PHOTO:viola/PIXTA

実物不動産を小口化した金融商品の「REIT」。株式投資のように売り買いの流動性が高く、比較的少額の手元資金で投資ができる特徴がある。日本におけるREITは「J-REIT」と呼ばれ、2001年に国内初の投資法人ができた。2022年4月末時点では61銘柄が上場し、時価総額は16兆円程度の規模にまで成長している。

J-REITにはホテルを中心に投資するホテル系銘柄もある。宿泊業はコロナ禍で大打撃を受けたが、感染者数が落ち着き始め、日本でも水際対策の緩和が始まっている。外国人観光客も今後増加していくとみられるが、ホテル系銘柄に今後勝機はあるのだろうか。

J-REIT情報に特化したJAPAN-REIT.COMの代表で、「日本経済新聞」をはじめ複数の経済メディアに記事を寄稿している、関大介氏に解説してもらった。

米国10年債利回りが上昇も、J-REIT価格は安定?

新年度入りした4月以降、株式市場では乱高下が続きましたが、J-REIT価格は安定的に推移しています。J-REIT全体価格を示す東証REIT指数は5月末、4月6日以来となる2000ポイント台を回復しました。

東証REIT指数の推移(アイビー総研が作成)

そもそもJ-REITは、米国10年債利回りが上昇した場合、価格が下落しやすい傾向があります。

J-REIT市場では、主要な買越し主体が外国人投資家である、という状態が続いています。外国人投資家から見れば、元本保証がある米国10年債利回りとJ-REITの利回りとの乖離が小さい場合、J-REITを売却して米国債投資を拡大する方が適切な投資となるためです。

そうした中で5月初旬、米国10年債利回りが3.0%を超える水準まで上昇しました。4月初旬は2.3%程度であった利回りが、FRB(連邦準備制度理事会)の利上げにより上昇したのです。

それにも関わらず、前述の通りJ-REIT価格の下落幅は僅かであり、安定していました。背景には、FRBがインフレ抑制を重視していることから、景気悪化懸念が強くなったことがあります。J-REITは業績が安定しているため、景気悪化による影響が大きい株式市場から、J-REIT市場に投資資金が流入していると考えられます。

ホテル銘柄、「入国制限緩和」と「円安」による恩恵は

一方、J-REITの中でもホテルを中心に投資するホテル系銘柄は、コロナ禍の影響で宿泊需要が「蒸発」した状態になり不安定な業績が続いています。

ホテル系銘柄は6銘柄上場していますが、うち3銘柄は決算発表時点で当期の業績予想を未定とする状況が続いているのです。J-REITは業績予想の前提となる収益が不動産の賃貸収益ですので、業績予想未定は異常とも言える状態です。

しかし、6月から日本では入国者制限の緩和が実施されることになりました。入国枠は、これまでの1日当たり1万人から2万人に拡大し、入国時の検疫措置も多くの国で出国前検査だけとなります。インバウンド(訪日客)のうち、観光目的の場合には当面、ツアーだけでの受け入れとなっていますが、入国枠も含め徐々に緩和されていくものと考えられます。

さらに4月以降、大幅に円安となっていることが、インバウンド増加に繋がる可能性があります。対ドルでは3月には115円程度でしたが、5月末には1ドル=130円、6月に入っても一時、1ドル=134円まで円安となりました

例えば1泊1万円のホテルに宿泊する場合、115円ですと87ドル必要ですが130円ですと77ドルで宿泊できることになります。割安となった日本への旅行需要の拡大が期待できる状況と言えるでしょう。

ホテル系銘柄の業績は、下図の通り、コロナ禍前と比較して大幅な悪化状態が続いています。

2019年度を基準とした場合の、分配金の年度別減配率 (各銘柄公表資料を基にアイビー総研が作成)
※銘柄の並びは平均減配率の低い順。銘柄名称後の数値は証券コード

この理由は、ホテル系銘柄の大半が変動賃料の比率が極めて高いためです。他用途では、賃貸収入全体のうち変動賃料が5%を超える用途はありません。しかしホテル系では、ホテルの売上げや収益で変動する賃料の割合が、コロナ禍前の2019年では30%から50%近い銘柄が大半を占めていました。宿泊需要がなくなったため、変動賃料が発生しなくなり売上が30%以上減少し、分配金がコロナ禍と比較して大幅に減少しています。

インバウンドだけでなく、国内の感染状況も落ち着いているため国内客の宿泊需要の拡大も期待できる状況です。この点だけを見れば、ホテル系銘柄への投資は変動賃料の回復を見込めるため有望と考えられるでしょう。

ホテル系銘柄はすでに「割高感が強い」と言える理由

しかしホテル系銘柄は、すでに宿泊需要回復を大幅に織込んだ価格・利回りになっています。

賃貸収益が安定している物流系の銘柄のうち、最も低い利回りとなっている「日本プロロジスリート投資法人」と比べて、これよりも低い利回りのホテル系銘柄が5銘柄(先に示した図のうち「大江戸温泉リート投資法人」を除く銘柄が該当)もあるためです。つまり、ホテル系銘柄の価格は、将来の分配金回復を先取りして形成されていると考えられるのです。

例えば、「インヴィンシブル投資法人」(以下、INV)がどの程度、分配金回復を先取りしているか見てみましょう。INVの価格は5月末時点で4万2800円、分配金利回りは市場最も低い0.36%です。INVのコロナ禍前2019年の年間平均利回りは5.83%でした。

投資家が2019年当時と同様の利回り水準まで分配金が回復すると見越しているとすれば、「4万2800円(5月末の価格)×5.83%(2019年当時の利回り)」で、年間2495円の分配金を想定していることになります。

一方、INVの2019年度の年間分配金は3381円でした。2495円はこの73%の水準になります。言い換えればこれは、INVの価格はコロナ禍前の2019年度と比較して70%以上の水準に回復することを想定して形成されているとも言えます。

さらにインバウンドが、2019年当時の水準に回復するまでには時間を要することを考慮する必要があります。インバウンドは、2015年の2000万人程度から2018年と2019年には3000万人を超える水準まで増加しました。

しかし2019年には中国人の割合が30%程度(1000万人弱)まで高まっています。上海や北京でのロックダウンを見れば、中国当局のコロナウイルス抑え込み策は当面厳格な状態が続くと考えられます。

日本政府観光局の公表資料を基にアイビー総研が作成

仮に中国からのインバウンドがなかった場合には、インバウンドは2015年の水準までの回復しか見込めないことになります。また年間2000万人のインバウンドを受け入れるためには、前述の入国制限が1日当たり5万5000人程度まで緩和されることが必要となります。日本国内での客室数がインバウンド拡大傾向と東京オリンピックに向けて大幅に増加していたことを併せると、ホテル系銘柄の収益が2019年比で70%の水準まで回復するのは時間を要すると考えるべきでしょう。

ホテル系銘柄の価格は、感染状況が落ち着くと大幅に上昇し、感染拡大で下落する、という動きが続いてきました。

また先に挙げたインヴィンシブル投資法人とジャパン・ホテル・リート投資法人は、変動賃料だけでなく固定賃料の減免まで行っています。この先に業績が回復したとしても、また感染状況が拡大すれば固定賃料の減免を行う可能性もあります。J-REIT投資の特色である「賃貸収益を基にした比較的安定的な分配金」という特徴を大幅に毀損した銘柄となっています。したがって、この2銘柄は投資にあたっては特に慎重な判断が必要だと考えられます。

(関 大介)