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クイズで学ぶ不動産の知識、今回は、賃貸住宅の管理を依頼する際の契約書に関して解説をしていきます。
賃貸住宅を管理する業者は、オーナーと管理受託契約を結ぶ受託方式と、オーナーと賃貸借契約を結ぶサブリース方式で、それぞれ異なる内容の契約書を使用する必要があります。
さらに、その管理物件に入居者が住むという段階になると、入居者と賃貸借契約を結ぶ必要がありますが、ここでも受託方式とサブリース方式とでは微妙に内容の違う契約書を使用する必要があります。
この記事では、それぞれの契約書の特徴などについて、解説したいと思います。
賃貸不動産経営管理士の資格試験を受ける方はもちろんのこと、賃貸物件のオーナーとしても知っておいて損はない知識ですので、ぜひ確認をいただければと思います。
賃貸住宅に関連する契約にはどのような種類が?
まず、物件のオーナーが賃貸管理を管理会社に委託する「受託方式」の場合は、オーナーと管理会社との管理受託契約、オーナーと入居者との賃貸借契約の2つがあります。
次に、オーナーが物件を管理会社に賃貸する「サブリース方式」の場合は、オーナーと管理会社との特定賃貸借契約(マスターリース契約)、管理会社と入居者との転貸借契約(サブリース契約)の2つがあります。

マスターリース契約が「特定賃貸借契約」のことである
標準契約書の中身
賃貸住宅管理業法及び関係法令には、管理受託契約と特定賃貸借契約について記載すべき事項が書かれています。もちろん、それを参考に一から顧問弁護士などに作成してもらうことも可能ですが、ベースとなる標準的な契約書が国土交通省から公表されているので、それを加筆修正して作る方が効率よく、使用されるケースが多いです。
ちなみに、サブリース方式の形式を採用しつつ、管理受託契約も行う場合は、管理受託契約と特定賃貸借契約を1つの契約書にまとめることができます。
管理業務とは?
「管理業務」とは、1)委託にかかる賃貸住宅の維持保全を行う業務と、2)その賃貸住宅にかかる家賃、敷金、共益費その他の金銭の管理を行う業務―の2つのことをいい、200戸以上の管理物件があると、国土交通大臣に登録することが義務付けられています。
契約書の中身をもう少し詳しくみていきましょう。
特定賃貸借標準契約書の第10条では、管理会社が行う維持保全の実施方法(管理業務の1)について規定を置いています。
(乙が行う維持保全の実施方法)
第10条 乙は、頭書(6)に記載する維持保全を行わなければならない。
2 乙は、頭書(6)に記載する業務の一部を、頭書(6)に従って、他の者に再委託することができる。
3 乙は、頭書(6)に記載する業務を、一括して他の者に委託してはならない。
4 乙は、第一項によって再委託した業務の処理について、甲に対して、自らなしたと同等の責任を負うものとする。
5 甲は、乙が管理業務を行うために必要な情報を提供しなければならない。
6 甲が、第5項に定める必要な情報を提供せず、又は、前項に定める必要な措置をとらず、そのために生じた乙の損害は、甲が負担するものとする。
※甲:オーナー、乙:管理会社
※頭書(6)は以下の記入欄となっています。
契約書を交わすときに、管理会社の方から「これについては○○」という風に記載をしていくものになっています。オーナーとしては、記載のあった内容の管理業務が行われるという認識の上で、どのような管理が行われるのか、確認するようにしましょう。
同じく第11条は、管理会社が管理業務を行う場合の費用の分担や、修繕を行う際の手順や賠償責任について定めています。
(維持保全に要する費用の分担)
第11条 本物件の点検・清掃等に係る費用は、頭書(7)に記載するとおり、甲又は乙が負担するものとする。
2 甲は、乙が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。ただし、頭書(6)で乙が実施するとされている修繕と、乙の責めに帰すべき事由(転借人の責めに帰すべき事由を含む。)によって必要となった修繕はその限りではない。
3 甲が、本物件につき乙が使用するために必要な修繕を行った場合、その修繕に要する費用は、次に掲げる費用を除き、甲が負担する。
一 頭書(7)に掲げる修繕等で乙が費用を負担するとしているもの
二 乙の責めに帰すべき事由(転借人の責めに帰すべき事由を含む。)によって必要となった修繕
