イラスト:ヤギワタル
土地を仕入れて新築物件を建てる、いわゆる「土地から新築」。中古や建売を買うのではなく、イチから自分で建ててみたいと考える投資家もいるのではないでしょうか。
「土地から新築」は、区分や一棟ものを購入する場合と比べて、どのような違いがあるのでしょうか。
この特集は、「土地から新築」に興味を持つ主人公「マチコ」が土地から新築ならではのメリットやリスク、土地探しのヒントなどの基本を学んでいく物語です。土地から新築を専門に行う不動産投資家「ひーやん」さんと、一級建築士の「わん」さんが登場。初心者のマチコに、土地から新築に必要な知識をアドバイスします。
全4回のラインナップはこちらから。
物語に登場する人物
マチコ
30代会社員。独身時代に都内で居住用の中古区分マンションを購入。結婚後、マイホームを購入したのをきっかけに、区分マンションを賃貸に出す。一級建築士であるいとこのわんさんの影響もあり、アパートの新築に興味を持っている。好きな犬種はボーダーコリー。
ひーやん
「土地から新築」を専門にしている投資家。これまでに東京23区で4棟の実績があり、経験談をTwitterなどで発信している。40代のITコンサル会社員。趣味はキャンプ。飼い犬は「ダップー」。
わん
マチコのいとこの一級建築士。土地にどのぐらいの規模の建物が建つかを検討する「ボリュームチェック」に詳しい。Twitterで不動産投資家向けに情報発信しており、不動産投資家との付き合いも多い。趣味は登山、好きな食べ物はドッグフード。
※ひーやんさん、わんさんは実在の人物です。ただし、設定は一部変更しています。
◇
マチコは都内で働く30代の会社員。家賃を節約するため、20代の時に思い切って1LDKの中古マンションを購入。結婚を機に新居を構え、中古マンションを賃貸に出した。
給料とは別に安定収入が得られる不動産賃貸業の魅力に目覚め、本格的に不動産投資を始めたいと思っている。一棟ものも視野に入れるが、最近は不動産価格の高騰により高利回りの物件にはなかなか出合えない。
そんなある日、マチコのもとに、いとこで一級建築士の「わん」さんから連絡が。マチコの5歳年上で、子どもの頃から仲が良く、今でも時々連絡を取る仲だ。そんなわんさんが知り合いの投資家で「土地から新築」に取り組むひーやんさんを紹介してくれるという。
マチコは渡りに船とばかりに、わんさんの行きつけの居酒屋で2人と合流することに―。
はじめての「土地から新築」
このあたりのはず…あっ、ここかな! なかなかいい店構え~
お待たせしました! ひーやんさん、はじめましてマチコです。今日はお会いできてうれしいです!
マチコは最近、不動産投資に興味を持っているんだよね? 今日は、ひーやんさんにいろいろ聞いてみるといいよ
ひーやんさんは土地から新築で不動産投資を始めたんですよね! 私も「自分でイチから物件を建てる」という選択肢を考えてみようと思ってるんです
マチコさんも土地から新築投資のエッセンスを学んで、さらに興味を持ってもらえたらうれしいですね。まぁ、今日は肩の力を抜いてお話しましょう
あ、ちょうどビールが来たよ。のども乾いたことだし、乾杯しましょ!
ところで、マチコさんはなぜ土地から新築に興味を持ったんですか?
入居者に人気のある物件を作ってみたいなって。同じ新築でも、建て売りだと、なかなかしっくり来るものがなくて
モノづくりの精神は大事ですね。でも、投資として成功させるにはそれだけじゃダメなんです。マイホームと違って、不動産賃貸業はいかに収益を出すかが重要ですからね
ひーやんさんは、なぜ土地から新築がいいと思ったんですか?
