PHOTO:KAZE/PIXTA

国土交通省が2022年3月に発表した公示地価(2022年1月1日時点)では、全国の住宅地と商業地などを合わせた全用途平均が前年比でプラス0.6%となり、2年ぶりに上昇に転じた。

また東京・大阪・名古屋の「3大都市圏」の全用途平均は前年比で0.7%上昇と、上昇幅で全国平均を上回った。そうした中でも特に注目すべきは、札幌市、仙台市、広島市、福岡市、いわゆる「札仙広福(さっせんひろふく)」の地方4大都市であろう。公示地価は全用途平均で前年比5.8%の上昇となり、全国や「3大都市圏」を大きく上回っているのだ。

なぜ「地方4大都市」の地価が抜きんでて上昇しているのだろうか。そこには、1)官民による中心地の再開発、2)外資系高級ホテルの誘致、3)周辺市町への波及、という共通した3つの特徴がある。

北海道地方における札幌市、東北地方における仙台市、中国地方における広島市、九州地方における福岡市など、各地方ブロック内の中核都市では、再開発や投資が活発化している。地方ブロック内の人やカネがこうした再開発エリアに集まり、各地方ブロックで「地方4大都市」への一極集中が加速しているのだ。以降で4大都市の現在について、順番に確認していきたい。

1.北海道札幌市

北海道最大の都市である札幌市。2022年の公示地価では、住宅地が前年比9.3%上昇、 商業地は前年比5.8%上昇と非常に高い伸び率となった。

タワーマンションの新設が相次ぐなど住宅地需要は堅調であり、住宅地の上昇率全国トップ10を札幌圏で独占した。また商業地ではオフィス需要が堅調だ。2031年春に、北海道新幹線の札幌への延伸、さらには2030年の冬季五輪招致を見据えて再開発計画が進展、これとともに地価が上昇している。再開発についての主なトピックは以下の通りだ。

■札幌初の外資系最高級ホテルが誕生へ

2022年1月、JR北海道は、札幌駅前に建設する高さ約250メートルの複合ビルに、外資系最高級ホテルを開業する方針を発表した。米ホテル大手の「マリオット・インターナショナル」と提携する。客室は約200室、2029年秋の開業予定だという。

また、NTT都市開発が建設する北海道放送(HBC)旧本社跡地の複合ビルにおいても、外資系最高級ホテルの誘致を打ち出している。いずれも、札幌初の外資系最高級ホテルの誕生となる。

北海道放送(HBC)旧本社跡地の複合ビルの完成予定パース(NTT都市開発リリースより)

■「北海道ボールパークFビレッジ」誕生で北広島市が全国1

札幌市周辺の北広島市、恵庭(えにわ)市、石狩市、江別市などでも、札幌市と比べた割安感から住宅地、商業地ともに、地価が上昇している。特に、2023年にプロ野球日本ハムの新球場を核とした「北海道ボールパークFビレッジ」が誕生する北広島市では、住宅地・商業地とも上昇率全国1位だった。

「北海道ボールパークFビレッジ」完成イメージ(公式Webサイトより)

2.宮城県仙台市

東北地方最大の都市である仙台市。2022年の公示地価では、住宅地で前年比4.4%上昇、 商業地では前年比4.2%上昇と高い伸び率となった。

住宅地は、仙台駅周辺及び鉄道駅徒歩圏を中心に、高い上昇率を示しており、郊外においても住宅需要が堅調で地価は上昇している。

商業地はオフィス需要が堅調であり、仙台駅周辺および東北大学農学部跡地の周辺では、引き続き需要が旺盛である。仙台市周辺の名取市、富谷市、大和町などでも、住宅地、商業地ともに地価が上昇している。再開発のトピックスは以下の通りだ。

■「せんだい都心再構築プロジェクト」が進む

仙台市による老朽建築物の建替えや企業立地の促進などを目的とする「せんだい都心再構築プロジェクト」。仙台駅前だけでなく、県庁や市役所のある勾当台公園付近、仙台最大の商業地の1つである一番町一帯も対象となっている。

