住宅団地の専用水道設備(千葉県成田市内、著者撮影)

2022年3月16日に発生した福島県沖地震は、福島県、宮城県内の各地に大きな被害をもたらしました。

中でも深刻だったのが「断水」です。水道管の破断によって、広い地域が断水に見舞われました。もちろん、損傷した水道管はその後、随時復旧が進められていきました。ところがそんな中、仙台市郊外のとある住宅団地だけが、水道復旧のめども立たず、給水車による生活用水の確保を強いられました。その様子は、地元メディアを中心に大きく報じられました。

復旧が行われず、断水状態のまま放置されていた理由は、この住宅団地に敷設された水道が「私設水道」だったためです。そしてこの問題は、私が普段調査している、限界ニュータウンとも深い関わりがあります。今回は、この「私設水道」の問題点について考えていきたいと思います。

「私設水道」とは?

私設水道とはその名の通り、公共のものではない、民間の事業者などが管理・運営する水道のことです。家庭などで使われる水道は、自治体が管理・運営するケースが一般的ですが、後述するようなさまざまな事情から、私設水道を日常的に利用している世帯が存在します。

冒頭の仙台市の水道網も、仙台市が管理・運営する公共の水道網ではなく、この団地の開発造成を行った管理会社が運営する私設水道でした(断水状態のまま放置された理由については、後述します)。

こうした私設水道は、全国各地の、市街地から離れた住宅地や別荘地などでよく見られます。

公共の上水道の給水区域外の住宅では、敷地内に掘削した井戸で生活用水を確保するケースが一般的です。しかし開発分譲地の場合、私設水道の設備をもって「上水道完備」と謳い、分譲販売が行われていた背景もあり、公共の上水道から切り離された独自の水道網が今でも運用されています。

冒頭の仙台の住宅団地も、公共水道の給水区域外に開発された住宅地でした。そのため、団地独自の配水場が設置され、私設水道として独立採算で運営されていたわけです。

ちなみに、私が調査のフィールドにしている千葉県北東部の限界ニュータウンも、その多くが公共水道の給水区域外に位置しています。私設水道を設けて運営しているところは珍しくありません。

水道の維持管理費については、多くの場合、住民による管理組合法人が給水世帯から、管理費や施設負担金として徴収します。これにより、排水設備の維持管理を行っているのが通例です。

集中井戸・浄化槽設備を抱える住宅団地の規約看板。建築にあたっての注意事項や負担金の詳細が記されている(千葉県芝山町内、著者撮影)

ところが現在、この私設水道を抱える多くの住宅団地において、設備の維持管理を巡ってさまざまな問題が発生しているのです。

「私設水道」が抱える深刻な問題

前述の仙台市内の住宅団地が断水状態のまま放置されていた原因は、管理会社の資金不足でした。

開発造成を手掛けた当初の開発会社は、地震発生の時点ですでに破綻していました。しかし、住民からの要望を受けて、団地の水道の管理業務だけは続けていたのです。

ただし、平時のメンテナンス業務程度ならまだしも、被災した水道管の復旧工事を行うほどの体力は管理会社には残されておらず、住民からの復旧の要望に応えられませんでした。住民は仙台市にも支援を求めましたが、市当局は、民間の水道施設への公金投入は難しいとの立場を崩しませんでした。

一方、千葉県の自治体では、こうした住宅団地の私設水道に、一定額の補助金を支出している所もあります(成田市や富里市、山武郡芝山町など)。

これらの自治体は、公共の水道網が整備されていない地域が広範にわたるために、住民サービスの不公平感を緩和するために補助金を支出したのだと思いますが、いずれにせよ仙台市の住宅団地同様、私設水道は慢性的な運営資金不足に悩まされているのが実情です。

集中井戸を運営する住宅団地において、所有者が管理費を滞納している区画。既定の管理費を収めていない区画へ建物を建築する場合、滞納分の精算を求める管理組合が多い(千葉県成田市内、著者撮影)

「設備の老朽化」で加速する財政悪化

こうした管理組合法人の財政状況を悪化させている最大の要因は、設備の老朽化です。

私設水道を運営する住宅団地は、古い所では開発から半世紀が経過しているところもあります。水を各世帯に送る役割を持つ配水場の設備も、地中に埋設された水道管も、もはや耐用年数が限界を迎えています。しかしながら、私設水道の運転資金に充てるための管理費は、実際に水道管を敷地内に引き込み、給水を受けている世帯からしか徴収することができないという問題があります。

例えば限界ニュータウンでは多くの場合、いまだ建物が建たない更地を多数抱えています。建物の数は、総区画数の1~5割程度しか存在しないのが普通なのです。例えば500区画への給水を想定した規模の配水設備が、実際には100世帯から徴収した管理費のみで運営せざるを得ないとなれば、資金不足に陥るのはむしろ必然といえるでしょう。

以前、成田市内のとある限界ニュータウンの取材を進める過程で、住民の方から、私設水道を巡る深刻な現状についてお話を伺う機会がありました。

この方の団地では、計測される配水量が、実際の給水世帯数と照らし合わせてあまりに過大な量になっている、といことがあったそうです。

埋設された水道管のどこかが破損して、漏水が起きているのは確実(調査のため全世帯同時に水道の使用を停止しても止まらなかったそうです)なのですが、その漏水個所がどこであるか特定できません。そのため、現時点ではそのまま放置せざるを得ないのだそうです。このままでは、揚水ポンプにも余計な負荷がかかり続けることになります。