5年前に不動産投資を始めた当初は、戸建てや区分など一通りの不動産投資を検討しました。しかし、収益性の面で「勝ち筋」が見えなかったんです
中古物件を割安に購入するには、知識や経験がないと難しいなと感じました。土地から新築なら、やり方次第で安く物件を建てて、収益を最大化できる。そう考えて、この手法にたどり着いたんです。これが私の物件一覧です。
3年半くらいの間に4棟を建てているんですね! 1棟目から土地から新築で不安はなかったんですか?
個人的には、投資歴は関係ないと思っています。土地から新築は商品を「買う側」ではなく「作る側」になるので、同じ不動産投資でもアパートを購入するのとは別物です
たしかに、区分マンションや中古アパートを所有していても、土地探しや建築の経験がある人はあまりいなそうですね
規制が多い都市部
ところで、マチコさんはこれからどのあたりのエリアで不動産投資をしようと思ってるんですか?
やっぱり理想は東京23区ですね。駅近なら賃貸需要は堅いですし。あとは神奈川とか千葉、埼玉の東京寄りのエリアでもいいですね。地価が高いからハードル高そうですが…
都市部での土地から新築は、住宅が密集している分、建物の高さなどの規制が多いので土地選びは慎重に進めた方がいいですよ。地方では土地が広く、そのような心配は不要ですが…
地価が比較的安い地域でよくみられる2階建てのアパート。地価が高い都内などでは、戸数を増やすため3階建てにする必要があるが、高さの規制も多い(PHOTO: ABC/PIXTA)
ということは、ひーやんさんの物件はすべて都内だし、苦労も多かったんですね。
はい、なかなかよい土地が見つからなくて苦労しました。都市部でアパートを新築するのはなかなか大変ですが、これから話す私の経験談が少しでも参考になれば幸いです。
身近に先輩投資家さんがいると心強いです! 土地から新築をやってこんなはずじゃなかったとならないように、リスクもしっかり把握しておきたいです。
土地から新築ならではの工程も多いです。具体的な話をする前に、ざっと流れをつかんでもらえればと思います。まず、この図を見てください
わー、やっぱり工程が多いですね! 中古物件を買う場合に比べてすごく複雑そう…
物件完成後の流れは、ほかの不動産投資と大体同じと考えてよいですが、物件を完成させるまでの過程が重要ですね
それがこの図ですね。えーと、最初はやっぱり「土地探し」から始まるんですね。ひーやんさんは、土地探しに苦労したと言ってましたけど、そもそも土地探しってどうやってやるんですか?
土地もポータルサイトで探すのが一般的ですよ。ただ、更地だけじゃなく、築古戸建てや古家付き土地として売りに出されているものを買って、建物を解体して更地にする方法もあります
更地ではなく古家付き土地などを購入し、建物を解体してからアパートを新築する方法も(PHOTO: kokano/PIXTA)
それなら選択の幅が広がりそうですね! もともと家が建っていれば、建て替え後のイメージも付きやすそうだし!
たしかにそういう面もあるんですが、接道状況によっては再建築不可の場合もあるので注意が必要です
土地から新築でそんな土地を買ってしまったら、元も子もないですね。接道要件をクリアしているかは必ずチェックしないと!
物件価格が2割安に?
それにしても、土地から新築ってやることが多いですよね。土地を探して、工務店を探して、アパートが建ったらゼロから入居者探しもしないと。それでも土地から新築を選ぶメリットって何なんですか?
完成物件を買う場合に比べて、安く物件を手に入れやすい点ですね
ひとことで言うと、事業者の利益が上乗せされないから安く買える、ということです。建売会社は一般的に、土地の仕入れと建物の建築にかかった費用に対して、2割以上の利益を乗せて販売しているケースが多いんです
2割の利益が乗っている…つまり逆に言うと、土地から新築なら建売価格より2割くらい安く建てられる可能性もあるってことですか?
