PHOTO:tokinoun/PIXTA

現在、日本の各地で、大型スタジアム・アリーナの開発が行われていることをご存知だろうか。サッカーや野球、バスケットボールなどの試合会場に加え、周辺にホテルやマンション、商業施設が併設されるなど大型の開発を伴うものもあり、地域のブランド力向上に大きく寄与する可能性がある。

今回はスタジアム・アリーナの中でも、特に民間企業が主導して開発された施設に注目した。これらの開発事業がエリアにどのような好循環を生み出しているのか、実例を挙げながら見ていきたい。

日本のプロスポーツの現状

1993年に華々しく誕生した、日本のプロサッカーリーグであるJリーグも、今年で29年目を迎えた。地域密着という観点では大成功したといえよう。しかし例えば、今どこのチームが首位で、どんな選手が活躍しているのか、具体的にスラスラ挙げられる読者は多くないのではないか。

無論、Jリーグには熱狂的なサポーターがいる。しかし、ファンの高齢化が進むなか、ファミリーで観戦する、会社帰りふらっと観に行く、といったニーズの掘り起こしや、新たなるファンの獲得が順調かと言われると、疑問符が付く。

こうした停滞感はJリーグだけの問題ではなく、日本のプロスポーツリーグ全体に言えることだ。

プロ野球は安定しているが、お馴染みの12球団での試合であることは変わらない。交流戦などはあるものの、海外での大谷翔平選手の活躍などもあり、30球団を有する米国大リーグの豊富な対戦カードを知ってしまったファンには物足りなかったりする。例えば、新潟、静岡、四国、沖縄に4球団新設して「2リーグ16球団」制とすれば、対戦カードも増え盛り上がるはずだが、既得権益が絡み進展はない。

ラグビーワールドカップ2019年日本大会の大成功のあと、鳴り物入りで誕生したラグビーのトッププロリーグ「リーグワン」は、トップ12チームのうち8チームが、東京など首都圏を本拠地とする。こうした偏りからか、いまいち人気は広がっていない。その他、バスケットボールの「Bリーグ」や卓球の「Tリーグ」などにも、誕生時ほどの勢いは感じられない。

こうした状況下、各プロスポーツリーグでは、需要に応じてチケット価格を変更する「ダイナミックプライシング」や、キャッシュレス化、シーズンチケットの販売拡大、有料ファンクラブの充実、有料放送の会員拡大、富裕層を呼び込むVIPラウンジやVIPチケットの導入などを実施しているが、まだ緒についたばかりだ。

さらに、新しいファンを呼び込もうと、日本全国で野球やサッカー、バスケットボールなど、プロチームの本拠地となる最新鋭のスタジアムやアリーナの建設ラッシュが起きている。スタジアム・アリーナと一体で、ショッピングモールやキッズパーク、ホテルなどを併設し集客することで、家族連れなどにも継続的に球場に足を運んでもらうという狙いだ。

京都・沖縄に新しいスタジアム&アリーナが誕生

2020年1月に開場した、Jリーグの京都サンガF.C.の本拠地でもある「サンガスタジアム by KYOCERA」、2021年2月に竣工したBリーグの琉球ゴールデンキングスのホームコートである「沖縄アリーナ」は、最新鋭のスタジアム・アリーナだ。

サンガスタジアム by KYOCERA(PHOTO:barman/PIXTA)

沖縄アリーナ(琉球ゴールデンキングスWebサイトより)

またJリーグのサンフレッチェ広島の本拠地となる約3万人収容の「HIROSHIMAスタジアムパーク」も、2024年に開業する予定である。

広島だけでなく、横浜(三ッ沢)、川崎、清水、佐賀など全国津々浦々で、プロスポーツの本拠地としての新設や建て替えの計画が進むものの、その多くは、国や地元の自治体が主体である。建設費を公費で賄い、所有するという従来型の公共事業の一環として行われているものも多い。

最新鋭のスタジアム・アリーナを建設し、プロスポーツチームの本拠地を誘致することは、観光客や定住人口増加、地元経済の潤いなど、地域活性化策を模索する地元自治体にとっても切り札となっているのだ。

「民間企業主導」によるスタジアムが増えるワケ

地元自治体主体でスタジアム・アリーナ建設が進む一方、本稿で注目したいのは、民間企業主導によるスタジアムやアリーナの建設である。

プロスポーツチームを保有する民間企業などが、自前の専用スタジアム・アリーナを持つには、巨額の建設費や運営費が必要となる。一方、スタジアムを持つことには、使用料の支払いが不要、広告やスタジアム内販売での制約がない、自治体など所有者との調整が不要、といったメリットもある。

