ずっと告知し続けなければならないのか?

この「事前に告知する義務」とは、いったいいつまで続けるべきなのでしょうか。
穂積さんは次のように説明します。
「問題はその点です。
過去に、『10年間は告知が必要だが、誰かが一度入居したらその後は伝えなくてもいい』という判例があったことから、業界ではそう言われることもありました。

ですが、これを逆手にとった貸主による、『自分の身内や社員を書類上で半年だけ住んだことにして偽装する』という手口が横行しました。

よって業界では一概に判断せず、『事件後何年を経たとしても、借り主が心理的に嫌悪感を抱きそうだと思えば告知する』というのが通例となっています」

「ブラック物件に住むアルバイト」まであると聞くこのごろですが、現在の法律では、「事件事故後、○年は告知すること」、とか、「○人が住めば告知しなくてよい」などという規定はありません。
そのため、「裁判の判例による社会通念上の解釈」を参考にするしかない、というのが実情です。

それにしても、貸主の立場からすると、事故処理、風評被害に加えてその後の収入が途絶えるというのは最悪の状況です。

泣き寝入りを避けたいオーナーは、「借り主だった人の連帯保証人に対して、部屋の原状回復費用や損失した利益の弁償を請求する」、「トラブルになる場合は賠償責任を求めて訴訟する」という例が増えてきました。
判例では、保証人の賠償責任を認めるものの、建物の価値の減少に対する請求は棄却されるケースが続いています。

ただ、「自殺や孤立死をした人の家族ら保証人に対し、原状回復費用はまだしも、その後の損失に対する弁償を要求するのははばかれる」というのが自然な感情でしょう。
人情と被害額のはざまで、オーナーの人格が問われる場面でもあります。

『不動産屋は見た! ~部屋探しのマル秘テク、教えます』(東京書籍)より。原作・文 朝日奈ゆか、漫画 東條さち子

「おはらい」をして、家賃を安くし、事実を説明する

穂積さんは、事故物件への対応について次の提案をします。

「ある大家さんの例ですが、部屋のリフォームをして近くの神社におはらいを依頼し、借り主には事情をきちんと伝えておはらい時の写真や証明書を渡しました。
その上で、家賃を相場より格安にし、礼金はなし、敷金は0.5カ月分のみなどに設定しました。

この物件は1DKで築20年と古いこともあり、壁紙、床材、バスルーム、トイレ、キッチンなどの設備のほぼ9割をリフォームしています。
『きれいだしお得だ』と言って入居希望される方はすぐに見つかり、これまでで約5年、住み続けておられます。

現在のところ、これらの方法で入居者を募るのが一番の得策だと考えています」

また、おはらいの方法については、
「その建物がある氏神さんの神社に依頼すればいいでしょう。料金は神社に問い合わせれば応えてくれます。地域差があるでしょうが、おおよそ3~8万円でしょう」(穂積さん)。
このぐらいの出費であれば、すぐに依頼したいところです。

「事件事故物件になれば、隠しても隠し切れません。近所のうわさからすぐに露呈します」と穂積さんは断言します。

隠すと違法、隠さなくても多大なる出費と損害で、自分のほうが一家離散、自殺……ということになりかねないわけです。

事故物件にならないように、オーナーが予防する方法はあるのでしょうか。
穂積さんはこうアドバイスを続けます。

「自殺や孤立死については、国や自治体が対策を掲げているように、実のところ、近所でコミュニケーションをはかることがもっとも有効な手段だと思います。

日々、オーナーや管理会社の社員から入居者に声をかける、挨拶をする、顔色や様子をうかがう、しばらく姿を見かけないなと思えばお宅を訪問してみるなど、できるだけ朗らかに付き合うよう、オーナーとして努力しておきたいところです。

何かあれば、契約時に聞いている緊急連絡先や連帯保証人に知らせるなど、事前に対策を講じておくことも必要です」

事件事故物件には、自殺大国、孤立死が激増する日本の社会問題が背景にあります。
UR都市機構や公営住宅の一部地域では、心理的瑕疵(かし)物件であることを公表して家賃を一定期間半額にする制度もあり、注目されています。

事件は部屋で起きている――。
高齢化社会、単身者社会の日本において不動産を持つ場合、「世間がブラック物件と呼ぶ事件事故物件になる可能性はある」と想定しておくべきでしょう。
その認識こそが、オーナーの心理的瑕疵を小さくする唯一の手段ではないでしょうか。

~ 「穂積さん」の教え! ~

1.事件事故物件は、借りようとする人に対して事前に告知する義務がある。
2.隠ぺい工作をしても、近所のウワサですぐにばれる。
3.隠ぺいすると、多額の損害賠償を支払うことになる。
4.事件事故物件は「おはらい」をし、説明をした上で賃料、敷金礼金を下げて貸し出すべし!
5.あらかじめ、「事件事故物件になることもあるだろう」と想定しておく。