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国税庁が公表した「所得税基本通達」の改正案が、ネット上で物議を醸している。

改正案は、年間300万円以下の副業などの収入について、原則として「雑所得」として扱うというもの。これまで副業収入を「事業所得」として申告し、節税を行ってきたサラリーマンなどへの影響がありそうだ。

一方、不動産の賃貸収入は「不動産所得」にあたるため、不動産オーナーへの直接の影響はないとみられる。ただし、節税を封じるための国税庁の動きの1つとして、知っておいた方がよいだろう。

 「事業所得」と「雑所得」のちがいは

副業収入が「事業所得」ではなく「雑所得」として扱われると、所得間で赤字と黒字を相殺する「損益通算」ができなくなる。赤字の場合にほかの所得と損益通算が可能な所得は、原則として不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4種類に限られているからだ。

「副業(事業所得)を赤字にして、給与所得から差し引くことで所得税を減らす」といった節税を行ってきたサラリーマンなどにとっては痛手となる可能性がある。

今回の改正案をめぐっては、SNSで「サラリーマンが副業で節税しにくくなる」といった趣旨の投稿が拡散されるなど、関心の高さがうかがえる。

まず、今回の改正案について、もう少し詳しく確認していこう。

国税庁は今月1日、所得税基本通達の改正案を公表し、パブリックコメントの募集を始めた。所得税基本通達の改正案では、副業で得た収入の所得区分について、以下のように記載している。

事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

副業で得た収入が300万円以下の場合は、原則として「事業所得」ではなく「雑所得」として扱うということが読み取れる。

そもそも、事業所得と雑所得はどのような違いがあるのだろうか。国税庁は以下のように定義している。

事業所得とは、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得」を指す。

一方、雑所得は「利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得および一時所得」のいずれにも当たらない所得を指す。

例えば、公的年金、非営業用貸金の利子、副業に係る所得で、本業が文筆業でない人の原稿料などが雑所得にあたるとされる。

「副業で赤字」の節税スキームが横行

このように定義されている「事業所得」と「雑所得」だが、今回の改正の背景には、副業などの所得を「事業所得」にするか「雑所得」にするかについての区別が難しいという事情があるようだ。

今回の改正案についての投稿がTwitterで話題を呼んでいた和田晃輔税理士に話を聞いた。

和田税理士によると、サラリーマンなどが副業で得た収入が事業所得と雑所得のどちらに該当するかは、税務署が諸事情を考慮して判断することになる。ただ、明確な基準がないため「専門家でも判断が難しい」のが実情だ。

一方で、近年は副業する人が増加。ブログなどのアフィリエイト広告収入やフリーマーケットアプリのメルカリなどでの物品販売などもその一例だ。

サラリーマンの場合、副業の所得が20万円を超えると確定申告が必要になる。個人で確定申告をする人の中には、副業収入を「事業所得」として申告している人も多いとみられる。

事業所得は、給与収入などとの「損益通算」が可能なため、副業で赤字が出た場合は所得税の負担を減らせる。和田税理士によると、副業するサラリーマンの増加を背景に、近年は事業所得を意図的に赤字にして所得税を減らす節税スキームが横行している。

和田税理士は「こうした行為は脱税にあたるが、野放しになっているのが現状。基本通達の改正はこうした現状にメスを入れる狙いがあるのだろう」と指摘する。

雑所得は「損益通算」も「青色申告」もできない

改正が行われた場合、どのような影響が考えられるだろうか。

事業所得と雑所得の最も大きなちがいは、ほかの所得との「損益通算」ができるかどうかだ。

例えば、給与所得が400万円で、副業の収入から経費を引いた所得が30万円の赤字だったとしよう。副業が「事業所得」となる場合、損益通算後の所得は370万円となり、所得が減る分の税金を抑えられる可能性がある。一方、副業が「雑所得」となる場合は、損益通算ができない。

また、事業所得の場合は、事業者向けの申告納税制度である「青色申告」の対象となり、10万~65万円の「青色申告特別控除」を受けられる。青色申告の対象となるのは、事業所得、不動産所得、山林所得のみであり、雑所得は青色申告の対象とならない。

では、不動産投資家への影響はあるのだろうか。アパートなどの賃貸収入は、「事業所得」ではなく「不動産所得」にあたる。物販など不動産賃貸業以外の事業所得がある場合を除けば、不動産投資家へ影響はほぼないと考えてよいだろう。

 改正案のパブリックコメントは今月末まで受け付けている。改正後の基本通達は「令和4年分以降の所得税」から適用される見通し。該当する所得がある場合は、来年3月の確定申告から対応が必要になりそうだ。

(楽待新聞編集部)