4 前項の規定に基づき甲が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ乙を通じて、その旨を転借人に通知しなければならない。この場合において、甲は、転借人が拒否する正当な理由がある場合をのぞき、当該修繕を行うことができるものとする。
5 乙は、修繕が必要な箇所を発見した場合には、その旨を速やかに甲に通知し、修繕の必要性を協議するものとする。その通知が遅れて甲に損害が生じたときは、乙はこれを賠償する。
6 前項の規定による通知が行われた場合において、修繕の必要が認められ、甲が修繕しなければならないにもかかわらず、甲が正当な理由無く修繕を実施しないときは、乙は自ら修繕することができる。この場合の修繕に要する費用の負担は、第3項に準ずるものとする。
7 乙は、第 10 条のほか、災害又は事故等の事由により、緊急に行う必要がある業務で、甲の承認を受ける時間的な余裕がないものについては、甲の承認を受けないで実施することができる。この場合において、乙は、速やかに書面をもって、その業務の内容及びその実施に要した費用の額を甲に通知しなければならない。
8 前項により通知を受けた費用については、甲は、第 3 項に準じて支払うものとする。ただし、乙の責めによる事故等の場合はこの限りではない。
9 乙が頭書(6)に定められている修繕を行うに際しては、その内容及び方法についてあらかじめ甲と協議して行うものとし、その費用は、頭書(7)に記載するとおり、甲又は乙が負担するものとする。
※甲:オーナー、乙:管理会社
※頭書(7)は以下の記入欄となっています。
これも10条と同様、管理会社の作業内容が記載されます。どのような中身になっているのか、必ず確認をしておきましょう。
入居者との賃貸借契約は
ちなみに、入居者との賃貸借契約書についても、標準契約書があります。
しかも、受託方式の場合にオーナーと入居者との間で締結する賃貸借契約と、サブリース方式の場合に管理会社と入居者との間で締結する賃貸借契約書の2つが用意されています。
さらに、2020年の民法改正により、個人根保証契約の場合は極度額の明記が有効要件となったことから、家賃債務保証業者型と連帯保証人型の2種類に分けられ、サブリース方式の場合は、さらにそれに加え、定期建物賃貸借バージョンの標準契約書もあります。
○賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版・家賃債務保証業者型)
○サブリース住宅標準契約書(令和2年12月版 家賃債務保証業者型)
○サブリース住宅標準契約書(令和2年12月版 連帯保証人型)
○サブリース住宅定期建物賃貸借標準契約書(令和2年12月版 家賃債務保証業者型)
○サブリース住宅定期建物賃貸借標準契約書(令和2年12月版 連帯保証人型)
実は、民法改正前の標準契約書もあり、ちょくちょく改定が行われているので、どれが最新の標準契約書なのか、どの場面で使用する標準契約書なのか、素人にはとてもわかりにくいですね。
今現在は、上記のような契約書が標準契約書として使われているんだな、というのを認識しておいていただければと思います。
賃貸住宅標準契約書とサブリース住宅標準契約書との違いは?
上記のように、賃貸住宅標準契約書とサブリース住宅標準契約書が用意されているものの、その中身は実はほとんど同じです。
違いは、サブリース住宅標準契約書に、次の2箇条が追加されていることです。
(権利義務の承継)
第18条 甲と頭書(5)に記載する建物の所有者との間の本物件に関する賃貸借契約が終了した場合(第 13 条の規定に基づき本契約が終了した場合を除く。)には、甲は建物の所有者に対し、本契約における貸主の地位を当然に承継する。
2 前項の規定は、乙について第7条第1項の確約に反する事実が判明した場合又は乙が同第2項に規定する義務に違反した場合若しくは別表第 1 六から八までに掲げる行為を行った場合については適用しない。
3 第 1 項の規定に基づき甲が建物の所有者に対し、本契約における貸主の地位を承継する場合、甲は乙及び丙に対し直ちに通知するものとし、甲は、乙から交付されている敷金、賃貸借契約書、その他地位の承継に際し必要な書類を建物の所有者に引き渡すものとする。
(維持保全の内容等の周知)
第19条 甲は、本物件について、別表第6に記載する維持保全を実施するものとする。
