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実物不動産を小口化した金融商品の「REIT」。株式投資のように売り買いの流動性が高く、比較的少額の手元資金で投資ができる特徴がある。日本におけるREITは「J-REIT」と呼ばれ、2001年に国内初の投資法人ができた。2022年6月末時点で61銘柄が上場し、時価総額は16兆円程度の規模にまで成長している。

米国を中心に、世界中でインフレが加速している昨今。各国の中央銀行が利上げを進める影響で景気の減速が懸念されるが、J-REITの値動きはどうなっているだろうか。

J-REIT情報に特化したJAPAN-REIT.COMの代表で、日本経済新聞をはじめ複数の経済メディアに記事を寄稿している、関大介氏に解説してもらった。

J-REIT価格の動きをおさらい

J-REIT価格は、6月中旬に株式市場と同様に乱高下しました。J-REIT全体の価格を示す東証REIT指数は、6月9日まで2000ポイントを超えて推移していましたが、10日から4営業日続落となり、15日には1880ポイントと、1900ポイント台を割り込みました。

東証REIT指数の推移(アイビー総研が作成)

急落の要因は、米国のFRB(連邦準備制度理事会)がインフレの抑え込み姿勢を明確にしたことです。6月に0.75%と、27年ぶりとなる大幅な利上げを行いました。

FRBの政策は、短期金利であるFF金利を引き上げるものです。不動産投資に関心のある読者の方々ならご存じかとは思いますが、短期金利が上昇した場合、その後の短期金利のさらなる上昇や時間経過リスクが加わる長期金利は、短期金利と同様に上昇します。

米国10年債利回りも、FRBの会合が開催されていた14日から15日にかけて大幅に上昇しました。5月末には3%以下でしたが15日には3.5%に迫る水準になりました。

今後もFRBはインフレ抑制を進める方針を明確にしていて、FF金利の大幅な上昇に伴う景気悪化懸念が強まっています。そのため、米国10年債利回りは6月15日以降低下に転じ、7月上旬には2%台に戻っています。

この動きに伴い、J-REIT価格も回復、東証REIT指数は6月下旬から概ね1950ポイント台を維持しています。J-REITの分配金は安定的に推移しているため、景気悪化に備えた投資家の買い越しが続いていると考えられます。

今後のJ-REIT価格ですが、FRBの利上げに伴い、米国10年債利回りがまた急上昇することがあれば、6月中旬のような急落もありそうです。一方で、6月と同様に米国長期金利が継続的な上昇基調とならないと考える投資家にとっては、今後もJ-REIT価格が急落する時は投資好機となりそうです。

不動産価格上昇は再加速

さて、J-REIT市場の特徴として、各銘柄(各社)の決算期が分散し、年2回決算を行うことが挙げられます。また各銘柄は、保有物件の決算期時点での鑑定評価を開示する義務があります。そのため投資家は鑑定に用いた利回りのうち、「還元利回り(キャップレート)」などを確認することができます。

5月中旬、3月/9月決算銘柄の2022年3月期決算実績が公表されました。これで2021年度下半期(2021年10月から2022年3月)の決算データが揃ったことになります。

今回はその決算データの中から、地域別に賃貸住宅の還元利回り(キャップレート)がどのように変化したのかを確認します(※1)。

このデータを確認することで、不動産価格の動向が分かります。実際の売買価格はその時点の「瞬間風速」値ですが、J-REIT保有物件は半年ごとに鑑定評価を行いキャップレートも開示しており、同一物件の価格動向が把握できるためです。

先に結論から言うと、キャップレートの低下幅、つまり鑑定価格の上昇幅は、コロナの影響を脱しています。コロナが影響した2021年度下半期は、鑑定価格の上昇が停滞していた地域もありました。しかしその後は、コロナ禍前と同じような上昇幅になっています。

またCRそのものが下がっているのに、低下幅が同じということは、鑑定価格の上昇率が高くなることを意味しています

例えばキャップレートが4.0%から3.8%に低下した場合、鑑定評価額は5.3%程度(4.0%÷3.8%)上昇します。一方で3.5%から3.3%に同じ0.2%キャップレートが低下した場合には鑑定評価額は6.1%程度(3.5%÷3.3%)することになり、鑑定評価額の上昇率が高くなるのです。

では、地域別のキャップレートを見ていきましょう。まずは三大都市圏のうち、東京都心5区(※2)、大阪市内、名古屋市内です。2021年度下半期のキャップレートは、それぞれ3.6%、4.1%、4.4%となりました。

各銘柄の決算資料を基にアイビー総研が作成

なお、上図では示していませんが、J-REITが保有する賃貸住宅のうち、最もキャップレートが低い物件は「レジデンスクイズ広尾(※3)」(東京都港区南麻布5丁目所在)の3.0%となっています。この物件は、「日本都市ファンド投資法人」が2021年10月に取得しています。2021年度下半期の物件価格の高騰を如実に示す事例となっています。

次にキャップレートの低下幅です。2021年度下半期は、前年度同期と比較して0.2%の低下となりました。傾向としては、東京都心5区と名古屋市内は、コロナ禍が影響した2020年度下半期、キャップレート低下が停滞していましたが、2021年度下半期は2019年度と同様、前年同期比で0.2%の低下となっています。

各銘柄の決算資料を基にアイビー総研が作成

続いて地方主要都市のうち、福岡市内、仙台市内、札幌市内でのキャップレートを見てみると、それぞれ4.4%、4.8%、4.6%となりました。J-REIT保有物件ベースではありますが、名古屋市内と福岡市内のキャップレートは、2020年度下半期から同じ値となっています。

各銘柄の決算資料を基にアイビー総研が作成

この要因として、物件供給状況が考えられます。人口では名古屋市内の230万人に対し、福岡市内では160万人ですが、名古屋は物件供給が多いため、J-REITが保有している物件の稼働率が他主要都市と比較すれば低い状態が続いています。このため、鑑定会社の見方として、名古屋市内は福岡市内と同様の利回が必要となっていると考えられます。

還元利回りの低下幅は、仙台の0.1%程度を除き、三大都市圏と同様に0.2%低下しました。低下幅の傾向としては、コロナ禍の影響をうけた2020年度もキャップレートが低下し続けた点が挙げられます。

各銘柄の決算資料を基にアイビー総研が作成

この要因として、地方主要都市では、テレワーク普及による賃貸需要変化への懸念が少なかったことが挙げられます。

大企業が本社を置く三大都市圏とは異なり、地方主要都市ではオフィスが支店や中小企業の本社となっています。小規模なオフィスでは、テレワークによる弊害が大きい側面がありました。したがって大都市圏とは異なり、テレワークによる賃貸需要の郊外への移動懸念が生じなかったことが、2020年度のキャップレート低下傾向に違いが生じた要因と考えられます。

※1 鑑定価格はキャップレートだけでなく、鑑定会社が判断するキャッシュフローが影響しますが、本稿では単純化するため、キャッシュフローには変化がない前提としています

※2 鑑定価格はキャップレートだけでなく、鑑定会社が判断するキャッシュフローが影響しますが、本稿では単純化するため、キャッシュフローには変化がない前提としています

※3 取得した銘柄の物件呼称は「JMFビル広尾01」となっています。鑑定評価の時点は日本都市ファンド投資法人の決算期末(2022年2月期)時点です

(関大介)