「限界ニュータウン」の土地を購入し、現在も所有し続ける所有者の元には、さまざまな業者から奇妙なダイレクトメールが頻繁に届きます。
土地活用や管理委託を促す内容が主で、フルカラー印刷の豪華なパンフレットが送られてくることもしばしばです。地価の下落が激しい限界ニュータウンの現状を知る人であれば、価値のない不動産に、わざわざこんな豪華な資料を送るほどの魅力があるのかと、一見して奇異な印象を受けるはずです。
こうしたパンフレットを送付する業者は、仲介手数料を収入源とするものではありません。売主(所有者)から、詐欺に近いような手法によって、管理費や測量費などの名目で手数料を徴収することで、経営を成り立たせているのです。そして、最近ではその手口が巧妙化し、法改正や税制など、もっともらしいキーワードを持ちだし、手数料をせしめようとするケースが増えています。
今回筆者は、そのような悪質な不動産業者に直接電話をかけ、その手口を調査しました。本記事では、彼らがどのような手法で不動産オーナーから金銭を得ようとしているのか、詳しく見ていきたいと思います。
限界ニュータウンオーナーの「無自覚」につけ込む
まずは冒頭で触れた、限界ニュータウンのオーナーにパンフレットを送付する業者の営業手法について振り返っておきます。
これについては以前、楽待新聞の記事で、筆者がインタビューにお答えする形で解説しました。本来は価値のない土地に対し「高く買いたいという人がいる」などと虚偽の情報を伝え、管理費や宣伝費、測量費などの名目で、金銭を要求する、というものです。

限界ニュータウンのオーナーに送られてくる、パンフレットの中面。土地の管理や活用を提案する文言が並ぶが、実際には手数料の徴収のみを目的としたビジネスモデルである(著者撮影)
こうした手口は、かつて北海道などを中心に被害が広がった「原野商法」の二次被害と共通しています。
原野商法とは、価値のない原野や山林を「将来値上がりする」などと偽って購入させる悪徳商法のことです。そして原野商法の被害者は、後になって「土地を買い取る」などと巧妙な勧誘により、新たな原野を買ってしまったり、手数料をだまし取られたりしています。どちらのケースでも、「価値のない土地を買わされる」という一次被害があり、さらにその土地を高値で売れるなどと信じ込んでしまうことで、二次被害が発生するのです。
このように手口は共通していますが、私が調査をしている千葉県の限界ニュータウンと、北海道の原野とでは、大きく違う部分もあります。
北海道の原野は、いまでは所在地の特定も困難になっているケースも多く見られますが、千葉県の限界ニュータウンは、今も住民が暮らす「現役の住宅地」です。限界ニュータウンの土地所有者は、自らが「原野商法の被害者である」という認識は持っていないのです。
メディアにせよ、注意喚起を行う国民生活センターにせよ、これらの業者による被害が報告されるたびに、ひとくくりに「原野商法の二次被害」と表記されます。この表記から連想されるのは、前述した北海道の原野や山林でしょう。しかし実際には、それ以外の古い住宅地、あるいは別荘地の所有者も、同様の手口のターゲットとなっているのです。
限界ニュータウンの所有者の中には、まだ自分の土地が売れる可能性が残されている、と考えている方もいます。そのため、被害に遭ってしまうリスクはより高いと言えるのです。
新たな手口も
冒頭で述べたように、最近では、従来とは異なる謳い文句で限界ニュータウンオーナーを勧誘する業者も現れ始めました。私の知人に、千葉県や茨城県の限界ニュータウンで土地家屋を所有している人が何人かいるのですが、彼らの元に届くダイレクトメールを見ると、従来とは毛色の異なるものが増えているのです。
私の知人はいずれも、最近になって(限界ニュータウンの現状を知った上で)物件を買っています。ですから自分の土地が高値で売れるという甘い話などないことは、当然理解しているわけです。
しかし、そんな新所有者の元にもパンフレットはお構いなしに送付されてきます。俗説として、こうした悪徳業者は、ターゲット(被害者)の連絡先が列記された名簿を所有しているとよく語られますが、実際には、おそらく定期的に登記簿の情報を確認しているものと思われます。
今回は、一例として、東京都内のある業者のパンフレットを紹介します。今から1年ほど前、主に千葉県の成田市郊外に点在する限界ニュータウンの土地所有者あてに、集中的に送付されたものです。今回、所有者の方にお願いしてご提供いただきました。

「現況報告書」と題した、近隣環境の解説。土地所有者が現況を全く把握していないことを前提とし、事実とは異なる話を列記している(土地所有者提供の資料を著者撮影)
依頼してもいないのに、突然「現況報告書」と題して送付されてきた文書。冒頭の挨拶文では、従来の「管理業務」を謳う業者の営業手法が、いかに悪質で信用ならないものであるかを熱弁しています。
「本当に草刈りや管理が必要でしょうか?」
「なぜかお金を払って管理していると聞きます。常識的には考えられず、あり得ません」
「測量や草木の伐採をしないと売れない、という売り文句で営業をする業者がいますが、測量の必要はありません。また伐採をしても、草木は生えます。意味はなし」
「近隣は建物もない荒れ地ばかり。お金をかけ、自分の所だけきれいでも全く意味がない」
この挨拶文がこき下ろしているのは、これまで横行していた、いわば「旧来の悪徳不動産業者」です。将来の売却に備えるという名目で管理費や測量費をせしめたり、伸びてしまった草を定期的に刈る「草刈り業者」に対して、悪質だと説いているのです。

