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初めまして。税理士の和田晃輔と申します。

不動産オーナー専門税理士として、和田晃輔税理士事務所の代表をしています。私自身も不動産投資に取り組み、首都圏を中心に80戸程度を保有しています。そうした経験も生かし、不動産投資家・不動産オーナーのみなさまの税務や相続、事業承継のお手伝いをしております。

今回、不動産投資家の皆さまに税務に関する解説記事を書かせていただくことになりました。不動産投資家として、また不動産オーナー専門税理士として、不動産に関するさまざまな検討を行う中で得た、ちょっと深掘りした情報をお届けできればと考えております。

第1回目となる今回は、今年4月19日に最高裁の判決が出て話題となった、路線価などを用いた不動産の相続税評価が否認された件について解説します。

色々と騒ぎにはなりましたが、実は路線価などの否認判決が出たのは今回が初めてではありません。過去にもいくつか同種の判例があります。そして、それらの判例を紐解いてみると、以下の3つの共通点が浮かび上がってきます。

1. 相続前後での不動産の売買
2. 借入金での不動産購入
3. 相続前後の行為における節税以外の「合理性」の欠如

本記事では、過去の5つの判例を詳しく振り返りながら、この3つ共通点を確認し、そこから今後取るべき方策を考えていきたいと思います。

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最高裁判決で示された見解

2022年4月19日、路線価などを用いた不動産の相続税評価を否認する、最高裁の判決が出ました。この件については2019年8月、地方裁判所で否認判決が出た時にも話題になりました。

その後、最高裁が口頭弁論を開くということもあり、すわ下級審判決がひっくり返るのか? との期待もありましたが、結果としては、上告棄却。路線価などの財産評価基本通達に基づく相続税評価を否認した判決が確定することになりました。

今回の最高裁判決は、重要なポイントを1つ示していると考えています。それは、「時価との乖離に加えて、必要になる要件が示された」点です。これを踏まえ、今後の不動産と相続評価の問題について考えていきましょう。

最高裁判決のポイントを振り返る

まず、今年4月の最高裁判決のポイントについて、改めて振り返っておきましょう。

今回の例では、不動産の相続税評価額(約3億3000万円)と、税務署が取得した不動産鑑定評価額(約12億7000万円)に大きな乖離があり、その点が大きな話題になりました。

路線価や固定資産税評価額が、不動産の実際の時価よりも低いこと、とりわけ首都圏や容積率の高い土地ではかなりの乖離が出ることは、誰でも知っていることです。今回はその点が路線価などの否認の論拠になったことに、驚きがあったのかもしれません。また、数字で示しやすいので、センセーショナルな報道の材料としては良かったのでしょう。

ただ、実はこの「乖離がある」ということのみをもって路線価などが否認された、というわけではありません。今回の最高裁の判決を見ると、相続税計算時に路線価などを使用することを否認できるケースとして、以下のように示されています。

相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。

相続税評価額と時価との間に乖離があることに加え、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、路線価といった財産評価基本通達に基づく評価を採用しないことが認められる、と書かれています。

判決はさらに以下のように続きます。

これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない

これらを総合すると、相続税評価額と時価(今回の場合は不動産鑑定評価額)の間に大きなかい離がある、というだけでは、相続税評価額を採用できない事情には該当しない。これに加えて、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情があって、ようやく路線価などを否認することができる、というわけです。

個人的には、最高裁判決でこの点が明示されたのは良かったと思います。そして、ここで検討が必要なのは、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」の「事情」がどのようなものなのか、ということです。以降ではこれを考えていきましょう。

路線価評価を否認しうる「事情」とは?

さて、前出の「事情」がどのようなものなのかですが、これについて画一的な基準を作ることはできません。個々の事実関係や事情ごとに総合判断する必要があります。

個別の状況に応じて否認されたりされなかったりすることについて、「明確な基準がないため、物件購入などの意思決定が困難になる」という指摘がありますが、確かにその通りだとも言えます。

しかしながら、現状が完全にブラックボックスであり、一寸先は闇な状況かというとそうではありません。一定程度の目安、方向性のようなものは確認できるのです。

具体的には、相続評価の否認に関する「過去の判例」です。これらを見ていくことで、否認事例の裏にどのような個別の事情があったのか、という点を検討することができるのです。

ここからは5つの判例を検討し、否認される事情としてどのようなものがあったのか、詳しく見ていきましょう。

判例1:令和4年4月19日最高裁判決 上告棄却により納税者敗訴

これは今回ニュースになった事例です。多くの記事で解説されているので、ここでは簡単に確認します。時系列は以下のようになっています。

平成20年5月…被相続人がA銀行に相続税の相談。借入金により不動産を取得した場合の相続税額試算や、相続税の圧縮効果についてA銀行から説明を受ける

平成20年8月…孫を養子にする

平成21年1月…A銀行の融資を受け、甲不動産(8億3700万円)を購入

平成21年12月…A銀行の融資を受け、乙不動産(5億5000万円)を購入

平成24年6月…相続発生(被相続人94歳)

平成25年3月…乙不動産売却

なお甲乙不動産、および被相続人が保有していた財産のほとんどを、養子となった孫が相続しています。また相続のおおむね3年程度前に不動産を取得し、そのうち1つを相続後1年以内に売却しています。ちなみにA銀行の融資時の稟議書に、相続対策である旨が記載されていたことは報道などで話題になりましたね。

これらの不動産取得の結果、課税対象となる資産が6億円から基礎控除以下にまで圧縮され、相続税の納税を「ゼロ」にしていました。

・相続税額をゼロにまで圧縮したこと

・養子となった孫が、甲乙不動産を含む被相続人のほとんどの財産を相続し、相続税の発生をさらに1世代スキップしていること

 上記を考えると、非常に積極的な相続対策を行っていた印象があります。ご承知の通り、甲乙不動産の相続税計算上の金額が不動産鑑定評価額とされたわけです。