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今年2月から9月にかけ、ATMなどで合計8回のシステムトラブルが発生したみずほ銀行。相次ぐ障害に金融庁が業務改善命令を出す事態となり、11月26日にはみずほフィナンシャルグループ(FG)、みずほ銀行の両トップの引責辞任も発表された。

なぜ状況が改善されないまま同じようなことが起きてしまうのか、みずほが「トラブル地獄」から抜け出す方法はあるのか。金融アナリストの高橋克英氏に解説してもらった。

今年8回のシステム障害、2回の業務改善命令

「みずほATM障害、全国規模か」─。

緊急事態宣言下の2月28日、NHKはトップニュースでこう報じた。みずほ銀行で全国のATMの7割にあたる4318台が停止、さらには通帳やキャッシュカードを取り出せなくなるという事態が5244件発生したのだ。その場から動くこともできず数時間待たされた利用者もいたが、トラブルの当日中に記者会見は行われず、みずほ銀行のホームページ上に情報が開示されただけだった。

2021年に起きたみずほ銀行のシステムトラブルはこれだけではない。3月3日には、東京都などで29台のATMが最大で3時間程度停止、カードや通帳が取り出せなくなるトラブルが発生している。その後も、ネットバンキングで取引不成立となったり、外為取引などに遅延が生じたりといったトラブルが続いた。

さらに8月20日には、みずほ銀行とみずほ信託銀行の全国500を超える店舗の窓口で入出金や振込ができなくなった。このとき、前日夜から機器が故障し復旧に努めていたものの、みずほが顧客にシステム障害を周知したのは開店30分前の午前8時30分だった。さらに土日を挟んで8月23日には、最大130台のATMが一時停止し、預金の引き出しなどができなくなった。翌月の9月8日にも、ATM118台が一時停止。同月22日に金融庁が業務改善命令を下すものの、1週間後の同月30日には、外為取引387件で遅延が発生するなど、「異常事態」が続いた。

11月に入ると、金融庁が2回目の業務改善命令を出し、財務省が是正措置命令を下している。金融庁も検査・監督を継続しているものの、すべての原因は特定できていない。みずほ内部では、特定のベンダーに問題があったとの見方もあるが、賠償請求につながるような不具合の原因究明は容易でない。

みずほの歴史は、システム障害と不祥事の歴史

2002年4月1日、第一勧業銀行と富士銀行、日本興業銀行の合併再編によって「みずほ銀行」は誕生した。

それから今日に至るまでのみずほの歴史は「システム障害と不祥事の歴史」といっても過言ではない。

まず、みずほ銀行が誕生した2002年4月1日その日に「第1次システム障害」が発生、ATM障害、口座振替遅延や二重引き落としなどの問題が起こり、金融庁から業務改善命令を受けることになった。

東日本大震災直後の2011年3月15日には「第2次システム障害」が発生。オンラインシステムとATMが停止。ピーク時に滞留した処理は、給与振込みなど220万件に及んだ。この時も金融庁から業務改善命令を受ける。

2013年の「みずほ銀行暴力団融資事件」では、みずほ銀行に業務停止命令が下され、経営陣は退陣に追い込まれている。最近では、昨年のドコモ口座を通じたみずほ銀行預金不正引き出しも記憶に新しいところだ。

不祥事の問題はさておき、銀行が誕生したその日からトラブルが度々起こっているという事態はさすがに異常だと言わざるを得ない。なぜ、みずほ銀行ではシステムトラブルが続いているのだろうか。

世界最大級のシステム統合だったが…

みずほ銀行の発足当時、前身である日本興業銀行、富士銀行、第一勧業銀行の3行は、それぞれ異なるITベンダーによる、異なるシステムを運用していた。

合併に当たっては、いずれかの銀行のシステムに一体化することが理想だったが、上記3行の合併時、各銀行とベンダー間で熾烈な主導権争いが勃発。その結果、日本IBM、富士通、日立の3社による「つぎはぎ」のシステムが使われることになった。

そして2002年と2011年、大規模な障害が発生。みずほはこの「つぎはぎ」のシステムが障害の元凶であるとして、ついにシステム刷新を決定。8年間の歳月を費やして2020年7月に本格稼動し現在に至るのが、新勘定系システム「MINORI(みのり)」だ。総費用4000億円を超える世界最大級のシステム統合である。

しかし、その新型システムが今年、冒頭に紹介した8回に及ぶ「第3次システム障害」を引き起こした。

よくよく見てみると「MINORI」は、ベンダーが1社に絞られたわけでもなく、ゼロから作り上げられたわけでもない。むしろ、従来の3ベンダー(日本IBM、富士通、日立)に加え、NTTデータまで新たに加わり構築され、より複雑なものとなった。2次、3次の委託先を含めると、参加したベンダーは約1000社にのぼるとされる。

この新型システムは、あくまで「みずほにおける新型システム」であり、他のメガバンクを圧倒する次世代型システムでもなければ、ネット銀行やGAFAにも対抗できるようなオープンクラウド型のシステムでもなかった。