長文の挨拶文。従来の「管理会社」が、いかに信用ならない業者であるか、そして知人の土地が、いかに資産価値が低く管理する価値もないものであるかを熱弁している(土地所有者提供の資料を著者撮影)
これらの文言そのものは、確かにある面では理にかなっている主張ではあります。私自身、ブログなどで同様の主張をすることもあります。
一部の限界ニュータウン所有者は今も、「草刈り業者」などの管理会社に土地の整備を委託しています。しかし、利用率が低く、建物もほとんどない分譲地の場合、今や空き地の大半が荒れた雑木林と化しています。そうした中で、1区画だけ律儀に整備を続けたところで、果たして所有者が期待する結果(売却)に結びつくものかどうか。この点は私も常々疑問を感じています。
一般の「草刈り業者」は、土地所有者からの依頼を受ける形で業務を行っているだけです。もちろん解約は自由ですし、まさか所有者を脅して管理業務の委託を強要しているわけではないのですから、これをもって全てを悪質な業者であると断じるのは暴論です。しかし、一部の土地所有者が、所有地の管理や処分に関して合理的な判断を行っていないという指摘は、一概に誤りとは言えない面もあるのは確かです。
だからといって、この妙な挨拶文をよこしてきた業者の営業手法が、真っ当なものであるとはとても言えません。
嘘だらけの「現況報告書」
旧来の営業手法を指弾する業者の狙いは、オーナーに対して「自分たちは今までの業者とは違い、信頼に足る業者である」というアピールなのでしょう。
ただこの業者のパンフレットに同封されていた「現況報告書」なるものもまた、ひどい欺瞞に満ちたものです。
今回、私は2人の知人から「現況報告書」をそれぞれお借りしました。この資料はいずれも同一の事業者が送付したものですが、どちらも同じように、現地の模様をいくつか写真に収めたうえで、それぞれ現況についての解説が加えられています。
しかしその解説は、土地の所有者が、自分の所有地の現況を全く把握していないという前提で作られています。実際の現況を知る者が見れば、あからさまな誇張や噓に満ちたものであることはすぐにわかるデタラメな解説なのです。
例をいくつか挙げてみましょう。たとえばこちらの画像では、ナンバーが外された古い車両を「放置車両」と明記し、地域の荒廃が進んでいる根拠としています。しかし実際にはこの車両は、近隣にある別の民家(居住中)の敷地内で保管されているものであり、決して放置車両ではなく、あくまで住民の私有物です。

画像上が業者の資料の画像、下は筆者が撮影した写真。パンフレット内で、ナンバーを外した軽自動車が「放置車両」として紹介されているが、実際には民家の敷地内で保管されている住民の私有物である
また資料で「不法投棄のゴミ捨て場」と明記された、コンテナが設置された敷地は、実際にはポストに社名が記載された事業所です。たしかに恒常的に利用されているようには見えないですが、ちょうど筆者の取材時に管理者と思しき男性が荷物の運び込みのためにこの場所を訪れていました。ゴミ捨て場扱いされるような状態ではなく、非常に無礼な話です。

「不法投棄のゴミ捨て場」として紹介されている区画は、実際には事業者が倉庫として使用している土地である
また資料には「周囲はほとんど空き家」などと書かれていますが、これもひどい誇張です。空き家は確かにありますが、全体の家屋の1割に満たないほどであって、多くの家屋はまだ居住者がいます。そもそもこの団地の物件は今でも地元業者が中古物件や賃貸物件として取り扱っており、価格は安めとはいえ不動産商品として流通しているものです。
また、2種類ある資料は、いずれも「危険!!まむしにご注意ください」などと書かれた貼り紙の写真が掲載され、こんな危険な土地は財産と呼べますかと疑問を呈しています。しかしこんな貼り紙は、知人も私も、まだ一度も見たことがありません。それはともかくとして、そもそもこの2種類のパンフレットは、それぞれ異なる地域の分譲地の現況を報告してあるという体裁です。にもかかわらず、この貼り紙の写真は両者ともまったく同じ画像が使い回されています。

2種類のパンフレットで、管理する価値がない根拠として挙げられている「まむし注意」の貼り紙の写真。所在地の異なる分譲地の解説をしているにもかかわらず、両者とも同じ画像が使い回されている
また、知人が所有するこの土地は、開発時に地積測量図が作成され、境界の杭も打たれている普通の分譲地です。にもかかわらず資料では、近隣にある別の分譲地が、公図上で境界の確定していない「筆界未定地」であることを理由に、知人のこの土地まで勝手に「筆界未定地」であると断定して、売却は不可能と述べています。これも事実と異なります。
細かい問題点は他にもいくつかあるのですが、この資料が終始一貫して主張しているのは、「これらの分譲地が今はいかに荒廃が進んでいて価値のないものであるか、そしてその管理を続けることがいかに無意味であるか」という事です。

