
PHOTO: EKAKI /PIXTA
宅建や賃貸不動産経営管理士の資格試験問題などを通して、賃貸経営の実務にも生かせる知識を身につけていこうというこの連載。
今回は、「物件の広告規制」にまつわる知識を一緒に学んでいきたいと思います。
賃貸物件として客付けをする際には、仲介会社などに「広告」を依頼する場合が多いでしょう。賃貸だけに限りませんが、物件の広告には、実は多くの規制があります。そしてこの規制、いま改正作業が行われています。どんな規制があるのか、どういったことができないのか、この規制がどのように変化するのか。大家さん自身もぜひ知っておいていただければと思います。
まずは、いつものようにクイズです。
一棟マンションを購入、リノベーションして収益物件として貸す際、賃料や共益費などの条件が決まっていなければ広告することはできない。○か×か。
入居者募集に必要となる広告。条件は決まっていないと広告できないのでしょうか?
じっくり考えてみてください。
正解は…?
答え:○
現在の「不動産の表示に関する公正競争規約」(以下、本記事では「規約」といいます)では、広告することは難しいです。
なぜ難しいのかを、この後、順を追ってお話しいたします。
広告規制があるワケ
どんなに条件のよい物件を持っていても、それを広告しなければ、販売も賃貸もできません。売り手も貸し手も、できる限り早く取引したいのは当然ですし、できれば、建築工事をする前に買主や借主が決まっていれば資金繰りも楽でしょう。
ただ、例えば新築物件を広告する時、役所のお墨付き(開発許可や建築確認など)もない状況で、完成予想図を見せて取引することまで認めてしまうと、そのお墨付きがもらえなかった場合などには、消費者に多大なる損害を与えてしまいます。
そこで、それぞれのニーズを考慮して、法律などで広告に関する妥当な落としどころを定めています。
今回の記事では、特に「規約」を中心に広告規制を解説します。なお、この規約は現在、改正作業が進められています。改正案は、消費者庁及び公正取引委員会による事前審査がすでに完了しており、2021年10月22日開催の不動産公正取引協議会連合会による会議で承認されました。
近い将来、施行される運びとなっているので、その改正点も踏まえて解説いたします。
未完成物件は広告できない?
未完成物件、これから作る予定の物件でも、宅地造成の許可や開発許可、建築確認というお墨付きをもらえれば、広告することはできます(宅地建物取引業法33条)。
ただし、事業者が、新聞や雑誌広告など、一定の表示媒体を用いて物件の表示をするときは、物件の種別ごとに、次に掲げる事項について、見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明瞭に表示しなければなりません(規約8条)。
(1)広告主に関する事項
(2) 物件の所在地、規模、形質その他の内容に関する事項
(3) 物件の価格その他の取引条件に関する事項
(4) 物件の交通その他の利便及び環境に関する事項
(5) その他規則で定める事項
したがって、例えば新築の分譲マンションの広告をする場合、販売戸数、価格、敷地が借地権の場合におけるその内容や条件、管理費及び修繕積立金などが決まっていなければ、たとえ建築確認などのお墨付きをもらっていたとしても、規約上、広告が禁止されることになります。
「予告編」みたいな広告は許される?
一方で、「予告編」みたいな広告は可能な場合があります。
例えば、不動産の広告で、「予告広告」という用語を目にしたことはないでしょうか。
予告広告とは、分譲宅地、新築分譲住宅、新築分譲マンション、新築賃貸マンションまたは新築賃貸アパートであって、価格などが確定していないため、ただちに取引することができない物件について、その本広告(規約第8条に定める必要な表示事項をすべて表示して物件の取引の申込みを勧誘するための広告表示のこと)に先立ち、その取引開始時期をあらかじめ告知する広告表示のことをいいます(規約9条(1))。
新築物件の場合、いくらで販売・賃貸できるのか、その他もろもろの条件が決まっていない場合もあります。ですが、「普通の広告(本広告)はまだできないのですが、条件がもろもろ決まれば、ちゃんとしたものを出しますよ」という予告編が出せれば、市場の注目を集められ、次の本広告の反響にも繋がります。
そこで、現行の規約では、予告広告を行うのと同じ媒体で本広告すること、及び予告広告である旨や、販売予定時期などを、見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明瞭に表示することを条件に、予告広告を認めています。
例として、「新築分譲マンション」の場合の予告広告で、表示を省略できるものは次のものです。
(1)販売戸数
(2)主たる設備等の概要及び設備等の利用について条件があるときは、その条件の内容(敷地外駐車場についてはその旨及び将来の取扱い)
(3)価格
(4)上下水道施設、都市ガス供給施設等以外の施設であって、共用施設又は特別の施設について負担金等があるときはその旨及びその額
(5)敷地が借地権の場合、その種類、内容、借地期間並びに保証金、敷金を必要とするときはその旨及びその額
(6)管理費及び修繕積立金等
(7)取引条件の有効期限
(8)情報登録日又は直前の更新日及び次回の更新予定日
中古のリノベ物件は「予告」できない?
前記のとおり、現行の規約では新築物件を対象としているため、リノベーションした物件をそれと同様に解釈するのは困難です。
ただ、現在進行中の改正案では、予告広告の対象に一棟リノベーションマンションも含めることになっています。
具体的には、規約4条(3)は次のように改正されます。
■予告広告
販売区画数又は販売戸数が2以上の分譲宅地、新築分譲住宅、新築分譲マンション又は一棟リノベーションマンション、もしくは、賃貸戸数が2以上の新築賃貸マンション又は新築賃貸アパートであって、価格又は賃料が確定していないため、直ちに取引することができない物件について、規則に規定する表示媒体を用いて、その本広告(第8条に規定する必要な表示事項を全て表示して物件の取引の申込みを勧誘するための広告表示をいう。)に先立ち、その取引開始時期をあらかじめ告知する広告表示をいう。
また、その際の広告方法についても変更されます。
これまでは、紙媒体での広告を前提にした規定となっていましたが、改正案では、スマートフォンやパソコンなどの普及状況を考え、インターネット広告のみでも可能にするよう緩和されています。
具体的には、規約9条2が次のような記述となりました。
予告広告を行う場合においては、当該予告広告に係る物件の取引開始前に、次のいずれかの方法により本広告を行わなければならない。
(1) 当該予告広告を行った媒体と同一の媒体を用い、かつ、当該予告広告を行った地域と同一又はより広域の地域において実施する。
(2) インターネット広告により実施する。
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