はい。土地を安く仕入れて、建物を安く建てることができれば、ですけどね。実際にどれくらい違いがあるのかみてみましょう
○建売を買った場合と、土地から新築した場合のちがい
たとえば、市場に1億円で売り出されているアパートがあったとします。このうち、建売会社の利益が2割だとすると、2000万円が建売会社の利益です。土地費用や建築費用を合わせた実際の物件仕入れ費用は8000万円です。この物件の賃料収入が年間700万円として、利回りは700万÷1億円=7%となります。
自分で土地を購入して同程度の物件を新築する場合はどうでしょう。先ほどの例と同様の立地であれば土地代と建築費で8000万円がかかりそうです。ただ、市場では1億円の価値がある物件を8000万円で手に入れられるということになります。
賃料収入は700万円で変わらないので、利回りは700万÷8000万=8.75%となります。物件を安く仕入れられる分、利回りも上がります。※税金や諸費用などは考慮していません。
こんなに違ってくるんですね! 土地を安く仕入れて、建築コストを抑えた分だけ、利回りも上がるし、含み益も期待できるってことですね!
ただ、簡単にこの状態にもっていけるわけではありません。条件の悪い土地を選んでしまった場合、建築費用がかさんだり、想定した戸数が確保できなかったりするリスクもあります。同じ新築でも建売物件ならそういうリスクはありません。
知っておきたい3つのリスク
やっぱりどんな投資でもいいことばかりじゃないですよね…土地から新築でよくあるトラブルってどんなのがあるんですか?
私の経験から、代表的なものを3つ挙げてみましょう。(1)想定のボリュームが入らない(2)工務店の倒産(3)地中埋設物です。建築の話になってくるので、わんさんの意見も聞きたいですね
【リスク1:想定のボリュームが入らない】
まず、最大のリスクは想定のボリュームが入らないことです
ボリューム…? あぁ、この店の名物っていうサーロインステーキのことですか? 1キロは結構なボリュームですね。確かに1人だと食べきれないけど、3人でシェアしたらちょうどいいかも!
そうそう、この肉の写真、ボリューム満点でおいしそうなんだよね~! まだ枝豆しか注文してなかったしね…って、そんなわけないだろ!
「ボリューム」というのは、その土地にどれくらいの建物が建つかということなんだ
賃貸物件の場合、ボリュームをどれだけ確保できるかがとても重要なんです。全体の部屋数や、1部屋当たりの広さはボリュームで決まりますからね。家賃収入にも影響が出るんです
なるほど…。でも、ボリュームが「入らない」ってどういうことですか? 土地の広さなんて見れば分かるし、ボリュームもだいたい分かりそうな気がするんですけど…
それが、実際はそんなに単純でもないんだ。例えば、敷地面積が140平米ぐらいの土地でも、実際に建物が建てられるのは70平米ぐらいになってしまうこともあるんだ
え~、半分になっちゃう場合もあるんですか? それは大問題ですね
「建ぺい率」や「容積率」という言葉を聞いたことがあるでしょ? これらはその土地に最大でどのくらいの大きさの建物が建つかの基準になるんだけど、それ以外にもさまざまな規制があって、建物の高さが制限されるんだ
都市部では、高度地区などの規制により建物の高さが制限されることが多い(PHOTO: haku/PIXTA)
良好な住環境の維持や防災のためだよ。例えば、住宅が多いエリアで無秩序に建物が建ったら、高い建物に囲まれて日が当たらない建物ができてしまいかねないよね
たしかに、日当たりは重要ですね。日当たりが悪いと、洗濯物が乾かないし、真っ暗な部屋にずっといたら気が滅入りそうです
都市部の建物が密集した地域ほど、このような制約が厳しい。だから、その土地がどういった規制の対象になるのかをチェックする必要があるんだ。法律を1個読み飛ばしただけで建物の規模に大きな違いが出てくることもあるからね
なるほど~よさそうな土地が見つかったからと言って、よく調べずに購入するのは、リスクが高いんですね
ここまでのおさらい
【土地から新築の特徴】
□建売会社などの利益が乗っていない分、新築物件を安く手に入れられる可能性がある
□ただし、土地の条件次第では、土地代や建築コストが膨らんでしまう可能性も