勾当台公園と仙台合同庁舎(PHOTO:フロッグマン/PIXTA)

助成制度に加え、容積率緩和もあり、複数の再開発計画が進展している。例えばさくら野百貨店仙台店跡地開発では、高さ150メートルのオフィスと高さ130メートルのホテルの2棟を建設する計画で、2027年度の完成を目指している。

その他、仙台駅前「青葉通広場化」、ヨドバシ仙台第1ビル、仙台市新本庁舎などが計画されている。

仙台市本庁舎の完成イメージ(仙台市Webサイト

なお、仙台市にはウェスティンホテル仙台があるものの、外資系最高級ホテルはなく、今後の国際会議やインバウンドの誘致を見据えての進出計画が期待される。

3.広島県広島市

中国地方最大の都市である広島市。2022年の公示地価は、住宅地で前年比1.4%上昇、 商業地では前年比2.6%上昇となった。

住宅地では、市中心部へのアクセスに優れ住環境が良好な平坦地などで地価が上昇しているという。また商業地では、再開発による期待から、広島駅周辺で地価が上昇している。広島市周辺の海田町、府中町、東広島市においても、住宅地、商業地ともに地価が上昇している。以下、再開発に関する主なトピックを紹介する。

■広島新駅ビルには路面電車が乗り入れ

広島市でも、官民による複数の再開発プロジェクトが進行している。JR西日本が整備する地上20階建ての「JR広島新駅ビル」は2025年春に開業予定。駅ビルに広島電鉄の路面電車が乗り入れ、商業施設、シネマコンプレックス、ホテルが整備される。

JR広島新駅ビルの外観イメージ(JR西日本Webサイトより)

駅ビルには路面電車が乗り入れる予定(JR西日本Webサイトより)

中心商業地である八丁堀・紙屋町エリアでは、広島市や中国電力ネットワーク、朝日新聞などにより、高さ約160メートルの高層ビル、変電所棟、市営駐輪場を建設する予定だ。2026年度の竣工を目指す高層ビルには高級ホテルが誘致されるという。

八丁堀ではそれぞれ地上15階、16階、28階のビル3棟が2028年度までに完成する予定だ。また、紙屋町の商業ビル「サンモール」を中心とした一帯の再開発計画では、最大で地上50階建てビルの建設が検討されている。他にも、中央公園広場にJ1サンフレッチェ広島の本拠地となる約3万人収容の「HIROSHIMAスタジアムパーク」が2024年に開業する予定である。

■ヒルトン広島が今年秋に開業

広島市では、2011 年に市内初の外資系高級ホテルとして「シェラトングランドホテル広島」(2015年6月より現名称)が開業しているが、2022年秋には、「ヒルトン広島」が開業する予定だ。地上22階建てで420室の客室、また千人規模の国際会議が可能なコンベンションホールなどを備える。国際会議やインバウンド誘致にも大きな力を発揮しそうだ。

ヒルトン広島の完成イメージ(公式Webサイトより)

4.福岡県福岡市

九州地方最大の都市である福岡市の2022年の公示地価では、住宅地では前年比6.1%上昇、商業地では前年比9.4%上昇と非常に高い伸び率となった。商業地では、以下で紹介するように天神や博多駅周辺の再開発もあり、2年連続で全国上昇率トップだ。

住宅地では、天神に連なる高級住宅街を抜ける「けやき通り」や大濠公園周辺、浄水通り界隈や百道では、大邸宅や積水ハウス、三菱地所などによる高級ブランドマンションが立ち並んでいる。こうした優良なマンション用地においては数が限られ需要が競合している。

福岡市周辺の小郡市、筑紫野市、春日市、大野城市、宗像市、太宰府市、古賀市、福津市、糸島市などにおいても、住宅地、商業地ともに地価が上昇している。

■「天神ビックバン」と「博多コネクティッド」

福岡市による再開発事業「天神ビッグバン」は、福岡市中心部の慢性的なオフィスビル不足などの解消のため、2015年に始まった。特定の地域に限定し、大胆な規制緩和や税制優遇を行う制度である「国家戦略特区」に指定されている。