パンフレットが送付されてきた知人が所有する分譲地内の模様。建物は少ないが、決して荒廃した荒れ地ではない。不法投棄場所として悪用されている実態もない(著者撮影)
そのために捏造を交えてまで力説しているのですが、これほどまでに人の所有地をこき下ろしているにもかかわらず、一方で「金額が折り合うようでしたら弊社にて直接買わせていただきます」とも書いてあり、何が言いたいのかよくわかりません。管理する価値もないと散々言っておきながら、何のために買い取るというのでしょうか。
悪徳業者に電話してみた
今回紹介したパンフレットの業者は、グーグルマップの口コミに1件、「詐欺」とだけ記載された星1つの評価がある他は、特に告発や処分を受けている模様はありません。ゆえに、この業者も同様の手法を行っているかこの場で断定することはできません。
そこで今回、試しにこのパンフレットの送付元の会社に、問い合わせの電話を入れてみました。
私はパンフレットで言及されている分譲地の土地の所有者ではないので、「私の親族宛てに、『土地を買い取る』とのパンフレットが届いた。いくらで買ってくれるのか」という形で聞いてみました。
応対した担当者はまず、パンフレットの内容と同様に、現在ではその土地はいかに資産価値がなく、処分にも苦労する「負動産」であるかの解説を一通り語ります。そのうえで、2023年4月27日より施行予定の「相続土地国庫帰属制度」による処分方法を提案してきました。

「周囲はほとんど空き家」とパンフレットに書かれているが、実際には大半の家屋は居住中である(著者撮影)
しかし、そんなことはパンフレットに一切書かれていません。詳しく聞いてみたところ、「相続土地国庫帰属制度を利用して、無価値の不動産の処分が可能になる。しかしこの制度を利用するにあたって20万円ほどの費用が必要になる。その費用を負担してもらえるのであれば、当社でその制度を利用して処分する」との説明でした。
何のことはない、勧誘文では現状買取りを謳いながら、結局はまずこちらが20万円もの費用を支払わなければ話が進まないのです。
ちなみに「相続土地国庫帰属制度」は、土地を相続した際、法務大臣の承認を受けてその土地の所有権を手放し、国庫に帰属させることができるというものです。したがって相続で取得した土地所有者本人からの申請しか認められません。
また、この制度は施行前なので実際の運用がどうなるかはまだ未知数ですが、国民生活センターが公開している解説ガイドを読む限り、国庫帰属の申請が認められる要件はきわめて厳格です。申請が認められないケースも相当数発生すると推察されます。実際には、大半の原野商法の土地が不受理となるものではないかと思えるほど厳しいものです。
前述のようにパンフレットには、知人の土地が「筆界未定地」であると決めつけて価値のないものだと断じる記述もありました。しかし、筆界未定地もまた、帰属制度の対象外であり、申請は受理されません。受理される見込みもない土地を、果たして本当に買い取って、所有者の代わりに処分するつもりがあるか否かは、もはや明らかでしょう。
結局、電話では買取価格を聞くことができなかったので、親族と相談してまた再度連絡を入れると言って話を切り上げようとしました。すると担当者は「当社も周辺に土地を所有しているので、もし管理も処分もせずそのまま放置するというのなら、あなたの土地も管理不行き届きの土地として通報せざるを得ない」などと述べてきました。これは人によっては、プレッシャーを感じかねない物言いです。
そもそもパンフレットでは、その自社所有地について、「周囲は荒れ地なので草刈などは行わず放置しているが何も問題はない、だから草刈りの必要はない」と述べているのです。実際にこの会社が土地を所有しているかは別として、終始一貫しない稚拙な主張です。このような言い回しで、土地の処分に悩む所有者の不安を煽ってきたのでしょうか。

業者のパンフレットに同封されていた新聞記事のコピー。タイムリーな話題や法改正などを、あたかも所有地に多大な影響を及ぼす重大事であるかのように騙るのが常套手段である
こうした、法改正や話題のキーワードを口実とした誘い文句は、原野商法の加害企業の常套手段です。元々この業者のパンフレットでは、原野商法の問題とは何の関係もない「森林環境税」という税制度の新設を根拠に、無価値な不動産の所有コスト増を勧誘の根拠としていました。
それが今度は、新たに布告された「相続土地国庫帰属制度」に姿を変えています。よく調べれば、それは何らの根拠となるものではないのですが、あたかも新法の成立が、所有地に多大な影響を及ぼすかのように騙って誘いかけてくるのです。
◇
古い時代に跋扈した原野商法は、今の時代では説得力を持つものではなくなっています。しかし、時代の変化とともに手口も変え、いまも存在し続けています。
大前提として、地価が下がり続けている田舎の旧分譲地に、頼んでもいないのに積極的に営業をかけてくる業者は、何かしら裏があると考えるべきでしょう。こうした利用価値の低い旧分譲地の空き地は、今では地元業者も、積極的に扱いたがらないところが大半なのです。
(吉川祐介)
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