仮に水道管からの漏水が地表に噴出しても、今度は水道管の位置の特定に手間がかかります。団地を造成した開発業者は倒産して久しく、今となっては正確な水道管の埋設状況が把握できる図面が残されていません。過去に工事を行っていない個所では、水道管の正確な位置がいまだ判明していないのです。そのため水道管の工事を行うために、まず地面を掘り返して、掘り進めながら水道管を探し当ててから作業を開始するという、にわかには信じがたい手法が取られているのが実情なのだそうです。

またその住民の方は、予算面の都合でどうしても工事費用の安い業者に依頼せざるを得ず、その工事の質が非常に低いことも問題のひとつとして挙げられていました。修復工事が完了し、舗装路の埋め戻しを行った個所が、その後しばらくして陥没してしまう事例が度々あるそうです。

なお、私設水道を抱える住宅団地の多くは、排水設備も私設で運用するケースが多くなっています。一般的に「集中浄化槽」と呼ばれる下水道処理施設です。

この集中浄化槽もまた、上水道同様、設備の耐用年数が限界を迎えている住宅団地が多いのです。それを、わずかに補填される補助金の他は、すべてその団地の住民の負担のみで運用しなければならないのですから、これは並大抵の話ではありません。

維持管理が困難となり、利用が停止されたまま放棄されている集中浄化槽設備。共有設備を放棄せざるを得ない住宅団地は今後増加する可能性がある(千葉県山武市内、著者撮影)

したがって、上下水道設備の両方を、団地専用の施設で賄っている住宅団地の管理費(使用料金)は、ほとんど例外なく、一般の公営の上下水道の料金よりもかなり割高な金額になってしまっています。

私が見聞きした限りでは、上下水道あわせて、月額7000円~1万円程度であるケースが多いようです。ちなみに、こうした私設水道の使用料金はほとんどが定額制で、一般の公営水道のような従量制料金のものは皆無です。

価値下落という深刻な副作用

こうした管理面や料金面における諸問題を抱え、料金の値上げによって糊口をしのいでいる住宅団地は、深刻な副作用にも悩まされています。周辺地域に比べ、物件価格が安めに抑えられてしまうケースが見受けられるのです。

開発当時の1970年代初頭頃、周辺地域では上水道や集中浄化槽を使用した水洗トイレなどはまず見られませんでした。そのため、当時は購入者に対するアピールポイントとなっていたのですが、そうした設備が、今や割高な固定費の元凶となっています。そして、その管理費の負担分を見越した価格査定が行われてしまうのです。

これは売買だけでなく、賃貸についても同様です。賃料に加え、この固定費を含めた総額が、周辺の賃料相場に合わせてあります。

更地の場合は、水道使用料の名目での費用の徴収は行われていません。ただ、少しでも多く運転資金をプールする必要があるためか、私設水道のある住宅団地や分譲地は、水道管の引き込みの有無を問わず、区画所有者に対し、月1000円程度の管理費の請求を行っていることが多いです。

その対価として、管理組合は区画の草刈り業務などを請け負っていたりしますが、当然、すべての区画所有者が、利用のあてもない所有地の管理費を負担してくれる保証はなく、中には長年にわたって管理費が未納となっている区画もあります。

仮にこうした管理費未納区画を新たに取得して利用する場合、次の取得者に、前所有者の滞納分の精算を求められます。公平性の観点から仕方のない措置とは言え、これが、ただでさえ流動性の低い限界ニュータウンの更地の流動性をますます押し下げるものとなっている可能性は否めません。

それでも、もともと限界ニュータウンの物件価格は高くありませんし、あるのは更地ばかりで建物の数は多くありません。戸建の賃貸物件の供給が限られているエリアでは、よほど悪条件の物件でなければ、収益物件として運用すること自体は十分可能であるとは思います。

ただ注意しなければならないのは、少なくない住宅団地において、その耐用年数が既に限界近くに達していること、そして、冒頭で述べた仙台市の住宅団地のように、ひとたび災害によって大きな被害を受ければ、場合によっては再起不能となる可能性もあるものだということです。

もっとも、個別井戸や個別浄化槽にしても、ある程度は初期費用やランニングコストを要しますので、どちらが良いのかは各個人の考え方にも左右されるでしょう。

ただし私設水道は、自分一人の判断で管理できるものではないという視点は、投資、実需を問わず、購入を検討するうえで重視しなければならない点だと思います。

なお、その物件が私設水道であるか否かは、物件の取扱業者が地元の業者であれば、尋ねれば教えてもらえるケースが多いと思います。私設水道は例外なく管理費が発生するので、ていねいな業者であれば物件情報に記載しているでしょう。

ただし、例えば何かの事情で、地元ではない遠方の業者が扱っている場合は、事情を詳しく知らずに公営の水道と混同しているケースがあります。この場合は、管轄の水道局に地名を伝えて、当該の物件の地域が配水エリアであるか確認する、あるいは現地を見て確認するということになります。

ちなみに私設水道を運営する団地では、団地内に、新築工事の際の納入金や注意事項を記載した看板を立てているケースが多いですので、これも1つの目印となるでしょう。

(吉川祐介)