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不動産投資をする上で、「サンタメ」という言葉を聞いたことはあるだろうか。不動産会社には仲介会社や買取会社だけではなく、「サンタメ業者」というものが存在する。不動産購入時に転売目的の仲介会社から「サンタメ契約」を持ち掛けられることがあり、物件の内容によっては買主にとって不利になるケースもある。

だが、この「サンタメ」。いったいどのようなものなのだろうか。今回はサンタメという言葉を聞きなれない初心者投資家のために、サンタメの内容やメリット・デメリット、注意点などについてできるだけわかりやすく解説していく。

サンタメとは

サンタメは、漢字では【三為】と書き、「第三者の為にする契約」のことを指す。例えば、売主Aと買主Bとの間での不動産売買において、Bが第三者であるCに不動産の所有権を直接取得させる方法として利用される。ざっくりとサンタメの流れを表現しよう。例えば、サンタメを主に利用する不動産会社Bが、売主Aから土地を買い、顧客であるCに転売したいケース。通常の流れでいくと、以下の2つの所有権移転が行われる。

・AB間の不動産売買
所有権移転 売主A→買主B(サンタメ業者)

・BC間の不動産売買(転売)
所有権移転 売主B(サンタメ業者)→買主C

本来であればAB間の不動産売買では売主Aから買主のサンタメ業者Bへ所有権移転登記を行い、その後、BC間の売買でサンタメ業者Bから新たな買主Cへ所有権移転登記を行うことになる。当然ながらその都度、登記費用(登録免許税・司法書士費用など)や不動産取得税が発生する。

ところがサンタメ業者Bは、登記費用や不動産取得税を節約するため、AB間での所有権移転登記を行わず、AからCへ直接所有権移転登記を行う方法をとることにした。この場合はAB間の契約からすればCは第三者の存在である。

AB間の所有権移転登記を行わないため、所有権は売主Aのままであるにもかかわらず、BC間の取引は他人物売買として行う。他人物売買自体は、民法第537条に【第三者の為にする契約】として記載されており、取引として民法上は問題ない。

○参考
民法第537条 第1項

契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。

第2項 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存在しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。

第3項 第1項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

サンタメの主な流れとしては以上の通り。要約すると売主Aからサンタメ業者Bへの所有権移転をすっ飛ばし、第三者Cに対して直接所有権を移すやり方だ。

他人物売買は民法上問題ないとはいえ、こうしたサンタメのやり方自体は宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)に抵触しないのだろうか。以下で解説していきたい。

中間省略」は禁止?

過去に、このサンタメのやり方は「中間省略」と呼ばれてきたが、2005年3月7日に施行された新しい不動産登記法以降、中間省略登記は事実上認められなくなった。2022年の現在でも原則として、宅建業者が他人物売買を行うことはできないとされてはいる。

ただし、2007年7月10日の宅地建物取引業法施行規則の改正で、例外として認められることになった。宅建業法 第33条の2及び宅建業法施行規則 第15条の6 第4号に記載されている内容をクリアできていれば、宅建業者が他人物売買を行うことが可能となっている。

○参考
宅建業法第33条の2

宅地建物取引業者は、自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

第1号 宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得する契約(予約を含み、その効力の発生が条件に係るものを除く。)を締結しているときその他宅地建物取引業者が当該宅地又は建物を取得できることが明らかな場合で国土交通省令・内閣府令で定めるとき。

第2号 当該宅地又は建物の売買が第四十一条第一項に規定する売買に該当する場合で当該売買に関して同項第一号又は第二号に掲げる措置が講じられているとき。

宅建業法施行規則 第15条の6 第4号(宅建業法第33条の2の国土交通省令・内閣府令で定めるとき)

当該宅地又は建物について、当該宅地建物取引業者が買主となる売買契約その他の契約であって当該宅地又は建物の所有権を当該宅地建物取引業者が指定する者(当該宅地建物取引業者を含む場合に限る。)に移転することを約するものを締結しているとき。

先述したAB間及びBC間のサンタメのケースで説明すると、宅建業者がサンタメを行う際の具体的な要件としては以下の通りとなる。

■AB間の売買(売主A・買主B・第三者C)

【1】AB間の売買契約書に特約等で本契約が第三者の為にする契約である旨を明記する。このとき買主は、売買対象物件の所有権の移転先となる者を指定し、その指定と売買代金全額の支払いを条件として直接移転する旨も記載しておく。

【2】AB間の売買契約書に、所有権の留保について明記する。例えば、買主が売買代金の全額を売主に支払った場合でも、買主に所有権が移転しないことなどを契約事項として記載しておく。

【3】AB間の売買契約書に、売主が買主に対して、本物件の所有権移転を受ける旨の意思表示の受領権限を与える旨を記載する(受益の意思表示の受領委託)

本来は買主が売主に対して【所有権を取得する】という意思表示をする為、真の買主である第三者Cが売主Aに対して意思表示をしなければならなかった。ところが、受益の意思表示の受領委託をすることで、第三者Cは買主Bに対して意思表示をすれば足りるようになる。本来、売主Aが持つ意思表示の受領権限を買主Bに委託する形だ。

【4】AB間の売買契約書に、買主の所有権の移転債務の引き受けについて記載する。これは、本来、BC間の売買でBがCに対して負う所有権移転債務を売主Aが引き受けることを意味する。つまり、売主AがCに直接所有権を移転する債務を負う、ということを明記したものとなる。

■BC間の売買(登記名義人A・売主B・買主C)