例えば、この後紹介するプロ野球の北海道日本ハムファイターズは、2004年に東京から札幌に移転して以来、札幌市が所有する札幌ドームを本拠地としてきた。札幌ドームでは、1試合当たり1600万円程度、年間では約13億円の費用が発生するという。このため、自前のスタジアムを札幌市に隣接する北広島市に建設中だ。

民間企業主導による最先端のスタジアム・アリーナは、より多くのファンを呼び込み、地域活性化にも貢献する可能性が高いといえる。なぜなら民間企業主導のスタジアム・アリーナは、ビジネスとして採算がとれるのか、成長性はあるのか、自社ブランドに貢献するのか、といった合理的な観点がより重視されるからだ。国や自治体と違い、採算性や継続性が重視されるため、売上高、最終利益はもちろん、稼働率、販売価格、平均単価などをより重視した経営が行われることになる。

民間企業主導のスタジアム・アリーナの新設によって「ワクワクする」→「行きたい、観たい」→「集客力・視聴率アップ」→「入場料・放映料アップ」→「収益力アップ」→「更なる拡張・投資」という好循環を地域内で実現することも可能になるはずだ。もちろん、立派な新アリーナに相応しいレベルまで経営力と競技力を上げなければいけないのはいうまでもない。

以降では、具体的な事例として、北海道北広島市、千葉県船橋市、兵庫県神戸市、長崎県長崎市でのスタジアム開発例を紹介したい。

【北広島】「北海道ボールパークFビレッジ」

プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新本拠地として、2023年春、北海道北広島市に開業を予定している新球場「エススコン フィールド HOKKAIDO」。これを含めたボールパークエリアが「北海道ボールパークFビレッジ」である。

「北海道ボールパークFビレッジ」の開発地(2021年9月時点)。奥が建設中の「エススコン フィールド HOKKAIDO」。建設は順調で、7月中にはクレーンが撤去される見込みだという(PHOTO:トリトン/PIXTA)

新球場の収容人数は3万5000人で、開閉式屋根付きの野球専用天然芝フィールドである。グラウンドの両翼は100メートルとされ、レフト側ポール際には5階建ての複合型施設「TOWER11(タワー・イレブン)」が建設される。この施設には、温泉・サウナ・ホテルなどが入り、温泉に浸かりながら野球観戦が可能となる。

「エススコン フィールド HOKKAIDO」完成イメージ(公式Webサイトより)

所有・運営するのは、日本ハムの子会社、株式会社ファイターズスポーツ&エンターテイメント。建設費は約600億円と巨額だ。なお、建設地の北広島市は、インフラ整備費の負担、日本ハムグループへの土地無償賃貸、球場その他の周辺施設に対する固定資産税と都市計画税を10年間免除することで合意している。

ちなみに米国大リーグに多く見られる「ボールパーク」とは、野球場を核とし、賑わいや交流を創出するエリアを指す言葉だ。試合がない日でも、併設のホテルやレストラン、エンターテインメント施設などで、買い物や食事、レジャーを楽しむことができる。日本でも同じようなコンセプトの空間ができあがろうとしているのだ。

ボールパーク内にある分譲マンション「レ・ジェイド北海道ボールパーク」は2022年2月、総戸数118戸のうち、74戸の第1期販売分が完売している。その他、全9棟のプライベートヴィラ、商業施設、キッズエリア、農園エリア 、認定こども園、シニアレジデンスとメディカルモールなども順次開業予定だ。

こうした中、国土交通省が2022年3月に発表した公示地価(2022年1月1日時点)では、ボールパーク効果により、北広島市が住宅地、商業地ともに上昇率全国1位となった。特に住宅地の上昇率では、全国トップ10のうち7カ所を占めた。1位の北広島市共栄町1丁目は、前年比26%上昇だ。商業地でも上昇率全国1位と2位を独占した。

もともと、札幌市周辺の北広島市、恵庭市、石狩市、江別市などは、札幌市と比べた割安感からベットタウンとして住宅地、商業地ともに、地価が上昇していた。特に、北広島市は、札幌まで電車で16分、千歳空港まで21分という利便性に加え、今回のボールパーク効果が地価を押し上げた格好だ。

なお、開業時点では球場まで徒歩約20分の距離にある、JR北海道千歳線の北広島駅が、スタジアムに最も近い駅となる(ボールパークに直結する新駅の開業は計画されている)。また、地上18階建ての複合ビルの建設も予定されている。

【南船橋】「ららアリーナ東京ベイ」

プロバスケットボール男子Bリーグ1部の「千葉ジェッツふなばし」は、1万人を収容できる新たな拠点「ららアリーナ東京ベイ(仮称)」に移る。開業は2024年春の予定だ。