福岡市の中心地は、福岡空港からのアクセスは抜群な一方、あまりにも空港が近いため、航空法により建物の高さを67メートルとする制限がかけられている。そうした中、国家戦略特区による規制緩和により、航空法における高さ制限の特例承認や、福岡市独自の容積率緩和制度などを組み合わせ、従来よりも高層のビル(高さ115メートルまで)を建てられるようにした。

天神ビッグバンエリアの再開発予定(福岡市Webサイトより)

福岡市では、2024年までの10年間で30棟のビルの建て替えを誘導することで、年間8500億円の経済波及効果を生むとしている。2021年9月末に完成した「天神ビジネスセンター」では、西日本シティ銀行による富裕層向け店舗、NECやジャパネットホールディングス、米国のボストンコンサルティンググループなどが入居している。

天神ビッグバン再開発ビル第1号の「天神ビジネスセンタービル」(PHOTO:KAZE/PIXTA)

また福岡市では、「博多コネクティッド計画」も進行中だ。JR博多駅周辺では、博多阪急が入る「JR博多シティ」や「KITTE博多」などの開業も続き賑わいをみせている。「天神ビックバン」との連動と九州の玄関口として更なる発展を見込み、地下鉄七隈線延伸やはかた駅前通り再整備などとあわせ、容積率などの規制緩和により、ビルの建て替えを誘導している。

■「ザ・リッツ・カールトン」も開業予定

積水ハウスや西日本鉄道などが主体となって、「天神ビックバン」最大級の複合ビル(25階建て高さ約111メートル)が建設中である。上層階には、外資系最高級ホテルである「ザ・リッツ・カールトン」が2023年3月に開業予定だ。

大阪、東京、京都、沖縄、日光、ニセコに続き、福岡に世界最高級のブランドホテルである「ザ・リッツ・カールトン」が誕生することは、福岡が名実ともにグローバルな都市へと飛躍する大きな転換点になる。世界的な国際会議や見本市にスポーツイベントなどの誘致活動にも大いに貢献することになりそうだ。

「地方4大都市」のブランド化が加速する

このように、1)官民による中心地の再開発、2)外資系高級ホテルの誘致、3)周辺市町への波及、という共通した3つの特徴をもった札幌、仙台、広島、福岡の「地方4大都市」は、いま日本で一番元気な都市となっている。各地方ブロックの中核都市であり、交通が便利で、自然も近く、住宅など生活コストも東京など「3大都市圏」と比べれば安く、地元の人々だけでなく、転勤者や旅行者の満足度も高い街だ。

一方、マツダの城下町であり、世界遺産など観光資源もある広島を別にすれば、札幌も仙台も福岡も、大きな基幹産業があるわけでもなく、大企業の支店や官公庁の出先機関が拠点を構える典型的な支店経済であり、著名な観光資源に多く恵まれているわけでもない、との見方もある。

このため暮らしやすい街であり、元気な街ではあるが、消費の街であり、例えば、国内外の富裕層を惹きつけるような投資の街、ブランドの街ではないともいわれてきた。

しかし、「天神ビックバン」などといった再開発ラッシュにより、ザ・リッツ・カールトンのような外資系最高級ホテルの進出も決まった。こうしたグローバルブランドの進出は、「地方4大都市」のブランド価値をもう一段高めることになるだろう。

「投資が投資を呼ぶ」好循環が生まれる

札幌、仙台、広島、福岡では、官民による再開発により都市が再生されてブランド力が高まり、さらなる開発や投資が行われる「投資が投資を呼ぶ好循環」が生まれてきている。特に、市中心部や高級住宅地などは、オフィスビルや高級マンションの供給量が限定されることで、希少価値も増すことにもなる。

札幌、仙台、広島、福岡の「地方4大都市」は、東京など「3大都市圏」と比べれば、市場規模や流動性に大きな差がある。一方で、再開発により投資が投資を呼ぶ世界が続くことで、この先も魅力は増しそうだ。

(高橋克英)