PHOTO:でじたるらぶ/PIXTA

ワンルームや1Kなど、単身者向け物件を保有する不動産投資家にとって、一人暮らしの高齢者は入居者ターゲットとして重要な存在だろう。

一方、そうした入居者がどのぐらいいて、今後どの程度増えていく見込みなのかを正確に把握しているという投資家は、あまり多くないように思われる。そこで今回は、一人暮らしの高齢者に関するデータを確認しながら、孤独死による事故物件化のリスク、また高齢者向けの住宅施策の整備状況などについて見ていきたい。

一人暮らしの高齢者は約670万人

まずは現在、一人暮らしの高齢者がどれぐらいいるのかを確認しておこう。内閣府の「令和4年版高齢社会白書」によると、2000年に約300万人だった一人暮らしの高齢者(65歳以上)数は年々増加し、2015年には約590万人、2020年には約670万人にまで増加した。

推計では今後、2030年に約800万人、2040年に約900万人に達すると見られている。賃貸不動産のオーナーにとって、高齢者はますます重要な存在となりそうだ。

65歳以上の一人暮らしの人数(『令和4年版高齢社会白書』より筆者作成)

ところが、一人暮らしの高齢者にとって、住宅の確保にはさまざまな困難が伴う。持ち家でない限りは賃貸住宅に住むことになるわけだが、高齢者の入居に難色を示すオーナーは少なくない。

2015年、「日本賃貸住宅管理協会」が管理会社308社を対象に行った調査では、オーナーのうち8.7%が単身の高齢者の、4.7%が高齢者のみの世帯の入居を拒否しているという。さらに70.2%のオーナーが「入居に拒否感がある賃貸人」として高齢者世帯を挙げている。入居を拒否している理由としては、「家賃支払いに対する不安」が61.5%、「居室内での死亡事故等に対する不安」が56.9%となっている。

では、高齢者の家賃支払い能力はどうなのか。定年退職を迎えた後は、年金生活となるなど、多くの場合で現役時代に比べて所得は減少する。厚生労働省によると、2020年度の厚生年金の年金額は、夫婦2人で月額平均約22万円。しかし、国民年金のみの場合、満額支給でも1人分は約6万5000円だ。

年金が収入の柱となった高齢者にとって、賃貸住宅の家賃は大きな負担となる。特に、国民年金受給者は年金だけでは生活が苦しい。家賃滞納に至る可能性を踏まえれば、賃貸住宅のオーナーが不安感を抱くのも理解できる。

「居室内での死亡事故等に対する不安」についても同様だ。実際、65歳以上の自宅での死亡者数は年々増加している。

東京23区内における、一人暮らしで65歳以上の自宅での死亡者数を見ると、2011年は2618人だったが、2020年には4238人と、増加が続いている。賃貸住宅のオーナーにとって、一人暮らしの高齢者の自宅死は見逃せない問題となってきている。

令和4年『版高齢社会白書』より筆者作成

「事故物件化」の懸念も

一人暮らしの入居者が自宅で亡くなったとなれば、オーナーにとっては問題だ。場合によっては所有物件が事故物件となってしまう可能性がある。その意味では、一人暮らしの高齢者への賃貸を敬遠するのはうなずける面もある。

なお、賃貸に当たって告知義務を負う、いわゆる「事故物件」について、以前は何をもって事故物件とするのかに明確な規定がなかった。例えば高齢者の孤独死では、発見時の状況などで判断が変わっていた。

そこで国土交通省は2021年10月、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定し、公表している。

ガイドラインでは、老衰、持病による病死などのいわゆる「自然死」と、例えば自宅の階段からの転落、入浴中の溺死や転倒事故、食事中の誤嚥などの日常生活で生じた不慮の事故などによる、事件性のない「事故死」については、「原則、告知義務はない」とした。