新アリーナは、「千葉ジェッツふなばし」を傘下に持つ大手IT企業のミクシィと、隣接地で大型商業施設「ららぽーとTOKYO-BAY」を展開している三井不動産が共同で建設し、合弁で運営するという。

「ららアリーナ東京ベイ」の完成イメージ(画像:三井不動産)

「千葉ジェッツふなばし」がホームアリーナとして利用するほか、コンサート、スポーツイベント、企業の展示会などさまざまなイベントに対応可能な、大型多目的アリーナとなる予定だ。

コート上部に大型の4面ビジョンを設置するほか、アリーナ前にイベント広場も整備する。JR京葉線「南船橋」駅に近く、「ららぽーとTOKYO-BAY」との相乗効果で、新たなファン層の獲得や、イベント前後の買い物や食事などの需要も見込んでいる。

【神戸】「神戸新アリーナ」

バスケットボールBリーグ2部の「西宮ストークス」は、神戸のウォーターフロント「新港突堤西地区」に建設される新アリーナに本拠地を移し、チーム名も変えるという。新アリーナは2024年に完成予定だ。

2024年完成予定の新アリーナ(画像:西宮ストークス)

新アリーナは地上5階建てで、スポーツ、音楽ライブ、国際会議などに利用される。スポーツイベントは8000人、音楽ライブでは1万人の収容を想定している。

開発事業は、NTT都市開発や、「西宮ストークス」を傘下にもつシステム開発のスマートバリューなどのグループが担う予定だ。イベントが開催できるオープンスペースや、飲食店舗、テラスもアリーナに併設されるという。

スマートバリューは、クラブの運営会社「ストークス」を子会社化するとともに、新アリーナの運営会社もグループ内に設立することで、クラブとアリーナを一体経営する仕組みを作っている。神戸では中心地である三宮でも再開発計画が進んでいる。スマートバリューは、Bリーグ1部復帰を目指すとともに、新アリーナ誕生により、集客力を高め、スポンサーを増やし、かつ、新アリーナ運営でも収益をあげて事業の拡大を図ることを目指している。

【長崎】「長崎スタジアムシティ」

長崎市では2022年9月、西九州新幹線が暫定開業となることを見据え、JR長崎駅の移転を伴う新しい駅ビル建設や、外資系ブランドホテルなどの建設が相次いで進められている。

長崎駅北側の「三菱重工長崎造船所幸町工場跡地」では、ジャパネットホールディングスが手がけるサッカースタジアムを核に、「長崎スタジアムシティ」が2024年に開業予定だ。アリーナ、ホテル、オフィス、商業施設を併設する。俳優の福山雅治さんが出演するTVCMも始まった、話題の施設だ。

長崎スタジアムシティ、サッカー専用スタジアムの完成パース(画像:ジャパネットホールディングス)

観客までの距離が最短5メートルと日本一ピッチから近いサッカー専用スタジアムは、約2万席の客席を完備。ジャパネットホールディングス傘下のJリーグ「V・ファーレン長崎」の本拠地となる。

日本初のスタジアムビューホテルが併設され、スタジアム上空を通過するジップラインの設置も予定されている。バスケットボールやコンサートなどの開催が可能な可変型のアリーナは、約6000席の客席を完備。バルコニーやラウンジを備えたオフィスビルや商業施設も整備されるという。

長崎では、西九州新幹線を起爆剤に、MICE(※)や外資系ブランドホテルに加え、サッカースタジアムの新設により、観光や修学旅行だけでなく、スポーツ、国際会議やエンターテイメントを誘致することにより、賑わいを取り戻そうとしているのだ。

※MICE…(Meeting=企業系会議、Incentive=企業の研修旅行、Convention=国際会議、Exhibition/Event=展示会・イベントの頭文字をとったもの)

民間主導のスタジアム&アリーナが好循環を生む

人口減少と少子高齢化が続く日本では、東京一極集中が進むだけでなく、地方都市のなかでも格差が広がってきている。

最先端のスタジアムやアリーナというシンボリックな大型開発が、コロナ下でも進行中であることを1つの判断材料として、宅地開発やアパート・マンション建設、商業施設の計画などが進み、多くの事業者や投資家も安心して中長期的視点で、事業継続や不動産投資を行うことができることになる。

それがさらなる不動産価値の上昇を生み、地域のブランド化や差別化を推し進めるという好循環を生むことにもなる。こうした民間主導の最新鋭のスタジアムやアリーナは、日本のプロスポーツの活性化に寄与するだけでなく、地価上昇や地域活性化にも好影響を与えることになるはずだ。

(高橋克英)