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昨今、原油価格の高騰や円安、ウッドショック、住宅設備関連サプライチェーンの混乱などによって、建設業界全体で仕入れコストが膨らむ傾向にある。

また、コロナ融資の返済が今年から本格化する。返済額負担が大きくなり、資金繰りが悪化していく建設関連企業が増える可能性が考えられる。仕入れコストの上昇や資金繰りの悪化などにより、今、建設業者の倒産リスクが高まっている。

建設業界の業績は好調だが…

2021年は住宅需要の増加もあり、大手ハウスメーカーや、住宅建築メインのゼネコンは業績が好調だった。

大手住宅メーカーの大和ハウス工業は、2021年度通期の売上業績を前年比4.2%増の4兆3000億円と見込む。また旭化成グループは、住宅部門の売上高が前年同期比約21%増の6193億円(2021年4~12月)で、約1070億円の増収となった。マンション事業に特化する長谷工コーポレーションは、2022年3月期第3四半期 の売上が6260億5200万円と、前年同期比13.1%の伸びとなった。

大手ゼネコンの中には、資材価格などの高騰で大型建築案件の採算が悪化した企業があったが、長引くコロナ禍のなかでも、住宅の販売件数及び販売価格は右肩上がりが続いていることがわかる。

ちなみに2021年の全国新築分譲マンション発売戸数は、前年比29.5%増の7万7552戸で、2年ぶりに7万戸台を回復。平均価格は5115万円で、前年比2.9%のアップとなった。また2021年は、新築戸建(建売)も値上がりを続けた。2021年12月の首都圏新築戸建の平均成約価格は14カ月連続で前年を上回り、前年比14.4%増の4195万円となっている。

中小零細では利益幅縮小も

その一方、ウッドショックや輸入高、原材料高による影響で、建築事業者の仕入れコストは膨らんでいる。

昨年12月、民間の調査会社が「仕入れ単価が上昇した」企業の割合と、「販売単価が上昇した(価格に転嫁できた)」企業の割合の調査を行った。その結果、建設業では72.7%の企業が、「仕入れ単価が上昇した」と回答。そのうち、販売単価が上昇した(価格に転嫁できた)と答えた企業は31.1%にとどまった。膨らんだ仕入れコストを消費者価格に転嫁しきれていない状況がうかがえる。

大手企業や住宅建設メインのゼネコンなど、住宅需要の伸びによって比較的価格への転嫁を進められている企業は、業績に問題が出ていない。しかし、その下請けをしている零細工務店や施工会社などは、メーカーから請け負う単価がコロナ前と変わっておらず、仕入れコストを売上に転嫁できていないという問題が顕著だ。

東証プライム上場の大手戸建デベロッパーから設備工事を請け負っているある地元業者は、「住宅ブームで2020年後半からとにかく忙しくなった。コロナ禍で材料費が上がったが、請け負う単価はコロナ前と同じ。仕事はたくさんあるが、利益はどんどん薄くなっていく」と話す。

材料高のほか、ウッドショックによる建材不足、海外工場のロックダウンによる閉鎖で生じた住宅設備機器の不足など、下請け業者はコストアップや建材・設備不足に直面している。小規模な工務店やリフォーム業者の中には材料不足のため工期が見通せず、工事受注を断念するケースもあるという。

小規模企業に押し寄せる問題

さらにここにきて、業界内で「需要の減少」がところどころで見受けられるようになっている。現在は活況な住宅市場だが、価格の値上がりに消費者がついていけず、一部では販売しても売れ残っている物件が出始めているという。結果、値下げを余儀なくされるケースも増えているというのだ。

東京、神奈川エリアでの着工棟数が年間500棟ほどという、中堅建売デベロッパーの販売担当者に話を聞いた。

「昨年(2021年)は建物が完成する前に購入申し込みがあるケースも多かった。定価からの値引き販売も行っていない。しかし今年に入ってから、完成しても購入申し込みが入らず、値下げに応じて売却する物件も少しずつ増えてきた」

実際に、公益財団法人東日本不動産流通機構のデータをみると、首都圏の新築戸建(建売住宅)の成約価格は、昨年12月の4195万円をピークに、今年1月が4149万円、2月が3901万円と、わずかではあるが下落に転じている。直近の3月では4054万円とやや上昇しているが、1月の水準には届いていない。

また、昨年深刻だった新築住宅の在庫不足については、今年1月には前年比でマイナス6.6%まで回復し、2月には前年比プラス5.7%、そして3月にはプラス18%となった。

成約価格は直近では上昇しているが、在庫数が増加していることを踏まえても、市場価格は調整局面に入ったと見て良いだろう。この流れがどこまで本格化するかは未知数だが、今後の動向には注意が必要だ。

さらには、今年からコロナ関連融資の返済が本格化する点にも注目しておきたい。

報道によれば、全国地方銀行協会の柴田久会長(静岡銀行頭取)は、3月16日に開いたオンライン記者会見で、新型コロナウイルス関連の支援策であるゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)について、「2021年9月末で残高がある約40万件のうち、すでに4割で返済が始まり、今年9月末までにおよそ5割に上る見通し」と述べている。

ゼロゼロ融資の返済が始まれば毎月の固定費は膨らみ、利益幅が縮小している小規模建設事業者の経営はさらに圧迫されることになる。

新型コロナウイルス感染症の収束が未だ見通せないなか、今後、建設業者は「原材料高」、「材料不足」、「需要低下」、「ゼロゼロ融資の返済開始」という四重苦に陥る可能性もある。

建築業界のこれから

2021年は、政府のコロナ対策による金融支援などにより、建設業の倒産件数は過去30年で最少の1065件だった。

だが、需要の減少によって住宅価格が低下し、仕入れコストがさらに膨らめば、零細企業の業績は落ちていき、倒産する企業(個人事業主を含む)が増える可能性もある。

実際、企業倒産件数は徐々に上昇傾向にある。信用調査会社・帝国データバンクの調査によると、2022年4月12日現在、建設業のコロナ関連倒産は累計で370件と、飲食業(509件)に次いで2番目の多さだ。

一般個人を顧客とする小規模の建設業者や、大企業の下請け業者は、元々経営体力が乏しかったり、慢性的な人手不足などの問題を抱えていたりする。そこにコロナ禍の影響が加わり、資金繰りを維持できないケースが増えてきた。

建設業のコロナ関連倒産は多い(帝国データバンク「新型コロナウイルス関連倒産動向調査4月12日」より)

住宅を建築中に業者が倒産すると、大勢の債権者の話し合いや、法的処理が決着するまで長期間工事を再開できない場合がある。工事を再開できても、手付金が戻ってこなかったり、施工を引き継ぐ業者を自分で探さなければならないケースも少なくない。

また、新築、リフォームに関わらず、業者の倒産時点において、工事の進捗状況よりも代金(中間金など)の支払い割合が高い場合は、その分損害の割合も大きくなる。例えば、工事は2割しか進んでいないが、代金を5割支払ってしまっている場合などだ。

今後、新築住宅の購入やリフォーム工事などを予定している人は、着工依頼する企業が倒産する可能性がないか改めて確認してほしい。

(高幡和也)