2 前項の維持保全の内容に変更があったときは、甲は、乙に対し、遅滞なく、変更内容を書面又は電磁的方法により通知するものとする。
第18条は、つまり、オーナーがサブリース業者との契約をやめて、自ら直接に入居者と契約する場合の規定です。サブリース業者と入居者との間の賃貸借契約や敷金関係をそのまま、オーナーが引き継ぐことが定められています。
第19条は、サブリース業者が請け負っている賃貸管理業務の実施と、その業務内容を変更する際は入居者に通知する旨の規定です。
通常の賃貸住宅標準契約書は、オーナーと入居者が直接賃貸借契約するものを想定しているので、賃貸管理業務についての規定がありません。この場合、管理業者はオーナーと賃貸管理業務についての契約を別に締結します。
過去問題にチャレンジ
今回は管理業務などの標準契約書について、それぞれの特徴をみてきました。
では、賃貸不動産経営管理士の過去問題にチャレンジして、さらに知識を補足していきましょう。
【問題】 特定賃貸借標準契約書に関する次の記述のうち、最も不適切なものはどれか。ただし、特約はないものとする。(2021年度問34)
1 特定賃貸借標準契約書では借主が賃貸住宅の維持保全をするに当たり、特定賃貸借契約締結時に貸主から借主に対し必要な情報の提供がなかったことにより借主に損害が生じた場合には、その損害につき貸主に負担を求めることができるとされている。
2 特定賃貸借標準契約書では、貸主が賃貸住宅の修繕を行う場合は、貸主はあらかじめ自らその旨を転借人に通知しなければならないとされている。
3 特定賃貸借標準契約書では、賃貸住宅の修繕に係る費用については、借主又は転借人の責めに帰すべき事由によって必要となったもの以外であっても貸主に請求できないものがあるとされている。
4 特定賃貸借標準契約書では、借主が行う賃貸住宅の維持保全の内容及び借主の連絡先については、転借人に対し、書面又は電磁的方法による通知をしなければならないとされている。
いろいろな情報が出てきて複雑に見えますが、問題文を1つ1つ読み解いていきましょう。
それでは正解発表です。
正解は…
正解:2
設問をそれぞれ解説していきます。
1:適切
特定賃貸借標準契約書10条6項は、「甲(貸主)が、第5項に定める必要な情報(管理業務を行うために必要な情報)を提供せず、又は、前項に定める必要な措置(情報の提供)をとらず、そのために生じた乙(サブリース業者)の損害は、甲が負担するものとする」旨を定めています。
これは、貸主が借主であるサブリース業者に適切な情報を提供しなかった場合に、サブリース業者が不要な支出をせざるを得なくなること等を考慮したものです。なお、サブリース業者が維持保全を一切行わない場合は本条は不要です。
2:不適切
特定賃貸借標準契約書11条4項は、「甲(貸主)が修繕を行う場合は、甲は、あらかじめ乙(サブリース業者)を通じて、その旨を転借人に通知しなければならない。この場合において、甲は、転借人が拒否する正当な理由がある場合をのぞき、当該修繕を行うことができるものとする」旨を定めています。
通知は、貸主が自ら行うのではなく、サブリース業者を通じて行います。
3:適切
特定賃貸借標準契約書11条2項は、「甲(貸主)は、乙(サブリース業者)が本物件を使用するために必要な修繕を行わなければならない。ただし、頭書(6)で乙が実施するとされている修繕と、乙の責めに帰すべき事由(転借人の責めに帰すべき事由を含む。)によって必要となった修繕はその限りではない」旨を定めています。
借主または転借人の責めに帰すべき事由によって必要となったもの以外でも、頭書(6)でサブリース業者が実施するとされている修繕は貸主に請求できません。なお、頭書(6)には、サブリース業者が行う維持保全の実施方法実施について、その箇所・内容・頻度・委託先等を記載する欄があります。
4:適切
特定賃貸借標準契約書12条は、「乙(サブリース業者)は、頭書(1)の賃貸住宅について自らを転貸人とする転貸借契約を締結したときは、転借人に対し、遅滞なく、頭書(6)に記載する維持保全の内容及び乙の連絡先を記載した書面又は電磁的方法により通知するものとする」旨を定めています。
◇
少しマニアックな内容ではありましたね。ただ、物件を管理する上で大事なパートナーとなる管理会社との契約書ですから、ぜひともこういったものがあるんだな、と覚えておいていただければ幸いです。
(田中謙次)
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