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「東京一極集中」という言葉が使われるようになって久しい。

これまで、東京一極集中を解消しようとさまざまな案が検討されてきた。首都や省庁の移転も検討され、実際に埼玉県さいたま市には一部の行政機関が移転した。それでも、東京への人の流入は止まらなかった。

そんな中、新型コロナによって「東京から人が脱出している」「東京離れ」などの報道が相次いでいる。本当に東京の人口は減少しているのだろうか?

今回は、東京都全体と東京23区の人口について、総務省の「住民基本台帳人口移動報告」を基に見ていく。

なお、以降に掲載する図表は、すべて「住民基本台帳人口移動報告」をベースに筆者が作成したものだ。データは日本人の移動をベースにしているが、一部、日本人だけの統計がない(月毎の転入・転出者数)ため、外国人を含んだものがあることをご了承いただきたい。

コロナ下、東京都への転入数と転出数は?

まずはコロナ以降、東京都全体で人口はどのように増減していたのかを把握しておきたい。具体的には、3月と4月の転入・転出がどのように変化したかを見ていく。

これは、東京の人口移動が最も活発になるのが例年3月ごろであるためだ。就職や進学で上京する人が増加する半面、人事異動や就職、進学で東京を転出する人も増加し、3月と4月は1年でもっとも人の流出入が活発になる。

まず、新型コロナの感染拡大が本格化した20年3月の転入数は、前年同月比6186人(6.8%)増加して9万7317人だった。21年3月には同5260人(5.4%)減少して9万2057人となっている。

20年3月時点だけを見ると、新型コロナウイルスが転入者数に大きな影響を与えていないように見えるが、翌月の20年4月を見ると、前年同月比8563人(13.4%)減少していることがわかる。これは、企業のテレワークや大学のリモート授業が普及したことと強く関係しているものと思われる。

東京都の転入・転出者数と前年同月比増減率(総務省『住民基本台帳人口移動報告』を基に著者作成)

転出者数には、新型コロナの影響がより鮮明に表れている。

20年3月の東京都からの転出者数は前年同月比4852人(9.6%)増加の5万563人。翌21年3月は、同7279人(同13.1%)増加し、東京都から転出した人は6万2694人だった。

転入超過数には歯止めも

ここまで東京都全体の数字を見てきたが、東京都と東京23区で、実数ではどの程度の増減があったのだろうか。転入者数から転出者数を引いた「転入超過数」で見ていく。

まず20年3月の東京都の転入超過数は、前年同月比1334人(3.3%)増加の4万1902人。翌21年の3月は、前年同月比1万2539人(36.4%)減少の2万9363人だった。

20年4月は、前年同月比8560人(54.8%)減少の7049人。21年4月は前年同月比3060人(43.4%)減少の3989人だった。

このことから、新型コロナ下にあっても東京都の人口は増加していたものの、その増加には強い歯止めがかかっていたことがわかる。

東京都と23区の転入超過数と前年同月比増減率(総務省『住民基本台帳人口移動報告』を基に著者作成)

その傾向が特に顕著だったのは、21年4月の23区の転入超過数だ。

20年4月は前年同月比4900人(46.4%)減少して5667人となっていたが、21年4月はここからさらに前年同月比5525人(97.5%)減少し、わずか142人の超過数にとどまった。1か月間で23区の人口がわずか142人しか増加しないというのは「前代未聞」の事態だ。

2020年5月、転入超過から転出超過へ

しかし、本当の「東京からの人の脱出」「東京離れ」は2020年5月以降に発生した。東京都と23区の月別の転入超過数を見ると、20年5月に東京都で509人、23区で747人の転入超過数のマイナスが発生した。つまり、転入超過から転出超過となったのだ。

総務省統計局によると、これは「外国人を含む移動者数の集計を開始した2013年7月以降初、日本人移動者だけでも2011年7月以来」だ。

東京都と23区の月別転入超過数の推移(総務省『住民基本台帳人口移動報告』を基に著者作成)

その後、東京都と23区では、20年の1~4月と6月、21年の3~4月を除き、すべての月で転出超過となった。20年12月には東京都で4400人、23区で5734人、人口が減少している。

では、東京の人口は新型コロナの影響によって減少したのだろうか? 東京都と23区の転入者数と転出者数(2019~2021年)を見ると、明らかに転入者は減少し、転出者が増加している。

東京都と23区の年別転入・転出者数(総務省『住民基本台帳人口移動報告』を基に著者作成)

2019年に前年比0.9%増だった転入者は、20年に同6.1%減、21年に同3.2%減と減少し、19年に前年比横ばいだった転出者は、20年に6.5%増、21年に4.0%増と増加した。23区でも同様の傾向となっている。

それでも、転入超過数を見ると、新型コロナ下にある20年、21年でも東京都の人口は増加している。

東京都は20年に前年比で4万8201人(55.7%)減少したものの、3万8374人の超過増に、21年は同2万7559人(71.8%)減少したものの、1万815人の超過増となり、2年間で4万9189人の人口増だ。

一方で、23区は20年に前年比で4万8040人(68.2%)減少したものの、2万2421人の超過増だったが、21年には7983人の転出超過となり、人口が減少した。それでも、2年間では辛うじて1万4438人の人口増となった。

東京都と23区の年別転入超過数と前年比増減率(総務省『住民基本台帳人口移動報告』を基に著者作成)

前述したように、3月と4月の転入超過数が大きいことで、年を通じて転出超過となっても、何とか転入超過を維持することができ、人口減を免れた形だ。

2022年、東京の人口はどう動いている?

不動産は、突き詰めれば需要があるか否かで価格が決まる。それは人や会社、仕事が増えているかということだ。人が増加しなければ需要は発生せず、人が減れば不動産価格は下がる。

では、まん延防止等重点措置も解除され、人々が徐々に新型コロナ前の生活を取り戻し始めた2022年、東京の人口はどのように動いているのだろうか。

21年12月までの転出超過だった東京都は、22年1~4月の各月で転入超過となった。23区は22年1月も20人の転出超過だったが、2~4月の各月は転入超過に転じている。

22年の東京都と23区の転入超過数(総務省『住民基本台帳人口移動報告』を基に著者作成)

だが、1~4月の転入超過数は新型コロナ前の基調に比べて非常に弱い。

特に、東京に多くの人が流入する3月は、東京都の流入超過数が19年に4万568人、20年に4万1902人、21年に2万9363人だったのに対して、22年は3万3340人と21年こそ上回ったものの、19年と20年を下回っている。

23区でも3月の流入超過数は19年に3万3712人、20年3万4465人、21年2万1909人だったが、22年は2万6271人と19年と20年を下回っている。

5月以降に転出超過に陥ることはないと思われるが、新型コロナ前のように東京に人が転入する流れが戻ってくるのかは、まだまだ不透明な状況だ。

(鷲尾香一)