【1】BC間の売買契約書には、第三者弁済について明記する。これは、他人物売買によって本物件の登記名義人(以下「名義人」)が売主Bとは異なる為、名義人であるAが売買代金を受領した際に名義人AはCに対して直接所有権の移転を履行するものであることを記載する。売買代金の流れとしては、CがBに支払い、BはAに対して支払う(順序は前後するケースもある)。

【2】BC間の売買契約書に、AB間の売買契約の債務(売買代金の支払いと所有権移転など)をあらかじめ定めた決済及び引渡し日までに履行し、名義人AがCに対して持つ抗弁権を除去する旨を記載する。

抗弁権とは同時履行の抗弁権のことで、本来、双務契約で当事者の一方が債務の履行をするまでは、もう一方は債務の履行を拒むことができる(例えば買主が売買代金を支払わない。売主が物件を引渡さない、といった状況のとき)。

今回、名義人Aは買主Cに直接所有権を移転し、Cは売主Bに売買代金を支払う為、同時履行の関係にならない。そのため、こうした問題を予め特約等で解消しておくことになる。

以上がサンタメをする際の主な要件となる。

ACが互いにAからCへ直接所有権を移転する取引を認識し、合意している。こうした場合に宅建業者のサンタメ契約が可能になっている。一般的には、売買契約書の特約や合意書等に先述した内容の文言を入れて対応していることが多い。

サンタメのメリット・デメリット

サンタメは、サンタメ業者Bだけではなく買主Cにとってもメリットとなる場合がある。

○メリット

・登録免許税、不動産取得税、司法書士費用等が節約できる

・サンタメ業者Bが登記費用を節約することで買主Cへの売買代金を安くできる場合がある

・サンタメ業者Bに不動産を買えるだけの資金がなくてもサンタメにより転売できる可能性がある

サンタメ業者にかかる経費が減ることで、その分を売買代金から差し引いてもらえる場合はある。ただし、サンタメ業者は転売によって売却益を得ているため、買主Cの購入代金にはサンタメ業者の利益分が上積みされているという点は否めない。

このように、サンタメにはメリットだけではなくデメリットもあるため注意が必要だ。

○デメリット

・転売による買主Cの売買代金増加

・AB間の売買契約が解除された場合、BC間の契約が宙ぶらりんになってしまう

・初心者にはサンタメ業者による詐欺が見極めにくい

・サンタメ業者Bの登記記録が登記簿謄本に残らない

せっかくBC間で売買契約を締結していても、その後に何らかの理由でAB間での契約が白紙解除になる可能性もある。

この場合、通常であればBC間の契約も白紙解除をしてCは手付金を返してもらうことになる(契約内容によっては手付金の倍返し)が、仲介会社Bが手付金をCに返還せずにそのまま逃げてしまうといったリスクも考えられる。

また、サンタメ業者は「第三者の為にする契約」と「他人物売買」を利用するため、もし悪徳業者だった場合はまったく無関係の人の所有物を「売主Aと売買契約をした」と偽って買主Cへ取引を持ち掛ける可能性もある。

Cが不動産投資の初心者だった場合は、契約締結までの過程で悪徳業者だと気づきにくいこともあるのではないだろうか。

できるだけAB間の売買契約書や登記簿謄本(登記事項証明書)などをチェックさせてもらい、リスクを軽減しておきたい。

サンタメの注意点

先述したように、サンタメは中間の登記を省略できるといったメリットがある反面、登記簿謄本にサンタメ業者の登記内容が残らず、登記簿上はA→Cの所有権移転が記載されることになる。また、他人物売買として行うため、詐欺にあうリスクもはらんでいる。

もし買主Cの立場で不動産を購入する場合は、必ずAB間の売買契約書の内容を確認させてもらい、売主Aが本当に所有者なのか登記簿謄本(登記事項証明書)を確認しておくとよい。また、AC間で直接所有権移転を行うことの合意書を作成していない場合は合意書を作成するか、AB間及びBC間の売買契約書に他人物売買に関する文言を特約として入れてもらっておきたい。

基本的にサンタメはまずAB間での売買契約を行い、その後にBC間の売買契約を締結する。先述したようにもしAB間でモメ事があり白紙解除になった場合はBC間の契約にも影響してくるため、手付金の授受や違約金の額等については契約前にしっかりと売主A及びサンタメ業者Bと協議しておく必要がある。

また、BC間での売買契約において、契約不適合責任については売主が宅建業者(この場合はサンタメ業者B)で買主Cが一般の個人又は法人(非宅建業者)の場合は、買主に不利な特約をつけてはならない(宅建業法 第40条)。そのため、目的物の引渡し日から2年以上経過した場合の特約を除いて、売主サンタメ業者の契約不適合責任を免責する特約は無効となる点も注意しておきたい。

不動産購入時に業者からサンタメ契約を持ち掛けられたときは、事前にAB間及びBC間の売買契約書内容を確認させてもらい(AB間の売買代金は伏せられるケースがほとんどだが)、第三者の為にする契約や他人物売買に関する文言が入っていない場合は、合意書を作成してもらうなどして対応しておきたい。もしそれでも不安なときは、売買契約書や対象不動産の登記簿謄本、公図といった資料を持って、宅地建物取引業協会や不動産協会に相談してみるとよい。

ただ、そもそもサンタメの場合、転売による利益が乗っかり、収支が合わない、思うようにCFが出ない、という可能性もある。価格が相応か、などの確認も必要になるのではないだろうか。

(長野久志)