一方、告知が必要となる事象として他殺や自殺を挙げている。そこで、一人暮らしの高齢者の自殺件数についても見ておきたい。厚生労働省・警察庁「令和3年中における自殺の状況」によると、60歳以上の自殺は減少を続けている。

厚生労働省・警察庁『令和3年中における自殺の状況』を元に著者作成

2011年に1万1661人だった60歳以上の自殺者は、ここ10年間では2020年を除き減少し、2021年には7860人となっている。背景は定かではないが、自殺による事故物件化のリスクは減少傾向にあると言えるかもしれない。

オーナーが知っておくべき、告知のルール

話をもう一度国土交通省のガイドラインに戻そう。

同ガイドラインでは、自然死や事件ではない事故死が発生した場合で、「長期間にわたって人知れず放置されたこと」などによって、いわゆる「特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合」は、告知すべき事象に該当するとしている。

「長期間」という具体的ではない、曖昧な期間を、「特殊清掃や大規模リフォーム等を実施せざるを得ない状況」という形で定義している。つまり、特殊清掃や大規模リフォームなどが行われないケースについては、「孤独死ではない」と判断できるということだ。

そのうえで、告知期間については、「概ね3年間は告知が必要とし、3年を経過した後は必要なし」としている。

さらにガイドラインでは、マンションやアパートの共用部分での死亡についての告知の取扱いも示されている。ロビーや玄関といった、日常生活で頻繁に使用する共用部分での自然死・不慮の死は告知義務があるが、日常生活で使用しない共用部分では、特殊清掃等が行われた場合も含め、「原則、告知義務はなし」となっている。

ガイドラインには、まだまだ曖昧模糊とした部分も多い。そのうえ国交省は、同ガイドラインについて「対応を行わなかった場合、直ちに宅地建物取引業法違反となるものではない」としている。民事上の責任の位置付けについても、「ガイドラインに基づく対応を行った場合でも、民事上の責任を回避できるものではない」としているため、あくまでも目安に過ぎない。

それでも、これまで明確な基準がなかった中、1つの指針が示されたことには意義があると言えよう。高齢者、特に一人暮らしの高齢者を入居者として迎え入れるオーナーにとって、ガイドラインの策定は大きな進展だったのではないだろうか。

高齢者、住宅問題のいま

ここで、政府が進めてきた高齢者向けの住宅関連施策「セーフティネット住宅」についても触れておきたい。

セーフティネット住宅は、高齢者や低所得者など、独力での住居確保が難しい人(住宅弱者)の住環境の改善を促すために整備された住宅だ。2017年に施行された「改正住宅セーフティネット法」に基づき、空き家を賃貸住宅に改修するための補助金制度や、住宅弱者の入居を支援するための居住支援協議会が創設された。政府は、セーフティネット住宅の登録基準を緩和するなど、入居の促進を進めている。

セーフティネット住宅は、特定の業者による登録が大半を占めるなど問題点も指摘されているが、一人暮らしを含め高齢者の賃貸需要は、今後も増加していくはずだ。賃貸住宅のオーナーにとっては、検討に値する制度ではないだろうか。

日本賃貸住宅管理協会の「賃貸住宅市場景況感調査」によれば、65歳以上の高齢者の平均居住期間は6年以上が60%を超えており、圧倒的に長いというのは注目すべき点である。

立地や築年数など、希望条件が狭くなりがちな若者や単身者と違い、高齢者は家賃の安さを重視し、居住地域や建物へのこだわりは強くないと思われる。高齢者、特に一人暮らしの高齢者への賃貸は、工夫次第では空室率の改善と安定的な賃貸経営に結び付く可能性が高いと言えそうだ。

高齢者の家賃支払いに対する不安については、受給している年金が厚生年金か、国民年金かを把握できればである程度は回避できるのではないだろうか。また、国交省のガイドラインを前提にすれば、入居している高齢者の安否をこまめに確認できる仕組みを作ることで、「告知義務」が発生するような死亡を回避することも可能だと思われる。

(鷲尾 香一)