小さい子どもがいる家族に苦情が多い

――そういえばご近所トラブルでは、かつて大騒動になったという「ピアノ騒音殺人事件」から、最近では、元警視が隣人を刺殺して自殺するという事件がありました。穂積さんの身近な事例では、トラブルのパターンや傾向はありますか。

穂積さん 「上階に小さい子どもがいる家族が住んでいて、振動音がうるさい」という苦情が多いです。階下の人は、始終上階からの騒音に悩まされていると感じる、でも上階の人は「注意はしているけど、子どもなのだから仕方がない。生活の音だ」と主張し、険悪になっていくパターンです。

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『不動産屋は見た! ~部屋探しのマル秘テク、教えます』
(東京書籍)より。原作・文 朝日奈ゆか、漫画 東條さち子

最近、わたしが経験した例では、注意しても階下からの苦情がおさまらなかったため、上階の部屋に、防音用のマットと毛足の長いカーペットを敷いてもらいました。音を吸収して階下に響きにくくするように、オーナーの費用で施工したんです。が、それでも階下の人は騒音がやまないと訴え続けます。

――上階の人の反応はどうなのでしょうか。

穂積さん 「うちの子は2人とも女の子でおとなしいのに。それに、このごろ頻繁に下から突き上げるような音がするのだけど」と、逆に苦情を出されました。階下の人に聞くと、「うるさいときは、掃除機の部品の筒で天井をつついて知らせている」とのこと。そうして、お互いに「嫌がらせをされている」と、感情的な対立が深まって行きました。

階下の人は「うつ病」の診断書を持参のうえで「騒音が原因だ、治療費を払え」と言われ、階上の人は「神経質なだけだ。うちこそ被害者だ」と主張されました。

――お互いの主張がぶつかってしまう例ですね。どう対応されたのですか。

穂積さん たまたま、そのマンションの最上階に空室ができたので、階下の人に頼んで、最上階へ移っていただきました。家賃は最上階の方がやや高い設定でしたが、現状よりも下げて、引越費用はオーナーが出しました。

これも一つの解決策です。上階の人はしばらくして、移転されました。

ほかに、「布団をたたく音がうるさい」、「ドアの開け閉めの音が響き過ぎる。わざとではないか」、「夫婦げんか、親子げんかが絶えない」、「洗濯機の音が深夜に響いて眠れない」、「深夜に騒ぐ声がする」、「楽器の音がうるさい」、「近くにコンビニがあって、車やバイクの排気音、ドアの開け閉めの音、たむろする若者の話し声に耐えられない」などのパターンがありますが、騒音の種類はさまざまです。アパートやワンルームマンションなどで構造が簡易な建物では、「スリッパの音がパタパタ響いてうるさい!」と言う声もあります。

苦情を伝えた人の部屋番号、名前を特定されないように注意を促す

――騒音に対する苦情があれば、オーナーとしてはどう対応すべきでしょうか。

穂積さん まず、よくある方法ですが、「掲示板やエレベーターに、騒音の苦情があるという注意事項を記した文書を掲示する」ようにします。

おさまらない場合は、次に、「チラシを各戸のポストに入れる」ようにします。ただし、「騒音の発生源が分かっているからと、その戸にだけチラシを入れる」ことは避けてください。「のちに近所の噂話でそれが露呈し、居住者がオーナーに怒鳴り込んできた」という事例があります。全戸に入れるようにしましょう。

――それでもおさまらないときは……?

穂積さん 発生源と思われる人に、「複数の人から、どんどん響く音がすると聞いているのですが、そちらは大丈夫ですか。音はしませんか。困られたらご一報くださいね」と、心配を装って話しかけてみます。たいてい、さっと表情がくもられます。

これで、「えっ、それはうちでは……」と告白して謝罪する人であればひと安心、ほぼおさまります。困るのは、ここで、「○○号の○○さんでは?」と別の人を指摘したり、「わたしじゃない。証拠でもあるのか!?」と逆ギレする人ですが、この段階では様子を見るようにします。

いずれにしろ特定の人に指摘をするときは、「苦情を伝えた人の部屋番号や氏名を明かさない」のが鉄則です。いついかなるときも、オーナーや管理会社は、入居者同士がもめることがないように配慮しましょう。