020年のグループ売上高は5072億元(約8兆6000億円)と、不動産企業の中で最大手級の企業にまで成長。日本の不動産開発最大手、三井不動産の売上1兆9000億円の4倍以上の売り上げを誇った。

近年は、電気自動車(EV)事業やミネラルウォーターの販売事業、さらにはサッカーチームを買収するなど、多角化経営を展開してきた。

しかし、2021年1~6月期の決算を見ると、負債総額が1兆9665億元(約33兆円)という巨額の負債を抱えている。さらに、9月に一部の債権の利払いができず、世界の経済市場に警戒感が広がっている。

なぜ恒大集団はこれほどの経営危機に陥ってしまったのだろうか。そこにはこれまでの中国経済の成長と、昨今の中国当局による不動産市場への規制が大きく関わっている。

中国経済の成長と、不動産価格の高騰

そもそも、中国の経済はこれまでどのように成長してきたのだろうか。

「1949年に中華人民共和国が建国されました。その後、建国の父と呼ばれる毛沢東氏は、貧富の格差を減らし社会全体が豊かになる『共同富裕』というスローガンを掲げ、国づくりを行いました。しかし、農工業の増産に失敗し全国で大飢饉が発生するなど、みんなが豊かになるどころか、貧しい国になってしまったのです」と高口氏は言う。

建国の父「毛沢東」の肖像画は中国の紙幣にも使用されている PHOTO:ryua / PIXTA

貧富の差をなくすために国づくりを行っていた毛沢東氏。しかし、経済の成長は思うようにいかず、当時の1人当たりGDPは世界最低基準だった。

「1976年に毛沢東氏が死去した後、中国政府はいかに経済を立て直すかと模索していました。そこで1978年に改革開放を始め、1985年に鄧小平は『先富論』を唱え『先に豊かになった者が貧しい人を助ければ良い』という論理で、それまで制限されていた農作物の販売の自由化や、外資系企業の誘致など、経済を発展させるための政策を積極的に行いました」(高口氏)

そして、積極的な経済政策は、不動産市場にも行われた。それが不動産の自由な取引をできるようにすることだ。

30年以上不動産業界に携わっている不動産ライターの高幡和也氏は、「1990年代から土地の使用権を企業・個人が自由に譲渡・賃借・抵当ができるようになりました。また、2000年ごろには一般市民が住宅ローンを利用できるようになったことで、不動産価格は急激な上昇を始めました。2000年以前は住宅ローンがなかったため、不動産の売買取引は非常に限定的だったのではないかと思います」と話す。

中国国家統計局の「居住用建物価格」の推移を見ると、2000年を起点として、不動産価格は上昇。リーマン・ショックが発生した2008年を除き、不動産価格は常に右肩上がりだった。

引用元:中国国家統計局

また、「中国のGDPの4分の1が不動産業です。日本のGDPにおける不動産業の割合は1割程度ですから、中国の経済成長において、不動産市場の貢献度は高いことがわかります」と高口氏。不動産市場の成長とともに、中国のGDPも大きく成長、2010年には日本を抜き、世界2位にまで上り詰めた。

引用元:世界銀行(https://www.worldbank.org/en/home

また高幡氏は、不動産価格の高騰の背景に投機的な動きが頻発していたのではないか、と話す。

なぜ、投機的な取引が横行していたのだろうか。高口氏は「中国の投資家は日本の不動産投資とは異なり、売却益を求める人が多い。これは、不動産の売買価格に対して家賃が上がっていないからだと思われます」と話す。一部では、中国の投資用物件は利回り1%で取引されていることもあるのだという。不動産の売買価格に対し、賃貸価格が上がっていないため、インカムゲインを得る目的で購入する人は少なく、キャピタルゲインで儲けようと考えている人が多くなっていることも、不動産価格が高騰した要因の1つではないかと高口氏は考える。

そのような取引が頻繁に発生していたためか、不動産価格は一般市民が手を付けられないほど、高騰しているという。実践大家コラムニストで、中国に駐在している「海外駐在大家」さんはこのように話す。「都市部のどこにでもあるような不動産会社でも、2000万元(約3億4000万円)くらいの区分マンションを何件も販売しています。また、中心部から電車で30分くらいのエリアで、築15年程度の50平米の区分マンションで、500万元(8500万円)くらいで取引されています。地元の人は『こんなに不動産価格が高くなるなんて、庶民はどうやって生活すればいいのか』と不満を漏らしていました」と話した。

「国際的には年間所得に対する住宅価格は4~6倍が合理的な水準とされているそうですが、中国は2000年ごろから7~9倍で売買されてきました。基準値と比較するならば、20年以上バブル状態が続いてきたと言っても過言ではありません」(高口氏)

上海のビル群 PHOTO:ivantagan / PIXTA(ピクスタ)

3つのレッドライン

国民の不満も高まるなか、中国当局は不動産のバブル状態を抑制するために、不動産市場における規制に動き出した。2021年1月から銀行の住宅ローンや不動産会社への融資額の上限を厳しく設定した「総量規制」や、各地域ごとで物件売却時の参考価格を設定する「価格統制」だ。

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