今年6月の第三者委員会による調査報告書では、基幹システムに欠陥があったのではなく、人員配置など運用管理面での弱さがあったことが原因とされているが、システム自体に問題があると考えるのが自然だろう。

旧3行による主導権争いとガバナンスの欠如、その帰結としての4ベンダーによる複雑なシステム─。過去21年間、システム障害や不祥事が起きるたびに、何度も何度も指摘されてきたが、残念ながらこうした問題を解決することは非常に困難のようだ。この先もつぎはぎのシステム使う限り、システム障害もガバナンスの問題も続くことになる。

システムの刷新と外部経営者がカギに

こうしたみずほにはびこる問題を一気に解決に導く抜本策は、「システムの刷新」と「外部経営者の招聘」だろう。

・システムの刷新
システムの刷新とは、総額4000億円と長い歳月をかけて、華々しく完成したばかりの現行システム「MINORI」をスクラップにすることだ。そして、新システムに乗り換えるのである。

建物で言えば、「MINORI」はリフォームと増築を重ね、中二階や隠し部屋に開かずの扉もあり、原型をとどめないほどいびつになった家のようなものだ。みずほのシステムは、この先もトラブルが続き、コストもかかることになる。リフォームよりも、更地にして一から作り直したほうが、結果的に安上がりにもなるのではないだろうか。

システム刷新の最大のポイントは、採用ベンダーを1社とすることだ。その最有力候補は、日本IBMになる。

実際、みずほFGは、自行システム運営の外注化を目指し、昨年6月末に、システム運用子会社の発行済み株式数の65%を日本IBMに売却し、日本IBM子会社となった新合弁会社MIデジタルサービス(MIDS)を設立している。また、今年7月には日本IBM理事が、みずほ銀行のIT・システムグループ副グループ長に招聘するなど、既存の4ベンダーの中でも最も親密といえる。

もっともシステムの刷新には、膨大なコストがかかる。日本IBMがみずほのために独自に新しいシステムを作るのではなく、コスト削減と納期短縮のため、三菱UFJ銀行などMUFGの採用するメインフレームをベースにすることも考えられよう。また、場合によっては、公的資金などでシステム刷新費用を賄うことも考えられるだろう。

・外部経営者の招聘
システムの刷新には、コストと時間に加え、経営陣の決断が必要だ。それがなければ新たなシステムも絵にかいた餅である。しかし、これまでの経緯を見ていると、みずほのプロパー役員や社外取締役にその決断ができるとは思えない。そこで必要となるのが「外部経営者の招聘」だ。

2003年、りそなグループが約2兆円の公的資金注入により実質国有化された際、JR東日本の副社長だった細谷英二氏をりそなトップに招き、リストラと改革を断行したことがあった。同様に、外部からの経営陣の招聘は必須事項であろう。

日本人でなり手がないのであれば、海外を含め検討するべきであろう。外国人の方がしがらみが少なく適任者が多いかもしれない。

金融当局の監督責任も問われるべき

そして忘れてはならないのは、監督官庁である金融庁の責任だ。

そもそもみずほFGへの金融庁検査は過去21年間、どう機能していたのか。形骸化し、疎かになっていたのではないか。みずほのシステム体制を把握していた金融庁の検査官や専門職はいたのだろうか。みずほの経営責任が問われるのであれば、金融庁の監督責任も当然問われるべきであり、金融庁の存在意義も問われているといえる。

これだけトラブルや不祥事が多発し、かつ、手数料の引上げなども続くことで、みずほを積極的に利用するメリットが特に見当たらない以上、口座解約など顧客離れがじわじわと広がる可能性もあろう。結果的に、ネットバンキングへの移行やリテール顧客のみずほ離れが進み、コスト改善が実現するのであれば、銀行側の思惑通りなのかもしれないが。

いずれにせよ、今回のトラブルによる顧客離れと、かねてから叫ばれていたデジタル化の遅れ、システム対応にさらに時間とコストがかかることで、ライバルである三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)や三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)との格差が拡大することになるだろう。

実際、2022年3月末の連結純利益の予想をみても、MUFGが1兆500億円、SMFGは6700億円に対して、みずほFGは5300億円に留まっている。 

不動産投資ローンの強化も?

このように劣勢にあるみずほFGでは、この先、システムとガバナンスを立て直し、反転攻勢にでるためにも、更なる収益の確保が必要となる。MUFGの半分足らずにしか満たない連結純利益をいかにして増加させて、資本を蓄積し株価上昇に繋げていくのか。

店舗や人員のリストラを進める一方、個人向けビジネスでは、特に富裕層ビジネスの強化が必要となろう。資産運用や相続・事業承継などに加え、依然として収益性が確保できるアパートローンや不動産投資ローンを強化することも考えられるのではないだろうか。

また万が一、みずほのシステム障害が続き、ガバナンスも改善されず、顧客流出が続くような事態になれば、それは他のメガバンクや地銀など競合他行にとっては、不動産投資ローンを含め、新たな取引拡大のチャンスとなるはずだ。

(高橋克英)